魔王を倒して還ってきたら、ヒャッハ―な世界に変わってました(涙)

梅田遼介

文字の大きさ
上 下
18 / 21

18話

しおりを挟む
「ここの人はスキルとか魔法が使えないんだよね?」

 バルサが目をクリクリさせて言う。

「ああ、こっちにはそもそもスキルという概念自体が無い。魔法なんて言うのは空想の世界の話だな。俺もこっちにいた時は使えなかったし」

「でも異能者って人たち、スキルが使えるっぽいよね?」

 そう言うとバルサは面白そうな表情を見せた。
 爬虫類っぽいドラゴンの表情を読み取るのはなかなか難しい。
 でも長い間一緒にいると分かるようになってくるから不思議だ。

「ああ、たぶんそうだと思う。きっとモンスターを倒した時に出るエーテルのせいだろうな」

 エーテルさえあればこっちの世界の人の中にもスキルが使える人がいる、それは恐らく間違いないだろう。

「だったらさ、魔法だって使えるかもしれないよね?」




 それを聞いて衝撃を受けた。
 この世界の人たちでも魔法が使えるかもしれない、その発想はなかったからだ。
 もしそれが事実だったら、とんでもない事になる。
 スキルを使えるだけでもすでに大変なことなのに。
 さらに魔法となると、こっちの世界の今までの常識とか物理法則がまとめてひっくり返る事になるだろう。

「でも確かに……その可能性はあるな」

 スキルと魔法はどちらもエーテルをその源としている点は共通している。
 違いはスキルが使用する人の天賦の才能であるのに対し、魔法はある一定の術式によってコントロールされる一種の学問的な方程式である点だ。

 もちろんスキル同様、魔法を使うにも基本的な才能は必要で誰でも使えるわけではない。
 だがスキルと違って魔法は学び、探究する事でその力を効率的に使うようにすることが出来る。
 その点で一種の学問と言っていい。
 向こうの世界ではスキルを持たない一般人でも『灯りライト』や『点火ファイヤ』などの初歩的な呪文程度は多くの人が使っていた。

 もしこっちの世界の人々も呪文を使えるとしたら。
 少しは怪物たちとの戦いの役に立つだろうか。
 それともいたずらに社会的混乱を呼ぶだけだろうか。
 いずれにせよ魔法を使うにはエーテルが必要だ。
 エーテルを得るためにはモンスターを倒さなきゃいけない訳だから、ニワトリと卵のような話になってしまうけど。

「魔法が使えたら面白いよね?」

 バルサは完全に面白がってるな。
 でも俺は大きな問題がある事に気が付いた。

「うーん、でも俺もほとんど魔法は使えないしなあ。お前も魔法は全然ダメだろ」

 勇者だった俺はスキルこそ豊富に使えたが、魔法はあまり使えない。
 正直に言えば向こうで魔法の練習はサボってたからね。
 昔から勉強はあまり好きじゃないんだ。

「ボクは魔法なんか使わなくても強いよ?」

 バルサは自慢げに言う。
 確かに子供ながらドラゴンであるバルサのブレスを始めとするスキルは強力だ。
 でも今はそういう事を言ってるんじゃない。

 この世界の人も魔法を使えるとしても、それは誰かが教えなきゃいけない。
 で、恐らくこの世界で魔法を使える人間は俺一人。
 という事は先生は俺しかいない訳だ。
 その先生である俺が大した魔法は使えないってことは。
 結局魔法はこの世界を変えるほどの大きな力にはなれないってことだ。
 ここでは火をつけるならライターがあればいいし、灯りが欲しけりゃ電灯がある。
 そんな世界では魔法がなくても困らないもんな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...