奴隷を解放したのに出ていきません

茶々

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32.清拭

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「さてと。そのままではいけないね」


 ルイは、まだほのかに体温が残るしっとりとした小さな布の塊を手にしたまま、何かを探している。

(探し物をするのなら、そんなモノをずっと持っていないでさっさとそこら辺に放り投げておいて欲しい……)


 しかし、今の珠奈にはそれを口にする事よりも先にやるべき事が他にあるのだ。


 ノーパンの珠奈のためにルイが探してる物といえばひとつしかない。
 そう新しいパンツである。

 それをルイに見つかってしまっては、確実にまた彼による強制お着替えタイムが始まってしまう。
 最悪の事態を阻止するためにも、なんとしても珠奈はルイよりも先に己のパンツを勝ち取らねばならないのだ。

 だがしかし、不要に焦る必要はない。

 幸い、この部屋の物の置き場所ならば珠奈が全て把握していた。
 目的の下着は衣類と一緒に珠奈からほど近い場所にまとめて置いてある。距離にして数歩。

 珠奈には自分の勝利が見えていた。


 ルイに勘付かれないようにそろりそろりと移動すると、素早く新しい下着を掴み取る。
 デザインの違う物を何種類か買ってあるが、この際もうパンツであればどれでも構わない。上下の色がバラバラでも誰が気にするものか。


(よしっ!さっさと履いてしまおう!!)


 恥ずかしい状態の下着がルイの手元にある今、もう恐れる事など何もない。
 生着替えがなんだ。さっと足を通してしまえば、後はもうスカートの中なのだから恥ずかしくもなんともない。

 と、珠奈が己の心に言い聞かせながら下着に足を通そうとした時、ルイがくるりと珠奈の方へと向きを変えた。


「あぁ、駄目だよ。そのままでは新しい下着も汚してしまうから、これで拭いてからにしようね」

 爽やかな水色の下着を手にし、中途半端な姿勢で固まっている珠奈の方へと向かって来るルイの手には、宿屋で用意されている真っ白なタオルがあった。


(ルイはパンツじゃなくてタオルを探してたのね!)


 珠奈は焦っていたため下着を履く事しか考えていなかったが、確かにルイの言う通りそのまま履いてしまって駄目だ。
 何かで拭いてからでなくてはせっかくの新しい下着もまた汚してしまう。

「……ありがと」

 そうお礼を言ってタオルを受け取ろうとした珠奈の手には、一向にタオルがやってくる気配がない。
 おやおや嫌な予感がするぞ、とルイを見上げれば、眩しいばかりの満面の笑みを浮かべていた。


「私が綺麗にしてあげる」


 ――何となく、そんな予感はしていた。


 大人しくタオルを渡すような人でない事は、ルイと出会ってからの短い時間の中で十分に理解していたのだ。


「あー、えっと……。自分で全部出来るからあっち向いてて欲しいんだけどな……?」

 珠奈は諦めムードを漂わせつつも、砂粒ほどのわずかな可能性を掴み取ろうとする。
 それが無駄な抵抗だとしても、一応ポーズとして抵抗しておきたいという意図もあったりした。

「珠奈にはお世話になってばかりだからね。私にも珠奈のお世話をさせて欲しいな?ほら、大人しくしていればすぐに終わるよ」
「……私が何言っても無駄なんでしょ?」
「おや、よく分かったね。珠奈は私に身を任せていればいいよ。今日のところは何もしないからね」
「え?ちょ、その言い方だと――」
「ほらほら。早くしないとオオカミ君が出てきてしまうよ?」


(それは困る。めちゃくちゃ困る)


 今この状況下でアランに乱入されたら、この部屋は恐ろしく混沌とした状態になってしまうだろう。

 そんな珠奈の考えを見抜いたのか、ルイは余裕の笑みでタオルをひらひらとさせている。

「珠奈?」
「あーもう!分かった!分かりましたよ!……うぬぐぅ」

 羞恥や不服を飲み込んで喉の奥で唸りつつ、先ほどと同じように膝が見える所までスカートたくし上げた。
 これならば股間はもちろんのこと、内ももにとろりと垂れてしまっている愛液もルイには見えまい。

 珠奈の前に膝をついたルイは、スカートの中にタオル持った手をそっと差し込む。
 不埒な真似はせず、ぬかるんだ秘所を正しく拭ってゆく。

「……ん、………ぁ…」

 珠奈の敏感な場所はただ拭われるだけでも緩やかな甘さを感じとってしまった。
 しかし、ルイはそんな珠奈の反応をしっかり見てはいるものの、揶揄したりせず自らの仕事を全うする。


 珠奈の秘所が綺麗さっぱり快適な状態になり、ルイが秘所からタオルを離した、その時。


「……おやおや」
「~~っ!」


 珠奈の内ももにルイの手の甲が当たった。

 それも、一筋だけ蜜が垂れてしまっていた所へピンポイントに。


 ルイはその内ももにもタオルを当て綺麗にすると、スカートの中から手を引き抜いた。
 そして、ルイは濡れたタオルを手にしたまま、珠奈の蜜が付着した手の甲をペロリと舐めてしまった。

「ん…、とても甘いね」
「……え?は?な、な、何やってるの!?」


(アランもルイも!なんでそんなことするの!)


 この世界の常識ではそういったモノを舐めるのが普通なのか、と混乱する頭で一瞬考えたが即座に否定する。そんなわけがあってたまるか。


「体力回復の一環、かな?命が宿る場所から溢れる体液の方が良質な魔力があるんだよ。……それにしても本当に甘いね」
「なんかもう反論する気力がなくなってきた……」
「おやおや。では、早く着替えてしまおうね」
「ハイ……」

 ここまで来ると着替えの一つや二つで動じることはない。
 たとえ、先ほどまで珠奈が持っていたはずの新品の下着が、いつの間にかルイの手の中に収まっていたとしても。


「私の肩に手を置いていて?うん、良い子。さて、次は足を上げて?」

 珠奈は素直に応じて、ルイの肩に手を置き足元に広げられた下着に足を通す。

 ふくらはぎから太ももへと肌触りの良い下着とそれを持つルイの手がスルスルと上がってゆき、正しくそこに収まった。
 そしてなんと、下着のフチに指を掛けて綺麗に整えてくれるサービス付きだ。それはもう泣きたくなるほどに気の利く対応である。


(あぁ…なんでこんな事になってるんだろ……)


 珠奈が遠い目をしてる中、ルイがテキパキと珠奈の服を整えていると、カチャリと扉の開く音がした。


「珠奈!何もされていませ………待て。その手にしている物はなんだ」

 どこかスッキリとした様子で出て来たアランは、珠奈に話しかけようとした途中で相手を変えた。

 はたから見ればルイの手にある物はただの布の塊であるが、鼻の利く獣人であればそこから放たれるにおいに気がつく。
 それがつい先ほどまで珠奈とあらぬ事をしていたアランであれば尚更な事だろう。

「君が珠奈のお世話を放り出していたからね。私が代わりに手伝ってあげただけだよ」
「貴様っ……!!」
「あーもう!いいから!ほら、アランはちゃんとシャツのボタン留めて。ルイは早くそれから手を離して」

「珠奈、本当に何もされてませんか?もし無体な真似をされたのなら…」
「されてません!」
「私はこれを洗ってくるよ。……おや。誰かが来るようだね」
「え、無理無理無理!そんな物を他人に洗わせるなんて…!……ん?誰か来るの?」


 ――コンコンコン


 来訪者の予定などないはず、と珠奈が考え始めると同時に、扉から来訪者を告げる音がした。

「本当に誰か来たみたい。はーい!今出ます!」

 珠奈がドアを開けると、そこには宿屋の従業員の男性が立っていた。
 その手には何やら立派な封筒が載っている。

「お手紙をお預かりしております」
「手紙……?あ、届けてくださってありがとうございます」
「いえ、では私はこれで」


 封蝋がされた封筒には流れるような美しい文字で署名らしき物が記されていたが、あいにく珠奈には読むことが出来なかった。

「アラン、これ読める?」
「……マルクス・ルーベンと書かれていますが、心当たりはありますか?」
「あー、マルクスさんからだったんだ。この人は魔術省の人で、私が今日会ってきた人だよ。それにしても、会ったばかりなのに手紙だなんてどうしたんだろう?」


 文字が読めない珠奈は、封筒の開封から中身の確認までアランに任せた。
 アランは手紙を開封すると珠奈の要望通りに読み上げてゆく。

 引越しの日に魔術省への案内のためにも馬車の迎えを出すため、手紙記載の時間までには準備を終わらせて欲しい事。
 給料の前借りの許可が下りたため、面会をしたときにそのお金を渡す事。

 要約するとそんな事が書いてあった。


「今日話したばかりなのにもう色々決めてくれたんだ。それに、荷物も少ないし馬車はいらないって言ったのに用意してくれるみたい。迅速に動いてくれたマルクスさんに感謝しなくちゃね」
「この宿から別の場所へ移るのですか?」


(あ、怒涛の展開続きで大事な事伝えるのすっかり忘れてた)


 魔術省で雇ってもらえる事、そしてそこの寮に移り住む事。
 珠奈がそれらをアランに伝えると、今度はルイの方へと向きを変えた。

「と、言う訳で私達は数日でこの宿から引き上げる事になるけど、ルイはどうする?」

 ルイは奴隷の身分ではあるものの、主人もおらず自らの認識票も自分で持っているという、誰の物でもない自由な状態だ。
 真っ当な働き口を探すのは難しいかもしれないが、粗雑な扱いをするかもしれない主人を持つよりかは断然マシである。

「そんなモノそこら辺に捨ておけばいいんです」
「はいはい。アランは良い子だから少し静かにしててね。……ルイはどこか行く当てとかあるの?」
「行く当てなどないよ。だから、私のこの身を売って日銭を稼いで細々と生きてゆくしかないね。でももし、珠奈が側に置いてくれるのならそのような事をしなくて済むのだけれど?」

(あ、これ絶対私に付いてくる気だ……)


 その言葉に悲壮感が漂うが、ルイの表情はとても明るい。
 珠奈としてはこれ以上人手は要らないと思っていたが、一人くらい増えてもさほど変わらないだろう。


「分かった。そしたらルイも一緒に行こうか。でも、お客さん対応はしないし、家事とか色々やってもらうからね!それと、認識票はルイが自分で持っていて」
「おや?契約はしないのかい?私が勝手に逃げたり珠奈の命令に逆らったりするかもしれないよ?」
「私が困るような事はして欲しくないけど、逃げたかったら逃げていいし、嫌な事は断ってくれていいよ」
「……珠奈は変わってるね。では、今はそれでお願いしようかな」
「うん!これからよろし――」


 珠奈が言い終わるより先に、突然後ろからぎゅっと抱きしめられた。


(あらまぁ……)

 ぺそんと耳と尻尾を垂らしたアランが、迷子の様な顔をしながら珠奈に抱きついてきたのだ。
 子犬なアランのケアを少々怠ってしまっていたらしい。

「アランもよろしくね?アランが居てくれるから安心して私が働けるんだから。……私を守ってね?」
「珠奈っ……!」

 珠奈が後ろに手を伸ばして頭を撫でてやれば、たちまち耳も尻尾もアランも元気を取り戻した。

 首筋にグリグリと頭を擦り付けられているが、今はそのままにしておく。
 アランには甘える時間が必要なのだろう。

(急に他の人が増えたらアランだって不安になるものね。さて、二人の顔合わせを改めてきちんとしないと。美味しいご飯を食べながらなら少しは良い感じになるかも!)

「アラン、ルイ!そろそろお腹も空いたしご飯食べに行こうか!」



 多少の言い合いはあったものの、明るい雰囲気の食事はとても楽しく、珠奈はお腹だけでなく心まで満たされた。

 珠奈が自分の就職祝いにと全員分のお酒を頼むと、意外なことにアランは下戸なようで真っ赤に染まった顔で珠奈に甘えていた。どうやらアランは酔うと甘えたさんになるらしい。

 そうして、食事をしながらのアランとルイの自己紹介はつつがなく終わった。
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