赤紙を持って死んだ

香衛

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十三.取り調べ

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「はやさんに聞いたけどな、もう少し話を聞くぞ」

「……」

「いつからそれを思っていた?」

「……」

「母が亡くなったから、情けなくそう思っていたのか」

「…………」

「はやさんからは、体力の成績が良いと聞いた」

「…………」

 私はそれまでの刑事の質問に全く答えなかった、答えが嘘なら、目の前にいる刑事に見破られると思っていたからだ、本当の事で、都合の良い事だけを話そうとしていた

「あの時、はやさんから何を言われて、何と答えた」

 それは事実確認でありながら、私に答えさせる為の物であったと考えずただ素直に答えようとした

「……歴史の教科書を取りに行った時、そこにいた職員に母が亡くなり哀しいと共感され、争いは良いものかと聞かれました」

「……それで、どう答えたんだ?」

「戦争は良いものでは無いと思います、と言いましたが、その後に悪いとも思わない、と言おうとしていました」

 私は多少強引で、反戦的な感情を持っている事を認めている言葉でも、それを真面目に答えた

「俺は、はやさんから日本が争うのは辞めるべき、と言っていたと聞いていた」

「いいえ、良いものでは無いと思う、と答えただけです」

「……」

 私は刑事がそれを本当だと判断するかは分からなく、【はやさん】という職員の男が笑っていた事を話すと、逆効果だと思った

「日本が争っている事に、どう思っている」

 それは力強く、怒鳴り声では無かったが威圧するような言い方だ

「良いとも、悪いとも思っていません」

 それは少し、私の中で嘘のような言葉だった、生物として、戦争という行為に拒絶している、だが理性では、本当に悪いとも良いとも思っていなかった
 麻美の言う通り、どちらも本心だとしたら、都合の良い本心を選ぼうと話す

「……」

 私の期待は消え、刑事は私を赦すような赦す様な態度ではなく、真顔で私に質問を続けた

「そう思っていたのは、いつからだ」

「……母が亡くなってからです」

「父は、お前と同じ考えを持っているのか」

「分かりませんが、持っていないと思います」

「何故そう思った」

「……父は工場での作業を進んでしていて、考えている事は母が亡くなり一週間程で、父に聞いた話ではないからです」

「お前は、工場での作業を進んでしていないのか」

「私が働いている工場は父と違う場所で、働き方が違います、私の作業では、そう表現して良いのか分かりません」

「お前とお前の父の工場が違っていても、作業の方法が違うというのはどこで知った」

「……」

 それは無意識なのか意図的なのか目の前にいる刑事は、少し話始めた私に対し、曖昧な質問を続け、私の綻びを探していたのだ

「分かっていないなら、何故そう言った」

「……」

 私はそれ以上、何も答えなかった、危険性が増えても、父を庇おうとする態度に見えたのなら、私に向けられている矛が父に向けられかねない

「話さないか」

 刑事はその後も質問を続けた

「お前の母はどうだったんだ」

「……」

「同じ学校の人間に、お前と同じ者はいたか」

「……」

「それはお前がもっと子供の頃から考えていたのか」

「……」

 刑事の、確実に「いいえ」と言える様な質問でも、答えた事を理由にその質問に関係した事を更に質問することを、先程のやり取りで分かって、刑事が質問を終わるまで待った


「…………言わないか」


 外があまり見えず、数十分程経ったのか、私が取り調べを受けている事が、父と祖父に知られていると言う事を刑事を介して伝えられた、聞いて、少し嫌な気分になる

「……もういい」

 取り調べ室に入った二人の警官から、連れられ、長い廊下を辿り、私は勾留所に入れられた




 半日が経ち、夜になっている事に気付くと、勾留所の中にいる三人の男の中から一人に肩を叩かれる

「あんた、何をしたんだ」

 その男は、暗い勾留所に合わない、明るい表情をしていた
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