上 下
13 / 29
オーストラリア奪還計画

第十二話「新たな住人」

しおりを挟む
 神崎邸に新しい同居人が現れました。その娘は少し小柄で細身、少しウチに巻いたミディアムヘアの髪の色と同じ青色の大きな眼鏡をかけた、見た目もその雰囲気もいわゆる文芸少女の様。

 彼女も津田穂月もそうなのだが、屋敷の事をよく手伝って下さる。別にそんな事は私達の仕事なのでしなくて良いと誰が言おうと二人共頑固に手伝いを辞めないため、いつも私達が折れている。

 「優香さん、おはようございます」

 朝は屋敷の廊下を掃除していた所にいつも彼女は声を掛けてくる。本田綾乃がここに住まう事になって今日で五日目の朝だが、毎日同じ時間に起きてくるとても健康的な生活をしている娘だ。

 「おはようございます綾乃さん」

 私は一度その手を止めて、彼女の方を振り返り軽く会釈をしながら挨拶を返す。もうこのやり取りも五回目で慣れてしまった。

 「綾乃さん、本日のご予定は何か?」

 そして私が予定の確認を行う。ここまでは、少し言い回しが違うかも知れないが毎日同じ様なやり取りをしている気がする。しかし今日は土曜日なので彼女に学校は無いのでここからの返答はいつもとは違うだろう。

 「今日は学校がお休みなので、これから街の方まで行こうと思っているんです」

 嬉しそうに彼女は私にそう告げてくれた。そう言えば今日の彼女の服装は既に寝間着から着替えている。日本の国土人口減少により街と道以外はその殆どが山や森になっており、他県に比べればまだ東京は自然化は薄いが学校や家の周りは自然に囲まれている。

 「お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 そして私は彼女をお見送りした。

 その時はまだ単なるメイドの優香には何故本田綾乃がこの屋敷に住むことになったかまでは知らされていなかった。もし知らされていたのならここで本田綾乃を引き止めていただろう。

 嬉しそうに屋敷を出た本田綾乃を、凝視する男。その後腕に巻いた通信機器を口元まで持ってくる。

 「あの屋敷の人間に他に青髪はいない、という事は…。ターゲットが屋敷の外へ出た。これより尾行を開始する位置情報を確認して交代地点を確定してくれ」

 男は仲間と共に本田綾乃の誘拐を企てていた。少し経つと同じ通信機器を腕に巻いた仲間と交代して怪しまれないように尾行する。屋敷の人間が見回っている範囲を抜けた所で捕らえ、山奥にある拠点まで運ぶ。

 「ターゲットも神崎定進と同じ学校の生徒である以上何らかの異能があると予想される。警戒して確保するんだ」

 誘拐を実行する道路に待つ車両。その中で待機する男三人の持つ通信機器から聞こえて来るのは集団の指揮者の声だ。

 「了解。ターゲットに接近する」

 尾行をしていた男はそう言って本田綾乃との距離を縮め、それは車の中からでてきた二人から逃げられない様に逆側から挟む為にだった。
それを見て車を本田綾乃の横につける。

 「よし、準備完了」

 車に乗っていた二人の男は勢いよく飛び出して、尾行していた男と共に本田綾乃を確保に動いた。本田綾乃の能力は思考加速であり、即座に状況は理解出来た。逆に自分が絶望的な状況に置かれている事も分かってしまった。力ない彼女に為す術もなかった。

 車に乗せられ人一人いない道を更に奥へ抜けて森の奥深くを目指して走っていく車。携帯電話は取り上げられてしまった。身体は束縛具で拘束されて身動きは取れない上に目も塞がれた。状況を打開する為には怖がっている暇があるなら逃げ出す為に情報を得なければならない。

 「にしても簡単に誘拐出来て良かった。戦闘系の能力なら勝てなかったかも知れないしな」

 その発言から分かるのは誘拐をした者達に秀でた戦闘能力は無いと言う事。でもこれはか弱い本田綾乃が抜け出すためには役立たない。

 「この前別の仲間が津田穂月を誘拐しようとした時は直ぐに撃退されてしまったみたいだが、今回奴はいない。十分時間はあるから遠くまで運べるな」

 神崎定進と何かしらの関係を持てば危険が及ぶとは聞いていたが、まさか五日目で誘拐に遭うとは予想していなかった。しかし、目的はやはり神崎定進と戦う為の人質だろう。

 「でもこの女結構可愛いよな?ちょっとくらいイタズラしてもいいかな?」

 それは本田綾乃が一番聞きたくない発言だった。

 「まだ辞めておけ。確かに生きてさえいれば神崎定進に有効に使える。それに酷い目にあった事を知れば尚のこと奴は言うことを聞くだろうけど、とりあえずアジトに着いてからにしろ」

 どれくらいの時間車で移動しているかは分からないが、その移動が終わって誘拐犯のアジトにつけはめちゃくちゃにされてしまうのだろう。その話を聞いてからはもうどれだけ考えても恐怖で頭が埋まってしまう。そんな事想像もしたくない。

 恐怖に支配た本田綾乃はあれからもうどれほど経ったかも分からないし、まだ東京に居るのかも分からない。視覚情報がない為時間の検討もつかないまま車は停止した。

 「ほら、大人しく降りろ」

 どこかで抜け出さなければならない。建物の中に入る前に抜け出した方が良い。使ってしまえば神崎定進の身動きが取れなくなってしまう。強姦されてしまうだろうし、生きて捕まっているよりも死んでしまった方がまだ良い。

 何も見えない中本田綾乃は勇気をだして走り出した。見えない恐怖と戦いながら。

 「おい!捕まえて麻酔を投与しろ!」

 手を縛られて目隠しで走る本田綾乃はフラフラで、男達は直ぐに追いつき、抵抗する本田綾乃に無理矢理麻酔薬を投与した。

 彼女の意識は薄れて、消える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...