14 / 32
シンクレア公の意図
しおりを挟む
ガタガタと揺れていた振動が止まった。外の様子がまったくわからない箱馬車がようやく動きを止めたようだ。なんの説明も無かったし、一体にどこに連れてこられたのやら。
『大変お疲れさまでした』
とメイアさんとやらの声でドアが開かれると、大きい建物の前だった。看板らしき物にヘビがのたくったような文字が書いてあり知らないはずなのに、なぜか意味が頭に入ってきた。これもルイーゼの掛けてくれた魔法のお陰なのか?
「宿屋……か」
『本日はこちらにお部屋をお取りしております、こちらへどうぞ』
あんたは、一体誰なんだ? という突っ込みを入れるスキがない……
彼女の事を知ってそうなルイーゼは、カルガモの様に、素直に彼女の後に付いて行くし。
宿屋のカウンターには、恰幅のいい主人らしき男性が、揉み手をしながらニコニコとしている。こちらに話しかけようとして、メイアさんとやらに睨まれて動きを止めた。俺とルイーゼは、彼女に先導され、階段を登り2階の奥の部屋に案内される。
『こちらでお休み下さい』
『可愛いお部屋ですね』
大きな部屋に、高級そうな白で統一された調度品に彩られた綺麗な部屋だ。窓は光が強く差し込まないようにか、部屋の統一感を損なう黒いカーテンになっていたが。
ルイーゼは、この部屋が気に入ったのか、なんか浮かれているようだが……
そんなルイーゼの様子を微笑ましく見つめているメイアさんに、俺は一応聞いてみた。
「……あの、俺の部屋は?」
『こちらでお休みください』
ついさっきまでの微笑みはどこに行ったという冷たい瞳で返される。
「いや、ベッドひとつしか……」
『まさか、お嬢様にご不満がお有りとでも?』
と、メイアさんから殺意すら感じそうな冷えきった返答が。
いや、別にルイーゼが嫌いとか、そういう事は全くないのだが、この据え膳状態が訳が解らなくて気持ち悪いんだよ……
「ルイーゼ、ちょっと待っててくれ」
『はい、判りました。トウヤさん』
と、楽しげに調度品を見ているルイーゼを残して、メイヤさんに目配せして部屋の外に出たが、彼女は冷たい目で俺を無視してくれた……、そこは察してついてきてくれる所だろ!!
なので小声でルイーゼの件で話があると言うと、嫌そうな顔をしながら一緒に廊下に出てくれた。
『なんの御用でしょうか?』
「さっき言っただろう、ルイーゼの事だよ、彼女はなんでにあの場所に閉じ込められていたんだ?」
『もちろん、お嬢様の為ですが?』
「彼女は廃嫡されて、あそこに幽閉されたと言っていたが?」
『お父君のご配慮です。お嬢様は血を吸わないと力を発揮できないという吸血族としては致命的な弱点をお持ちです。ただ、その弱点を補って余りあるほどにお嬢様の力というのは素晴らしいものなのです』
「あの闇属性の魔法が?」
『どの程度の力を見られたのか存じませんが、あの力などお嬢様のお力の一端でしかありません。これは一族以外には伝えられていない話ですから、心してお聞きください』
一族以外って俺は良いのか? って聞こうとしたらまた底冷えするような瞳で睨まれた……
『お嬢様のお力は確率変動です、その身の望む結果を手繰り寄せる類まれな力』
この次もサービス×2的なアレだろうか、違うんだろうなあ。
メイヤが言うには、心の中で望んでいる事を、それに沿うように現実を改編していく力とか、割と恐ろしい能力だった。
「じゃあ、その為に彼女を迷宮に?」
『そうです、あの方は城から出ることも敵わない、吸血族としての力すら使えないご自分の境遇を苦しいとかすら思っておりませんでした。ですのでお父君は苦渋の決断をされてあのような場所に幽閉されたのです。お嬢様が、ご自分で未来を選択し、引き寄せられるようにと』
「じゃあ、俺が呼ばれたのは……」
『偶然であり、必然。お嬢様がその身を自由にする為に、あなたを選ばれたのでしょう』
あの夢は、ルイーゼの力が俺を呼んでいたものだったんだ。と思ったら急に納得できた。彼女の吸血で人を破壊したくない願望が、俺というレアな血を持つ人間を引き寄せたのか。
「その割に、あのグリモアとかいうのがすげー事してたように思えるが」
と、尋ねてみると、メイヤさんは恐ろしい形相に変貌した。
『あのクズ野郎、ただのレイス様のお世話係だったというのに増長しやがって。お嬢様に手をだすとか万死に値するわ下郎が…… えっと失礼しました、あの者に関してはこちらの不手際です。ただ今、お嬢様に手をだしたあのサルどもの巣を一族郎党……』
あー、もう結構です。その先はあまり聞きたくないかな。
『トウヤ様……と申されましたか。我が主、シンクレア公より言伝を申し付けられております。本来なら明日旅立たれる前にお伝えする予定でしたが』
と口調を改めて、メイヤさんがこちらに向き直った。俺もなんとなく背筋を伸ばして、その言葉を受け取る。
『我が娘を嫁にシンクレア家に入るからには、それなりの身分になってもらわねば困る。その身をルイーゼに見合うように立ててみよ……との事です。あの迷宮で手にされた魔法の武器は結納の品としてお納め下さい』
YOME!! いや、あのゴーレム先生との邂逅後からもしかしてと思っていたのだが、やっぱりそういう思惑なのか……。そこに俺の意思確認とかは……ないんだろうなあ……。もうあっちに身寄りは居ないとはいえ異世界に婿入りとか、想定外すぎる。腰に下げていたサーベルが急に重く感じてきた。
『トウヤ様が外の国の住人であることも踏まえて、期間と方法は問わないとの事ですが。僭越ながらなるべく早い達成をオススメいたします、孫はまだかとお気の早い事を申されておられましたので』
あまり遅いとシンクレア公があなたの世界に乗り込むかも……、とか恐ろしい事言われた。
俺はなんとなくモヤモヤした気持ちのままメイヤさんに礼を言って部屋に戻る。
『用は終わりました?』
と、曇りのない笑顔のルイーゼを見る。可愛いし、性格も良さそうなのは判る、けどまだそういう対象として見るにはなあ。背格好からして、とう兄、とう兄と慕ってくる従妹の姿とダブるんだよ。
ぼすっと、大きな寝台の上に横たわってみる、目の前には長くて大きなマクラ。表面には例のヘビたのたくったような文字で、YESみたいな事が書かれていた。YESNOマクラとか、こんなもんがなんでこの世界にあるのかよ……。まだ新婚ですらねーってのにとふと裏をみたら裏もYESじゃねーか。
「嫌って訳ではないんだけどなあ……」
と、このドツボな状況にマクラをぶん投げたくなる気持ちを抑えるのに必死だった。
『大変お疲れさまでした』
とメイアさんとやらの声でドアが開かれると、大きい建物の前だった。看板らしき物にヘビがのたくったような文字が書いてあり知らないはずなのに、なぜか意味が頭に入ってきた。これもルイーゼの掛けてくれた魔法のお陰なのか?
「宿屋……か」
『本日はこちらにお部屋をお取りしております、こちらへどうぞ』
あんたは、一体誰なんだ? という突っ込みを入れるスキがない……
彼女の事を知ってそうなルイーゼは、カルガモの様に、素直に彼女の後に付いて行くし。
宿屋のカウンターには、恰幅のいい主人らしき男性が、揉み手をしながらニコニコとしている。こちらに話しかけようとして、メイアさんとやらに睨まれて動きを止めた。俺とルイーゼは、彼女に先導され、階段を登り2階の奥の部屋に案内される。
『こちらでお休み下さい』
『可愛いお部屋ですね』
大きな部屋に、高級そうな白で統一された調度品に彩られた綺麗な部屋だ。窓は光が強く差し込まないようにか、部屋の統一感を損なう黒いカーテンになっていたが。
ルイーゼは、この部屋が気に入ったのか、なんか浮かれているようだが……
そんなルイーゼの様子を微笑ましく見つめているメイアさんに、俺は一応聞いてみた。
「……あの、俺の部屋は?」
『こちらでお休みください』
ついさっきまでの微笑みはどこに行ったという冷たい瞳で返される。
「いや、ベッドひとつしか……」
『まさか、お嬢様にご不満がお有りとでも?』
と、メイアさんから殺意すら感じそうな冷えきった返答が。
いや、別にルイーゼが嫌いとか、そういう事は全くないのだが、この据え膳状態が訳が解らなくて気持ち悪いんだよ……
「ルイーゼ、ちょっと待っててくれ」
『はい、判りました。トウヤさん』
と、楽しげに調度品を見ているルイーゼを残して、メイヤさんに目配せして部屋の外に出たが、彼女は冷たい目で俺を無視してくれた……、そこは察してついてきてくれる所だろ!!
なので小声でルイーゼの件で話があると言うと、嫌そうな顔をしながら一緒に廊下に出てくれた。
『なんの御用でしょうか?』
「さっき言っただろう、ルイーゼの事だよ、彼女はなんでにあの場所に閉じ込められていたんだ?」
『もちろん、お嬢様の為ですが?』
「彼女は廃嫡されて、あそこに幽閉されたと言っていたが?」
『お父君のご配慮です。お嬢様は血を吸わないと力を発揮できないという吸血族としては致命的な弱点をお持ちです。ただ、その弱点を補って余りあるほどにお嬢様の力というのは素晴らしいものなのです』
「あの闇属性の魔法が?」
『どの程度の力を見られたのか存じませんが、あの力などお嬢様のお力の一端でしかありません。これは一族以外には伝えられていない話ですから、心してお聞きください』
一族以外って俺は良いのか? って聞こうとしたらまた底冷えするような瞳で睨まれた……
『お嬢様のお力は確率変動です、その身の望む結果を手繰り寄せる類まれな力』
この次もサービス×2的なアレだろうか、違うんだろうなあ。
メイヤが言うには、心の中で望んでいる事を、それに沿うように現実を改編していく力とか、割と恐ろしい能力だった。
「じゃあ、その為に彼女を迷宮に?」
『そうです、あの方は城から出ることも敵わない、吸血族としての力すら使えないご自分の境遇を苦しいとかすら思っておりませんでした。ですのでお父君は苦渋の決断をされてあのような場所に幽閉されたのです。お嬢様が、ご自分で未来を選択し、引き寄せられるようにと』
「じゃあ、俺が呼ばれたのは……」
『偶然であり、必然。お嬢様がその身を自由にする為に、あなたを選ばれたのでしょう』
あの夢は、ルイーゼの力が俺を呼んでいたものだったんだ。と思ったら急に納得できた。彼女の吸血で人を破壊したくない願望が、俺というレアな血を持つ人間を引き寄せたのか。
「その割に、あのグリモアとかいうのがすげー事してたように思えるが」
と、尋ねてみると、メイヤさんは恐ろしい形相に変貌した。
『あのクズ野郎、ただのレイス様のお世話係だったというのに増長しやがって。お嬢様に手をだすとか万死に値するわ下郎が…… えっと失礼しました、あの者に関してはこちらの不手際です。ただ今、お嬢様に手をだしたあのサルどもの巣を一族郎党……』
あー、もう結構です。その先はあまり聞きたくないかな。
『トウヤ様……と申されましたか。我が主、シンクレア公より言伝を申し付けられております。本来なら明日旅立たれる前にお伝えする予定でしたが』
と口調を改めて、メイヤさんがこちらに向き直った。俺もなんとなく背筋を伸ばして、その言葉を受け取る。
『我が娘を嫁にシンクレア家に入るからには、それなりの身分になってもらわねば困る。その身をルイーゼに見合うように立ててみよ……との事です。あの迷宮で手にされた魔法の武器は結納の品としてお納め下さい』
YOME!! いや、あのゴーレム先生との邂逅後からもしかしてと思っていたのだが、やっぱりそういう思惑なのか……。そこに俺の意思確認とかは……ないんだろうなあ……。もうあっちに身寄りは居ないとはいえ異世界に婿入りとか、想定外すぎる。腰に下げていたサーベルが急に重く感じてきた。
『トウヤ様が外の国の住人であることも踏まえて、期間と方法は問わないとの事ですが。僭越ながらなるべく早い達成をオススメいたします、孫はまだかとお気の早い事を申されておられましたので』
あまり遅いとシンクレア公があなたの世界に乗り込むかも……、とか恐ろしい事言われた。
俺はなんとなくモヤモヤした気持ちのままメイヤさんに礼を言って部屋に戻る。
『用は終わりました?』
と、曇りのない笑顔のルイーゼを見る。可愛いし、性格も良さそうなのは判る、けどまだそういう対象として見るにはなあ。背格好からして、とう兄、とう兄と慕ってくる従妹の姿とダブるんだよ。
ぼすっと、大きな寝台の上に横たわってみる、目の前には長くて大きなマクラ。表面には例のヘビたのたくったような文字で、YESみたいな事が書かれていた。YESNOマクラとか、こんなもんがなんでこの世界にあるのかよ……。まだ新婚ですらねーってのにとふと裏をみたら裏もYESじゃねーか。
「嫌って訳ではないんだけどなあ……」
と、このドツボな状況にマクラをぶん投げたくなる気持ちを抑えるのに必死だった。
0
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
女王直属女体拷問吏
那羽都レン
ファンタジー
女王直属女体拷問吏……それは女王直々の命を受けて、敵国のスパイや国内の不穏分子の女性に対して性的な拷問を行う役職だ。
異世界に転生し「相手の弱点が分かる」力を手に入れた青年セオドールは、その能力を活かして今日も囚われの身となった美少女達の女体の弱点をピンポイントに責め立てる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる