魔王を倒して還ってきたら、ヒャッハ―な世界に変わってました(涙)

梅田遼介

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21話

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 ――彼女の自殺の理由、それは未来への懸念からだったという。

 実は彼女は病に掛かっていて、死を迎える運命にあったらしい。所謂、現代医療では手の施しようがない死病だったのだ。
 治療すれば、生き長らえるが治療費が掛かる。とは言え、治療を放棄すれば苦しい死を迎える。その二つの選択の中で迷っていたのだそうだ。

 新藤曰く、調べ物を偶然見てしまった流れで打ち明けられたらしい。
 なぜ私に打ち明けてくれなかったのか、との感情が湧いたが、それも続く言葉で打ち消された。

 彼女はどうやら、私に研究をやめて欲しくなかったらしい。
 金の問題になれば研究所に入り浸る事は出来なくなるだろうから、と呟いていたとのことだ。迷惑をかけたくないとも何度も口にしていたという。

 ずっと分からなかった彼女の真情が暴露された所で、私はその真意を理解することが出来なかった。それこそ、言葉だけを解しているに過ぎない。
 早かれ遅かれ、愛しい人を失う事に変わりは無かったというのだ。なんて皮肉なのだろう。

 結局、どういった流れが最善の道であったか、最終的にはそんな事を考え始めてしまった。

「博士、言いたい事はここで終わりではありません」

 黙考が始まりかけた頃、一旦は途切れた新藤の声が降って来た。無意識に顎に宛てていた手を離し、顔を上げる。

「……最後にこうも言っておられました。あの人を心から愛していると、愛しているからこそ選ぶのだと。それでも、その後の世界で貴方に生きて行ってほしいと、我儘だけれどそうしてほしいと」

 なぜ新藤が存在抹消の前に打ち明けてきたのか、その理由も私には分からなかった。愛情ゆえに彼女が自ら命を絶った理由についても、私にはやはり分からない。

 それでも、何と無く分かる事が一つだけある。きっと、彼も彼女も不器用なのだろう。その上で人の感情に聡くあったからこそ、私では理解し得ない選択をするのだ。
 それがきっと、彼女の愛の形だったのだろう。

「……彼女は私を愛してくれていたのだな……」

 疑ってはいなかったが、改めて分かり少しだけ嬉しくなった。最後の最後、自分を頼ってくれなかった理由を聞けて、長年の引っ掛かりが少し溶けた。
 ただ、切なさや辛さが完全に消える事はなかったが。

「博士、お時間です」

 別の研究員がこっそりと顔を覗かせた所で、対話は終了した。



 機械の周囲を、幾人かの研究員が取り囲んでいる。バインダーに資料を挟み、手にはペンを持って準備万端だ。

 仲間達に見守られながら、マシンに新藤が座った。その頭に、代表として専用の機械を被せ、全身をこれまた特殊なフィルターで覆う。これで、こちらからも新藤からも、互いの姿は確認出来なくなった。

「新藤、ついにこの時が来た。何か言い残す事はあるかね? 君が消えたあと覚えているかは不確かだが」
「そうですね。では一つ、次は私自身から博士へ」

 私だけへのメッセージだからか、声量は控えられていた。今度こそ最後の遣り取りになるだろう。
 とは言え、恐らくはこの遣り取りも全て抹消される訳だが。

「もし、私が戻らなかったら、博士はマシンには乗らないで下さい」

 最後の願いにと新藤が持ってきた物に、正直眉を潜めてしまった。しかし、最後の時まで彼を否定しようとは思わない。

「消えたいと苦しんでいる人間を救うのが、開発者である博士の役目です」

 ただ受け容れる振りをして、相槌だけを繰り返した。新藤が満足して消えられるようにと計らった。
 だが、確かに私自身が消えてしまえば、誰が根気強く広めてくれるというのだろうか。

「それに、奥様も貴方が消える事は望んじゃいない。だから博士は、この先も生きてマシンを広めて下さい」
「……分かったよ新藤くん、覚えていたならば約束をしよう」

 軽い冗談を交えて、視線を後方へとやった。プログラムが正常作動しているのが確認できる。

「はい。では、どうなるか分かりませんが、そろそろお別れしましょう」

 新藤が、起動装置であるボタンを押したのだろう。機械音が鳴り始めた。私は抹消装置を、目を凝らして見詰めつづけた――――。



「うむ、中々信じてもらえないな。良い案はないのかね? MR296ニクロ
『ですが博士、マスコミが言うように、証拠がないのですから、どうしようも』

 MR296――彼女は開発のパートナーである。存在抹消ボタンプロジェクトを立ち上げた時から、ずっと隣で助手をしてくれている。人ではなくアンドロイドだが、人間より有能かもしれない。

 感情を読むのが苦手な私には、相棒と呼べる相手が出来なかった。故に手伝ってくれる存在を製作したのだが、意外にもそれでやっていけてしまうらしい。
 因みに、¨マシン¨ではなく、取っ付きやすいよう¨ボタン¨にしよう、との案を出してきたのも彼女だ。

 そんなMRと私の目前には、既に完成済みの存在抹消ボタンが佇んでいる。後方には幾台ものコンピューターがあり、未来先読みシステムと空間移動システムの維持をオートで行っている。

「いや、証拠などなくともこれは成功している。恐らくは私達の記憶にないだけなのだ。このマシンは既に完成をしている!」
『でも、私も記憶していません』

 MRが言うように、実はこの装置の稼動を誰も見た事がない。開発者である私も他の研究員達も誰一人として、だ。
 けれども、私はこの装置が既に稼動し、誰かの存在を抹消しているのだと信じている。根拠も証拠も何一つ無い状態でも、そんな気がしてならないのだ。

「開発者である私たちが信じずに、誰が成功を信じるというのだ。さぁ、世の中にボタンの存在を広めていこうではないか」
『博士が言うなら、頑張りましょう』
「うむ、その意気だ。では今日も出掛けるかな」

 ――開発者としての使命を持ち、私は今ボタンの認知拡大に努めている。
 存在ごと、全てを抹消できる画期的な装置、その名も¨存在抹消ボタン¨。
 そのボタンで、誰かを救えるのだと信じて。
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みんなの感想(2件)

ポムポム
2017.09.03 ポムポム

勢い任せにヒャッハーな世界観、好きです。
次も楽しみにしています。

主人公のコウヘイが良い味出してるな、と思いました。

梅田遼介
2017.09.04 梅田遼介

ありがとうございます!ぼちぼち書いてますので、よろしくお願いします。

解除
シュミー
2017.08.03 シュミー

面白いです!私こういう設定とか、進み具合が好きなんです!次も楽しみにしてます!

梅田遼介
2017.08.04 梅田遼介

ありがとうございます!そろそろ書きだめが無くなるので更新はゆっくりになると思いますが、楽しんで貰えると嬉しいです。よろしくお願いします!

解除

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