上 下
11 / 32

成長と魔法と

しおりを挟む
 目が覚めた、枕元に置かれた目覚まし時計の時間を見ると12時半といった所か。部屋を見渡すと、等身大ドールのエリスが椅子に座り、その隣でルイーゼがエリスに話しかけている。
『あの……もし? あの……』
「あー、おはようルイーゼ。その子は人形だから喋らないよ」
機械人形オートマタではないのですか? あ、起こしてしまって申し訳ありません、トウヤさん』
「それは良いんだけど……」
と、俺はルイーゼが内股でプルプルしてるのに気がついた……。あー、ごめん。それも教えてなかったね。異世界の人を泊める機会なんて考えた事もないから、なんでもかんでも想定外だらけだ。

「あ、ごめん。ルイーゼ、今起きて案内す……いてぇええええええ」
 跳ね起きようとしたところ、体中に激痛が走った……マジでなんだこれ……。俺もキツいけどルイーゼはヤバそうな気がする、俺はベットから這いずるように、ルイーゼを案内する。ピシピシと痛む身体ではいつくばりながらルイーゼをトイレに押し込んだ。

 トイレはなんとなく使い方が判ったらしいので、俺は胸を激しく撫で下ろしつつ、自分の痛みに関して考える。なんだこりゃ、息するだけでも痛いんだけど……あっちの世界でヤバい病気でも貰ってきたんだろうか……。

 俺は息苦しくなり仰向けに床にひっくり返った。あーしばらく動きたくねえ。
『トウヤさん、もしかしてお加減が悪いのですか?』
 余裕が戻ってきたらしいルイーゼが俺を気遣ってくれる。
「あー、なんか起きたら体中が痛い。息するのもキツいくらいだ」

『もしかして、トウヤさん。それ成長レベルアップ痛ではないですか?』
 ルイーゼが言うには、強敵を倒した後に眠ることで体が急速に成長する痛みがあるそうだ。そういって彼女は俺に手をかざして念じる……、が少しして首をかしげる。
『やっぱり、トウヤさんには私のコモンマジックが通らないみたいです……えっと……すいません』
 止める間もなく、ルイーゼが覆いかぶさってきて、俺に口付ける、そして舌が触れたかと思うと身体にぶわっと何かが身体を広がっていき、次第に消えていった。

『お加減はどうですか?』
 ん? あ、体が動くし痛くないな。俺は心配させないように、軽く起き上がった、つもりだったのだが、危うく目の前で心配そうに見下ろしているルイーゼにぶつかる勢いだった。
「……なんだこれ、体のコントロールが効かない。今なんか強化する魔法とか使った?」
『今、トウヤさんに掛けたのはコモンマジックのライトヒールです、そこまで劇的な回復力はもちませんが、痛みを消すくらいでしたらこれで十分かと』
「つまり、痛みを消しただけで、……これは俺の力なのか」

『あのエルダーレイスを倒される程の方が、成長は何度もされているのではないのですか?』
「あー、残念ながらこの世界にはモンスターが居ないから、ああいうのを倒すのは初めてなんだよ」
 というと目を見開いて驚く。まあ驚くよなあ、俺もあんなのが倒せてびっくりだったし。
『私のコモンマジックを完全に抵抗レジストされてしまうので、かなり高位の魔法使いの方だとばかり思っておりました』

 ああ、なんでキスされるんだろうと思ったら、俺が魔法弾くからやむなくだったのか。そんな事意識的にしてるつもりは無いんだけど。
『どんなに魔法の抵抗が高い人でも、体の中までは防げないんです。ですから……あの粘膜接触が有効だとおばあ様が……』
 相手に魔法が効かない最悪の状態になったら、襲われるフリをして相手の口腔から精神支配を仕掛けろとか教わったらしい。ばあさん孫に何教えてるんだよ、鬼かよ。……って吸血鬼か。
『私は普段、このコモンマジックくらいしか使えない出来損ないですから』
と、少し寂しげに笑った。

「でも、血を吸えば使えるんだろ? あのグリモアを燃やしたような力が」
『はい、でも私は理性を失ってしまいますし、あの様に精霊魔術を使うとすぐに力を出し尽くしてしまうんです』
 あの目力で燃やしたのが彼女の持つ闇の精霊魔法なのか。俺もあんな風にカッコよく敵を倒せたらいいんだけどな。俺は壁を見ながら、水よ!! とか念じてみる。この世界に精霊がいるわけないしね。
 ってルイーゼが立っている横の壁に水玉がぶつかって弾けた。昨日の水玉とはサイズが違ったね……水の量が段違いだった。昨日のが500mlのペットボトルだとしたら、今のはペットボトル1ダース分くらいの量があった。

「あー、えっとルイーゼ、ごめん。まさかここで使えると思ってなかったんだ……これ片付けたら着替えてご飯にしよう……本当にごめん」 
 ずぶぬれになったルイーゼは何が面白いのかくすくすと笑い出した。
『こんな水かけられたの初めてです。戯曲の中の事みたいで楽しいです』

 こんな事が楽しいとか、こんな子を閉じ込めて捨てたという彼女の父に怒りが沸いた。しかし、俺魔法使いになっちゃったよ。あのイヤみったらしい経理のおばさんを心で中で報復するストレス解消はもう出来なくなってしまったようだ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

処理中です...