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9話
しおりを挟む間違いない、コイツの攻撃は隙だらけだ。
ただ単にやみくもに剣を振りまわしているにすぎない。
考えてみれば、俺は向こうの世界であれだけの修羅場を潜り抜けてきたんじゃないか。
例えスキルが使えなくても、こんな奴に負ける事はない。
そう考えると落ち着いた。
俺は動きながら攻撃のタイミングを計る。
『ギャー!』
なかなか攻撃が当たらないことに苛立ったゴブリンが奇声を上げ、曲剣を大きく振りかぶった。
チャンスだ!
力任せに振り下ろしてくる剣をかわし、同時に手にした槍を思い切り突き出す。
『グギャアアア』
やった、俺の槍は見事にゴブリンのどてっ腹に突き刺さって貫いた。
ゴブリンが断末魔を上げると、その体がサラサラと小さな黄色い粒子に変わって崩れていく。
その粒子は黄色い光を放ち、そのまま宙に消えて行った。
後にはゴブリンの死骸も曲剣も何も残っていない、全部消えてしまった。
どういう事だ、向こうの世界ではこんなことはなかったのに。
「コウヘイ、後ろもいるよ?」
俺がその光景に驚いていると、いつの間にか背中のリュックから顔を出したバルサの声が聞こえた。
――?!
とっさに振り向くと、崩れかけた建物の屋根の上から別のゴブリンが弓で俺を狙っている。
――ヤバい!
俺は無意識のうちに、離れた所にいるゴブリン目掛け槍を振ってスキルを使っていた。
『スラッシュ!』
しかしすぐに後悔する。
薙ぎ払いは扇形に衝撃波の刃を飛ばす、基本的な戦闘スキルの一つだ。
でもエーテルのないこの世界ではスキルは使えない。
――しまった、矢が来る!
なんとか避けなければ、と思った瞬間。
『ギャーッ!』
ゴブリンは奇声を上げてのけ反り、屋根から落ちる途中で黄色い粒子となって消えた。
おかしい、この世界でスキルは使えないはずなのに。
俺は一瞬混乱したがすぐに気が付く、今はそんな場合じゃない。
「おじさん!」
倒れたおじさんに駆け寄って声を掛ける。
だけどおじさんはゴブリンに背中を一突きにされ、すでに息絶えていた。
いい人だったのに、俺が話しかけたせいでゴブリンなんかに殺されてしまうなんて。
俺は向こうの世界で散々人が死ぬところを見てきたから、ショックは少ない。
でも俺が関わらなければおじさんは殺されずに済んだ、そう考えると申し訳ない。
俺は指でそっとおじさんの目蓋を閉じた。そのまましばらく黙とうする。
親父やおじさんが言っていた「アイツら」というのはゴブリンのことなのか。
でもこの街の惨状を見る限り、おそらくそれだけではない。
ゴブリンが相手なら銃やそれ以上の武器があるこの世界の人達がそれほど苦戦することはないだろう。
だがどう見てもこの状況では大規模な戦闘があったとしか思えない。
しかも人々は避難していると言う。
人間がそこまで劣勢になるということは、それだけ強力な敵がいるはずだ。
でもなぜこの世界にモンスターがいるのか。
ヤツらはどこから来ているのか。
部屋では魔法が使えなかったのに、なぜ今スキルが使えたのか。
まだまだ分からないことだらけだ。
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