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13話
しおりを挟む「杉谷君、今日は色々あって君も疲れたやろう」
「ありがとうございます、気を遣って頂いて」
「いや、ええんや。後でちょっと会って欲しい人たちがいるから、それまで少し休んどいたらいい」
「はい、そうさせてもらえると助かります」
「よし。じゃあ神崎、部屋用意したげて」
一通りの事情を話した後、高木さん達は気遣ってそう言ってくれた。
確かに目の前で人が死んだら普通の人はショックを受けるよな。
遺体を抱えて歩けば相当疲れるだろうし。
俺の場合は慣れてるし肉体強化もしてるからそこまでじゃないんだけれど、気持ちはありがたい。
「杉谷コウヘイくん、やったわね。とりあえず仮眠できる部屋に案内するわ。付いて来て」
「ここでしばらく休んでて」
奈保子に連れられて部屋を移動する。
元はどこかの研究室の資料置き場だったようだ。
簡単なテーブルと椅子、ベッドが置かれた小さな部屋だった。
「あの……田辺さんの事、ホントにごめん」
部屋に入って椅子に座り、俺は改めて奈保子に頭を下げた。
「気にしんとき、ってみんな言ってたでしょ。異能者でもなきゃいつやられても不思議はないんだから」
「……異能者?」
耳慣れない言葉に思わず俺が聞き返すと、奈保子は呆れたような表情を見せた。
「コウヘイくん、そんなことも知らんの? どんだけ田舎から出てきたん?」
確かに俺の実家はド田舎だけどな、田舎を馬鹿にするんじゃない。
田舎は都会にはない、いいところもいっぱいあるんだ。
空気がおいしいとか水がおいしいとか星空が綺麗だとかやたら蛾がでっかいとか。
「まあええわ、教えてあげる。異能者って言うんわね、特殊な力を持ってはる人らのことよ。あの異界門が見つかってから――」
「ゲート?」
俺が再び聞き返すと、奈保子は今度は心底驚いたような表情をした。
だがすぐに怪訝な表情に変わる。
「……コウヘイくんってホンマに日本人? 異能者の事は一応秘密ってことになってるから知らん人もいるかもしれへんけど、今この日本で『異界門』の事知らへん人なんかおらへんでしょ。いったい何者なん?」
しまった、今の質問はまずかったらしい。
この世界では誰でも知ってる常識だったようだ。なんとか誤魔化さないと。
「実は俺……記憶があいまいなんだ」
「え、記憶が?」
「うん、名前とか田舎の事は覚えてるんだけど、アイツらの事とか、自分がどうしてここにいるのかとか、そう言うのが思い出せなくて」
「それ、大変やん」
「うん。ここに来たのも誰かを探してだと思うんだけど、それが誰なのかも思い出せないんだ」
とっさに出た、苦しい言い訳。信じてもらえるだろうか……。
「記憶喪失ねえ。そんな一部だけすっぽり記憶がなくなるなんて、なんかあったんやろか?」
奈保子はまだ疑わしげな眼差しをしたままだ。
ヤバい、やっぱり無理があったか……ドキドキ。
「……まあいっか、信じてあげるわ」
少し考えてそう言うと、奈保子は俺の目を見てニコッと笑った。
「あ、ありがとう」
「ううん、コウヘイくんがアイツらのスパイって訳も無いやろうしね」
「信じてもらえて嬉しいよ」
「こんな嫌な事ばっかりのご時世やもん、その方がいい事もあるんかも」
「そうなのかな?」
「そうだよ。まあ自分の名前とか、大事な事だけでも覚えてて良かったやん」
「そう言われてみると、そんな気がしてきた」
二人で目を合わせて、思わず笑ってしまった。
良かった、なんとか信じて貰えたようだ。
「落ち込まんとき、きっとそのうち思い出さなアカンことは思い出せるって。それまで分からんことがあったら、アタシが教えてあげるから」
やっぱり奈保子はいい奴だ。
その笑顔に不覚にもドキッとしてしまった。
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