上 下
30 / 88

朝と出会いと私の事情

しおりを挟む
 ふぃー。お金がある朝って良いですね。おはようございます、ユキヒロです。
 昨日手に汗にぎる商談は夕方まで続き、ボールペンは金貨1枚で売ることに。実はそれ以上を提示されたんだが、この見えているインクが無くなったら使えなくなりますから!!と、自分から提示された額を下げた。永遠に使える魔法のペンみたいに思われて詐欺扱いされたら困る。
 正直、ボールペンなんて使い切った事ないから、どれくらい持つかわからないし。大体いつも途中でどこかになくなる。あれは見えない妖精さんに持っていかれやすい物体だ。おのれアリ○ッティめ。

 ちなみにウチの見える妖精さんであるフローリアとは、もう魔石を取りに、肉体ダイブ(物理)をさせない事と、5日間食事に果物を用意することで、なんとか合意に達した。
 とりあえず俺の部屋にある物品で、金の心配はしばらく所なくなった。魔石に関しては保留ということでいいだろう。将来的にはなんとかしたいが。
 ほんとに昨日の一件まで、自分のポケットが、おにぎりとおかず専用ゲートという固定概念に囚われていた。ジャンパーのポケットを通るものは、いろいろ持ち出せるんだよな。由香里ねーさんのおにぎりの魔力のせいだな。仕方ないね。とはいえ、あのグレイス邸の時点でこれに気づけば、一線を踏み越えなくてすんだのに、と昨日はちょっと血の涙を流しかけた。
 つか俺この世界来てから泣きっぱなしだ。妙に涙腺がもろい。こんなんじゃ、そのうちクライマジシャンユキとか異名を付けられてしまうかも。シロネコユキ? 知らない子ですね。

 で。衣服を元の世界から取り出して着替えようかと思って、持ってるものをテーブルの上に並べて気づいた。なんでギルドカードの性別が女になってんだ!!

 あの職員さんめ、性別をちゃんと確認してカード作ってくれよ!!。まあこんな容姿をしている人に性別はなんて質問を投げるのは勇気がいるというか、正直正気を疑われるか。

 すでに見た目という点で俺は完全に女の子になってしまっていた。膨らむ様子のない胸と、無くなる様子のないマイサン、外見上の違いはそれくらいだろうか。

 俺も頭おかしくなってたから、登録名ユキにしちゃってるしな。途中で記入をやめるのは虚偽でないと判断したのか、それとも、あの混乱時の俺が自分をユキと100%思い込んでいたから、誤認したのか? どちらにせよ、問題なのは俺の現在の公式証明書の性別が女という事実。

 今なら、あの時の記載まちがってたんで修正してください!!。と行けば直してもらえるかもしれない。そうするとですね……いつもドレス着て、うふふとか言ってたのは何だったんだという話になるわけだ。

 というわけで、冒険者ユキです。うふふ。もう知らんこれで行く。

 つか盛大にバレたグレイス城砦都市からまだ指名手配が掛からないな。娘に淫行を働いたってあのおっさんが手打ちにくるかとも思ったんだが。あの狼どもを狩ったんでお目こぼしをしてもらえたんだろうか。それならラッキーだ。その為に俺がやったって証拠をひっそり残そうと、武器を残してきた甲斐があったってもんだ。
 
 しかし、新しい服も買わなきゃなあ、女装で押し通すにしても着たきりスズメでいるわけにも行かないのだが。ちなみにもう10日くらいスズメさんだ。ただ例の異常な新陳代謝の低下によって汗臭かったり、汚れが出るみたいなのは無いんだよね。そしてまだ髪は伸び続けている。この、呪いの人形じみた体質はなんか理由がありそうなんだが。この世界の事すら良くわかってないからホントわかんないことだらけだよ。

 とりあえず、朝ごはんがあると聞いたから食堂の方に行くかね。さっき宿の下働きをしている女の子が運んできてくれた水で顔を洗って、部屋を出ることにした。フローリアはまだちょっと眠いようなので、ウェストバックでごろごろしてる。フチに足かけちゃいけません、はしたない。

 宿の廊下を食堂に向かって歩いていると、カウンターの前で宿屋のおばさんと話しかけているのは耳の長い女性だ。背中に弓を背負い足元にはなにやらカゴが置いてある。なんかこっち見てますが……。
「ああ、おはようユキちゃん、良く眠れたかい?」とおばさんが声を掛けてくる。
「はい、おはようございます。久々にやわらかいベットで気持ちよく眠れました」
「ユキちゃんみたいなコが野宿なんてしちゃダメよ! 冒険者なんてヤクザな仕事してないで、おばさん家の子にならない? なんなら息子の嫁に」
あー、それはノーサンキューの方向で。おばさんの息子の嫁にならなくても息子付いてますし。それに人は良さそうだけど、もう30からみのおっさんじゃねーか、あんたの息子。
「心配ありがとうございます。で、こちらの方は?」と話のポイントを切り替える。なんかフリーズしちゃってるしね。

「ああ。この人はあの森の奥に住んでるエルフ族の人さ、時々罠に掛かった獲物を持ってきてくれるんだよ、うちの畑の野菜と交換にね。昼来れば良いヤマバトを貰ったから焼いてあげるよ?」
 それは気になる。昨日の料理も美味しかったし、期待が持てるんだが。
「エルフさん?」
俺が声を掛けると、エルフな人はやっとフリーズが解けたようだ。
「あ、ああああの、その方もしかして」
と視線を向けた方を見ると、なるほど、気にしていたのは俺じゃなくて、ウェストポーチの中でだらしなく、でろーんとひっくり返ってるフローリアか。

「あー、アセルス王国の方でであった連れ合いです」と説明する。
その答えにエルフさんはどこか納得したようだ。動揺もちょっと収まったのかな?
「私は大森林の奥にあるリスナ氏族に連なる者です。勇者様、是非我が…」
「私勇者じゃないですよ?」
残念ながら、この世界を救うはずだった勇者は生まれる前に死んでしまった。俺は、女神さまから勇者の仕事を任されてない。その力が無いと判断されたからね。適当に世界を回って、なんとなく善側な事をやっていればいい、そんな感じだったはず?。

「……できましたら、大森林においでいただき、我が氏族の巫女に逢って頂きたい」
是非からできたらに変わった。ふーむ。
「今すぐ、という約束はできませんが。杜の都には行く予定でしたので、その時にそちらにお伺いします」と約束した。

 エルフのおねーさんは、
「お待ちしております。では急ぎ要件が出来た故、失礼いたします」
と本当に急いで走って森に駆け込んで行った。速いなー、認識で追いかけていたが、そのうち振り切られた。ちなみに全然揺れてなかったね。あれはあれで良いモノだ。

 なぜ直ぐ行くという約束をしなかったかと言うと、あのまま招待されたら勇者様!! みたいな大歓待をされかねないから。それは俺の望む所でないし、なにより役どころが違う。

 とりあえず知らなきゃいけないこともあるし、フローリアの事もちょっとは判りそうだ。杜の都、そしてエルフの里に向かう事にするか。こっそり行って、やばそうなら逃げてくるかね。逃げるのは大得意だしな。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

お気楽、極楽⁉︎ ポンコツ女神に巻き込まれた俺は、お詫びスキルで異世界を食べ歩く!

にのまえ
ファンタジー
 目が覚めたら、女性が土下座をしていた。  その女性に話を聞くと、自分を女神だと言った。そしてこの女神のミス(くしゃみ)で、俺、鈴村凛太郎(27)は勇者召喚に巻き込まれたらしい。  俺は女神のミスで巻き込まれで、勇者ではないとして勇者特有のスキルを持たないし、元の世界には帰れないようだ。   「……すみません」  巻き込みのお詫びとして、女神は異世界で生きていくためのスキルと、自分で選んだスキルをくれた。  これは趣味の食べ歩きを、異世界でするしかない、  俺、凛太郎の異世界での生活が始まった。  

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...