79 / 81
二学期
一人の気持ち
しおりを挟む二学期になって半月ほぼ経ったある日の昼休み、呼春二人でお弁当を食べながら、部室に誰も来ていないと話した。
「て事は和くんは今毎日一人で部活してるって事?」
驚いた様子の呼春はさらに質問を続ける。
「どうしてあの二人は来なくなったの?」
清水さんのことは正直には言えない。折角あの日呼春と恋人になったのに、清水さんを放って来た事が知られれば呼春は多分その事を気にする。
「九頭竜先輩は他にやる事があるらしくて、清水さんは…清水さんも忙しくて部室には来れないって」
やはり本当の事は言えず咄嗟に嘘をついた。
「じゃあ、部室には私が行くから、これで一人じゃない。でも、部室には勉強しに行くだけだから、和くんは部活頑張って」
呼春は少し悲しそうな笑顔でそう言った。それを見て心が苦しくなる。
「それより、作ってくれたお弁当やっぱり美味しいね」
急いで話を切り替えても昼休みはそれ以降、少し悲しそうな様子は変わらなかった。
放課後、昼休みには嘘をついてしまったとは言え、いつも一人だった教室に呼春が来てくれるのはやはり嬉しかった。
「あぁ、久しぶりだなぁってやっぱり一人なんだね」
呼春は昼休みの時とは違い単純に嬉しそうに部室に入ってくる。
「そう言えば、昼休みはどうして悲しそうにしてたの?」
「私が一年生だった年の半分くらいはずっと一人で部活をしてたから寂しいのを思い出してた」
呼春が一年生で文芸部に入部した時には、清水翔と同い年の生徒は卒業しており、残っていた上級生は清水翔と同じ部活に入りたいという理由の者ばかりで、みんな直ぐに辞めてしまい、九頭竜緋茉莉が入部するまでは、結果一人で部活動をしていた。
みんながいなくなる寂しさも、一人で部活をする寂しさも鶯谷野呼春は知っていた。昼休みはそれを思い出していた。
「でも、掃除とかしていたら面白い物も見つけたので良かった事もありましたよ?」
自分の席から、呼春が一年生の時に書いていたお話の原稿用紙を取り出して見せる。
「もしかして、それ見たの?」
慌てた様子の呼春。
「あはは、とってもいいお話でしたよ?」
ニヤけが抑えられずにいた。
「あぁ、もう最悪だ。返して!返してくれないと帰るし、もう来ない!」
十分恥ずかしがる顔は見れた。大人しく原稿用紙を手渡しして、呼春が帰るのを免れた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話
赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。
「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」
そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる