赤紙を持って死んだ

香衛

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三十五.楽観的

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「……」

 頭が痛い中、仕事が終わって自分の家に帰ろうとしていた
 工場の中でまだ人が多い中、私は予想出来ない人物と出会う

「……あれ、勇?」

 勾留所にいた、名前も分からなった男だ

「……」

「凄い寒そう」

「……出れたのか、あそこから」

 男は満足そうに頷く

「そう、父親が死んでたけど」

「……」

 男は楽観的な声でそう話す
 私は歩きながら話を聞いていた

「出れたけど、また行くけどな」

「?」

「また同じ様に、工場で働かずあそこに行く」

「……」

 男の言葉には特に驚く様な事は無かった

「他の、大塩と江川はまだいるのか?」

「いるよ、俺より来たのが後だったから」

「そうか……」

「勇は、働いてるんだ」

「……もう直ぐ、赤紙が来る」

 私がそう言うと男は興味を持ったように声を高くした

「へー! 俺なら無視するよ」

「……無視した所で、私は同じだ」

「何で?」

「……あそこに行っても、行かなくても、大体同じだ」

「……」

 私は男に質問をした

「……お前は、何があった、人生で」

「人生?」

「幼い頃と、今は、違っていると思うか」

 男は答えるのに時間が掛かっていた

「……強欲になった、前も強欲だったけど、母親が死んでからかな」

「……」

「それだけ、勇も、母親が死んだんでしょ?」

「そうだ」

「似てるなー俺達って」

「……そう思うか」

「うん、あ、もうこっちから帰るから、またね」

「……」

「また勾留所あそこで会えたら良いなー!!」

 私は男に手を振り返し、自分の家まで再び向かった






「酒は持って来ていない」

「いいのよ、もう、大丈夫だから」

 日が経つほど長くいるようなこの場所で、座って話をしていた

「まだ暖かく、ならないな」

「……去年もそうだったでしょう」

「何度か見る、私と同じ教室にいた生徒も見なくなった」

「……」

「皆、嬉しそうだった、私は、それを見たく無かったのだが」

「なら、逮捕されたのは良かったのかもしれないわね、学校に行かなくなったから」

「……案外、そうかもしれない」

 普段の様な質問をせず、麻美は誰かが学校でする様な会話をただ続けていた

「……私に、質問しない様になったのだな」

「……私も何故か分からないわ、もう聞き尽くしたからなのかも」

 毎日ここに来て、時間が経ち、私が十八になるという実感が増え始めていた

「この店が、何十年経っても在り続ければ良いわね」

「……そうだな」



 真っ暗になるまで居て、私が帰る頃には家の灯りは消えている

「……」

 祖父は当然寝ている、新しい酒は買っておらず、父が亡くなってから少なくなった金を何とか使っている
 一口だけ、酒を飲んで、眠りに着いた、私はそれだけで欲が増えたが、眠り易くなるのが分かっていた
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