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28.マーキング1*
しおりを挟む満月のような黄金の瞳が珠奈の事を見下ろしている。
アランにベッドへと押し倒されている今、珠奈は身動きが取れない。
このような事になってしまった状況を飲み込み切れていないが、いけない方向へと舵が切られた事だけは理解することが出来た。
「えっと、アラン?」
「……あいつと何をしましたか」
(おっと、これはマズい)
今この状況下でルイにされた事、そして珠奈からした事を暴露するのはあまりよろしくない。
一線はもちろん越えてないとはいえ、ちょっとアレな事をした自覚はあるのだ。
もし話すのならばきちんと場を整えたうえで、アランの様子を確認しながら慎重に話すべきだろう。
アランの背に回していた手を外すと、その手で目の前の肩を軽く押す。
一度珠奈の上から退いて欲しかったのだが、その願いはアランに届いていないようでびくともしない。――もっと正確に言えば、珠奈のささやかな願いは届いてはいたのだが受取拒否されたのだった。
押し倒されたままの珠奈は、この場でなんと言えばいいのか分からず見下ろしてくる金色の瞳から目を逸らした。
「珠奈。目を逸らさないで。………俺を見て」
珠奈の頬にゆっくりと口付けを落とすと、腰の下にある腕をするりと引き抜いた。
そして、その手を珠奈の華奢な手に重ねて甘やかな恋人同士のように指を絡めてくる。
「……っ!」
「ねぇ、俺を見て。珠奈」
太く長い男性的な指が珠奈の細い指の間をすりすりと擦ってくると、得も言えぬ感覚が背筋を走った。
ピクリと微かに動いた身体の反応をアランが見逃すはずもなく、お互いの鼓動がしっかりと伝わるほどに更に身体の密着度を上げてくる。
いくらここから逃げ出したくとも押し倒されているうえ、アランの足に体を挟まれている状態の珠奈は身動ぎする事すら難しい。
「ア、アラン……」
目元をほんのりと染めた珠奈がようやく目を合わせれば、嬉しそうな顔のアランがいた。
「やっとこちらを向いてくれましたね」
ちゅっ、と音を立てながら珠奈の目元にキスをすると、鼻と鼻が触れ合う距離に顔を寄せてきた。
少しでも動けば唇と唇が触れてしまうその近さに珠奈は息を詰める。
(……っ!!ち、近すぎる。もうこれどうしたらいいのか本当に分からないよ……)
ふわりとお互いの吐息が触れ合う距離で、アランは静かに口を開いた。
「珠奈。あいつとした事を俺ともして欲しいです。あいつが触れた場所全てに触りたい」
「そ、れは……」
「駄目?そういう事をする俺を嫌いになりますか?」
「嫌いにはならないけど、ちょっと恥ずかしいというかなんというか……」
「珠奈が恥ずかしがってる姿も見たい」
「あうぅ……」
アランの瞳は熱を帯びつつも切実な色をしていた。
それは、後から来たルイに珠奈を取られたくない、という思いからくる物なのだろうか。
(それは私には分からない)
しかし、アランには良きパートナーとして珠奈と共にいて欲しいと考えている。そして、これからもずっとお互い上手くやっていきたいのだ。
そんな良きパートナーとして期待をしているアランの気持ちを蔑ろにはしたくない。
それほどまでに切実な思いを持って求められるのならば、可能な限りは与えたいと思ってしまう。
珠奈は絡み取られていない方の手をアランの首に回すと、そっと唇を重ねた。
それは羽根が触れるような軽い物であったが、珠奈としてはかなりの覚悟を持って行った行為であった。
唇を離すと、気恥ずかしさを紛らわせるように慌てて言葉を紡ぐ。
「ち、治療のためとはいえルイとは、その、キスしたから……アラン?――っん!?」
そんな珠奈の唇を、荒々しくアランの唇が塞いだ。
その些か性急な行為に驚いて閉じた珠奈の唇に、アランの少し薄い舌がぬるりと割って入ってくる。
「んんっ!ふ、ぁ………んふ、っ……!!」
「っ珠奈………ん、珠奈………」
アランは珠奈の口腔をまさぐりながら、何度も何度もその名前を呼ぶ。
溺れるほど深い口付けの合間に紡がれる声は少し掠れていて妙に色っぽく、珠奈の中に灯りかけた小さな火種を煽ってゆく。
たらりと珠奈の口の端から溢れたそれは、もうどちらの物か分からないほどに混ざり合っていた。
全てを貪るような口付けに珠奈は流されるがまま身を任せれば、息苦しさと共に心地良さも感じられた。
ようやくアランの唇が離れてゆけば、珠奈は喘ぐようにして肺に空気を吸い込み、乱れた荒い呼吸のままアランを見上げた。
その瞳は苦しさからか、はたまた気持ち良さからか生理的な涙で潤んでいる。
「はぁ……はぁ……」
「珠奈」
「んっ……」
荒い呼吸を繰り返す小さな口の端から溢れた物をアランの熱い舌が舐めとると、珠奈の呼吸が整うのを待たずに再び深く深く口付けを落としてくる。
鼻で呼吸をする事を忘れてしまうほど何度も貪られれば、珠奈の思考は薄い紗幕がかかったように段々とぼんやりしてとしてきた。
「ぁ、んぅ……ふ、あっ……んぁ…………っはぁ、はぁ…ア、ラン……」
「っん、はぁ……珠奈、…珠奈」
啄むようなキスが唇から首筋、そして荒い呼吸のせいでいつもよりも大きく上下している胸元へと下りてきた。
珠奈は首の詰まったワンピースを着ているため、当然胸元は服で覆われている。アランはその服の上からちゅっ、ちゅっ、と何度も何度もキスをしているのだ。
それなのに、まるで素肌に熱い唇を寄せられているような錯覚に陥ってしまった。
「ぁっ……」
「……あいつと、他のにおいもする。誰に何をされたんですか」
布越しに珠奈の豊かな胸元に顔を埋めたまま、何度も執拗なまでにキスをしてきた。
谷間から僅かに覗くその顔には、不快感でいっぱいという感じで眉間には深いシワが寄っている。
「ルイには少しだけ触られた」
「もう一人は?」
確かに今日珠奈の胸と接触した人物は二人いる。
勝手に触ってきたルイと、ルイを助けるお色気大作戦の結果、逆セクハラ紛いな事を珠奈にされたルイの元主人の男性だ。
後者は珠奈に押し付けられただけであちらからは一切手を出してはいないが、胸に触れたという点ではルイと変わらない。
「……えーっと、ルイの元主人に諸事情でちょっとだけ胸を押し付けました」
「…………はああぁぁぁぁ」
アランが地面に突き刺さりそうなほど深くため息を吐くと、少し怒ったような顔で珠奈を見てきた。
「珠奈、あなたはもっと警戒すべきです。もし、その輩が力に物を言わせて迫っていたらどうなっていたと思いますか?」
(今まさにそうなってますけどっ!!)
そう思いつつも、そんな事はとてもじゃないが今は言えない。
ルイを助けるためとはいえ、珠奈も自分が随分と不用心な事をしたという自覚はあるのだ。
「……ごめんなさい」
「もう絶対にそんな真似はしないでください」
「うん、わかった。……って、ちょ!待って!何してるの!?」
「マーキングしておきます」
アランはいつの間にか珠奈のワンピースのボタンに指を掛けている。
首元から胸の下まで続く小さな包みボタンを、止める間もないほどの素早さで全て外された。何か特殊な技術でもあるのではないかと思うほどの早業だ。
ワンピースの胸元を開けられてしまえば、すぐに珠奈の豊かな胸を包む淡いピンク色の下着が現れた。
「あっ……」
下着から出ている素肌の部分にアランの唇が触れると、小さな甘い疼きが腹の中に生まれた。
ちゅっちゅっ、と柔らかな肉の感触を楽しむようにして啄んでいるアランはとても楽しそうだ。後ろに見えているフリフリ尻尾がその証拠である。
しかし、珠奈はそれどころではない。
「あのね、アラン?流石に直接触られたわけじゃないよ?」
「分かっています」
「ま、まって…!んっ……」
(分かっててやめないのね!)
珠奈の胸から首元まで舌を這わせ顎先まで辿り着けば、そのまま珠奈の唇に深い口付けを与える。
先ほどの最急な口付けよりも幾分か落ち着きのある動きで、珠奈の舌を余す所なく堪能してゆく。
「んふ、ぁ………んっ、む…………っふぁ……」
アランの少し薄い舌が珠奈の舌の裏を何度もなぞると、その刺激に腰がひくりひくりと反応を示してしまう。
それは当然ぴったりと身体を合わせているアランにも伝わる事となる訳で……。
「…ん、気持ち良いですか?腰がゆるゆる動いてて可愛い。それに珠奈の匂い、すごく俺を誘ってくる」
「に、おい……?」
「はい。ここからとろけそうなほど甘い匂いがしてます。……珠奈に自覚はないんですね」
「んっ…!」
アランが珠奈から身体を少しだけ離すと、下腹部に手を当ててくる。
そして、そのまま下へと伸びた手は、スカート越しにある珠奈の甘い匂いの大元のすぐ近くまで辿り着いた。
布越しに優しく撫でられてるだけなのに、珠奈はついその先を想像してしまう。
そのせいで甘い匂いを強めてしまったようで、アランはすんすんと鼻を動かしながら満足そうに笑った。
「俺で感じてくれて嬉しいです。……このままもっと可愛い珠奈を見せてください」
「まっ、――あぁっ!」
下半身を撫でていた手を離したかと思うと、両手でワンピースの胸元を大きくくつろげ、おもむろに珠奈の下着を下へずらした。
下着から解放された柔らかな乳房がまろび出ると、珠奈が胸元を隠す間も無くアランの大きな手の中に収まった。
ゆっくりと円を描くように揉まれれば、アランの指の間から覗く桃色の頂が擦れ、甘い痺れを珠奈にもたらす。
「あっ、んぁ!…まっ、て、あっ!……んっ…!」
「珠奈の胸は柔らかいのにここは硬くなってる。すごくいやらしくて、可愛い…」
「っん!あ、らん………あっ、ふぁ……!」
アランは指の腹で左の胸の頂を慈しむように撫でながら、右の胸へと舌を伸ばす。
下乳からツンと立ち上がった桃色の頂までねっとりと舐め上げると、そのまま棒付き飴を舐めるかのようにぺろぺろと美味しそうに小さな粒を舐め始める。
アランの長い舌がただペロリと舐めるだけでも身体の奥が疼いてしまうのに、優しく強く緩急を付けた胸への愛撫に珠奈は身体を震わせた。
「あぁ!だめっ、あっ、あっ!ほん、とにもうっ……!」
「ん……駄目?ここ、こんなに喜んでるのに」
「んあぁっ!!」
アランのせいでしっかりと存在感を示したままのその頂をきゅっと指先で摘まれ、珠奈は一際高い嬌声を上げた。
軽く摘まれただけであったが、執拗に愛撫され続けていたそこには刺激が大き過ぎたのだ。
じんわりと身体の奥から滲む甘い熱を感じながら、珠奈は性的な刺激によってもたらされた生理的な涙を流した。
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