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 ゴゴン、ゴゴンとレールの振動の気持ちいい等間隔のリズムに身を委ねていると、つい眠ってしまいそうだ。悠希にもちょっと心配されてしまったが、最近の寝不足で疲れているのも事実だ。抗おう、抗おうとするが睡魔は消えてくれなそうだ。俺はスマホのアラームを20分後にセットして目を閉じることにした。駅を寝過ごして乗り越すのは簡便だからな。


 ああ、こんな所でも夢を見るんだなあ。と、俺は夢を見ている事を自覚していた。白い霧のようなものが立ち込めた空間に、今日も俺は立っている。
『…………』
頭に想いが響く、いつもの様に。

『 さみしい……
    たすけて……
こわい……
     さむい……
 こわい……』

 その気配の方に向って、今日も俺は歩き出す。

 霧の向うに、いつもの様にうずくまっている姿が見える。さらさらとした銀髪を地面に付くのもいとわないように、うな垂れ美しい髪が地に投げ出されている。
 彼女は薄布のような布切れを一枚まとっているだけで、その隙間から白い肌が見え隠れして、何度この光景をみても俺は動悸を抑えることが出来なかった。

 触れてみたい。そう思って手を伸ばしても彼女に触れようとする手は彼女の身体をすり抜ける。
それに気付いた彼女が、顔を上げる。俺を見つけて、その青い瞳がこちらを見つめる。そして彼女もその手をこちらに伸ばすが彼女の手も俺頬をすり抜ける。美しい顔が歪み、涙がこぼれ落ちる。

 タイプはかなり違うが、悠希と同じような歳の女の子が、打ちひしがれて泣いている姿は見たくなかった。しかし互いが差し出す手はお互いの身体をすり抜ける。
 また、この展開かよ、と心の中で毒づく。何ヶ月か前か忘れたくらいから、寝るとときどき見るこの夢。心が痛む悪夢。とめどなく零れる彼女の涙をぬぐうことの出来ない悪夢。


 胸ポケットの振動が、俺を現実世界に引き戻した。睡魔に落ちた割りに、この鈍く痛む頭が憎々しい。そしてまた、いつもの様に股間のモノが猛ってしまっているのに気付いてさりげなくカバンで隠すようにする。思春期の子供じゃあるまいし、もうアラサー真っ只中だってのに恥ずかしくて仕方ない。俺はタイミングよく着いた我が家の最寄の駅で電車から飛び降りる。

 トイレの個室に飛び込み、ポジションを治して、家に向って歩き出す。今日はちょっと作るのが面倒なので、通りの惣菜屋で適当にコロッケなどを見繕い、ぶらぶらと袋を揺らしながら我が家へ。

 レジデンス真田、8F建ての賃貸マンション。両親が唯一残してくれた遺産みたいなものだ。管理は管理会社に任せているので、月々賃貸料が振り込まれてくる。駅から歩いて6分というなかなかの好立地なので空きはなく、半屋上になっている8Fだけは俺が一人で住んでいる。

エレベータの8Fを降りると、俺の部屋の目の前だ。右手のドアは、屋上に繋がっているが普段は俺がカギを閉めて出入り禁止となっている。
「あー、飯くうのも面倒だな。もう横になるかなあ」
とドアをあけ、暗い部屋に電気を付けてリビングに入る。本当は血を抜いた後なので、食べないといけないのだが、それでも今日は飯を食べる気力がわかなかった。俺は持っていた惣菜をテーブルの上に乗せて、俺はウォークインクローゼットの方に近づいた。

 前に、悠希が遊びに来たときに見つかり、猛烈に騒がれたので、隠してある俺の秘密の同居人。等身大ドールのエリス、金髪ロングの少女ドール
 就職して、片倉の家を出てからなんか人寂しくなってしまい、始めてしまった俺の趣味。最初のボーナスをはたいて買った彼女を俺は同居人として楽しんでいた。メイド服を選んだのは俺の趣味が入ってるかもしれないけど。あ、ちなみにそういう事をするための機能はついていない。のだが、悠希は猛反発したので、捨てたという設定になっている。

 クローゼットの奥にばれない様にすえつけた壁材の色に似せたものを選んだ、カーテンを開く。クローゼットの奥側はエリスの着せ替え用の服がならんでいる。が、奥にイスに座らせておいた筈の肝心の彼女が居ない、イスも無かった。そしてそのイスがあった筈の場所には、見たことも無い大きな姿見の鏡が置かれていて俺は自分の目を疑った。

「え、なんだこれ。こんなの置いた覚えないし。エリスはどこ行ったんだよ?」
と鏡の裏を見てみようと、鏡に手を置いた瞬間、俺は意識が遠くなっていくのを感じた。

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