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魔王死空は血に染まる。残る刃は天地を穿つ

ルヒィアの想い

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ルヒィアは知っていた。エルドラの命を使わずとも、神アスティルの力を借りれば魔王ガヴァを倒せた事を。誰も死なぬままに事を済ませられた事を。

しかしながら、ルヒィアはあえてそれをしなかった。
女神ルヒィアの知る所、神アスティルの力は絶大な物に至る。
それは人には大き過ぎる力だと判断するだろう。アスティルがセンに力を授ける代わりに要求するのはその自我。その自我の代わりにセンの肉体は力を得ることになる。

それではセンが神の力を得た事にはならない。そうなればセンと言う人格は死んでしまう事になる。
女神ルヒィアはセンを喪いたくなかった。その為にセンに神の力の事を教えなかった。

そして、きっとセンならば魔界の主ティルムと契約を果たし、その力を手に入れる事が出来たが、命を引き換えにする契約をさせたくはなく、エルドラを魔界へと行かせた。恐らくもうそこ事について薄々センも感づいているだろうと思っていた。

「ルヒィア、降りてきてほしい」

「言いたい事は分かっています」

「思っている通りだろう…」

「ですが、私はそれを認める訳にはいきません!」

センはきっと神界へと連れて行って欲しい筈、そこで神を殺す。確かに神をも殺せる程の力をセンから感じる。

しかし、同様に神も今のセンを殺す事が出来る。
このままではいけない。

「お願いだ!行かせてくれ」

それはできない。今のセンには勝てる確証がない。

「今のままでは、勝てる確証がありません!殺せないのに神の元に連れて行く事はできません!」

「でも、俺は神を殺すんだ…」

センは力なくそう囁くように言葉を落とした。

神に勝つ方法を知っている。その方法ならば、確実に神に勝つ事ができる。
しかし、センの背負う重荷をもう、ルヒィアには背負えなくなる。
ここでお別れとなる。

「少し…目を瞑っていてください」

センはその言葉を素直に受ける。
それはルヒィアとセンの信頼から、センはルヒィアがしようとしている事を察し、信じていた。
そしてセンは、何も見ぬままに空気が変わったのを感じる。

「私はこの世界で貴方だけが大切です…」

センの唇に、ルヒィアの唇が合わせられる。
唐突な出来事に、センは動けなかった。

しばらくして、その唇同士は離れていく。

「私の力を全て貴方に授けました。これで貴方は神に支配されない存在でありながら、神の力を無効化できます…これならば貴方は神に勝てます」

ルヒィアは力をさずける時にキスをしたが、その必要はなく、ただ触れ合うだけで良かったが、ルヒィアは一度だけでもキスをしてみたかった。
ルヒィアはそうする事で女神ではなくなるのだった。

「もう目を開けても良いですよ」

センが目を開いた時、目の前のルヒィアは既に亡骸となっていた。
ルヒィアの持つ力は、ルヒィアの命その物であったのだ。
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