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閑話・新しい主人*

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 アランは冷めたい水をバケツでかけられて目を覚ます。
 何度も打たれた薬のせいで意識は薄ぼんやりとしており、凍えるように冷たいはずのその温度は感じていなかった。

 乱暴に鎖を引かれ足をもつれさせながらも、大人しく後について歩く。思考力を奪われた状態では反抗する気も起こせない。


 そして、いつの間にかアランの目の前には一人の女が座っていた。


(新しい、主人か……)

 今度はどんな風に使われるのか、と考える力さえ今はない。

 主人である彼女の指示通りに手を差し出すと、武人らしいアランの無骨な手よりも一回り以上小さい華奢な手がそっと触れ、小さな針で指先を突いた。
 隷属の契約のために血を取られたはずなのだが、その痛みを感じる事はなかった。

 言われるがまま彼女に付いて歩く。ぼんやりとした頭でも、主人からの命令は不思議と聞こえてくる。

 宿屋の一室に通されると風呂に入るようにと言われたため、アランは大人しく従った。彼女は途中何やら騒いでいたが、アランにとっては至極どうでもよかった。

 そのままシャワーを浴びていると、徐々に思考がクリアになってくる。
 それと同時に頭上から降り注ぐ冷水の冷たさが肌を刺し、心の底まで凍えるようであった。

(手が使えない以上、このままシャワーを浴びるしかないな。この冷たさは堪えるが、奴隷なのだから仕方がない。水浴び出来るだけマシだな)

 どのくらい時間が経った頃だろうか。アランは誰かが部屋に帰ってくる気配を感じた。
 その気配の主は部屋の中で何やら動き回った後、焦ったような声を上げながら浴室の扉を開いた。


「ねぇ、大丈夫!?気分悪くなったりしてな…………いみたいですね。ノックもなしに急に扉開けてほんっとすみません…」


 奴隷であるアランに気まずそうに謝ってきた主人に視線を向ける。薬で朦朧としている時には気が付かなかったが、新しい主人は珍しい服装をした綺麗な女性であった。
 アランと同じ黒髪をした彼女がはっと顔を上げると、服が濡れるのも気にせず冷たいシャワーと止め、再びアランに謝罪をした。

(……この女は何故、奴隷相手にこんなにも下手に出るんだ?)

 アランは今までされた事ないその対応に、少しばかり困惑する。奴隷など雑に扱われるのが常であり、人間と同じように扱われる者など、主人の寵愛を受けた一部の愛玩奴隷くらいであるからだ。

 氷のように冷たくなったアランの手を、彼女の温かい手が包み込むようにして触れた。
 その酷く心地の良い体温を感じていると、手を引かれバスタブへと誘導された。

 冷えきった身体も温かい湯に浸かっていると段々とほぐれてゆき、それと同時に思考の幅も広がってくる。

(あの女は護衛として俺を使いたいのか?いや、風呂に入れて身綺麗にさせるのだから、愛玩奴隷として買った可能性も高い。あの女相手であれば薬なしで問題なく出来るかもな)

 今後の自分の運用はどうなるのか、と考えていると、控えめなノックが聞こえてきた。


「あの、入りますよ」

 了承の意を伝えれば、彼女は随分と露出の多いはしたない格好で現れた。

(いきなりだな。まぁ、そういう目的で買ったのならこんなものか)

 彼女は蛇口の湯を止めると、何やら迷ったような動きをしつつ、髪の毛を洗うと言ってきた。
 性行為をするのなら汚いままでは嫌なのだろう、と大人しく彼女の行為を受け入れる。

 人に洗髪される心地良さに少々気を緩めていると、突然耳に温かな物が触れた。

「あ、急にごめんなさい。耳をタオルで拭くので少し我慢していてくださいね」


(この女はまた俺に謝った。一体何なんだ)


 温かなタオルで耳を拭かれると、身体にゾクリとした快感が走った。
 優しく強く、緩急をつけて何度も拭かれるその感覚に、己の肉棒が微かに反応を示す。

 彼女は楽しそうにもみもみ触ったり耳の縁をなぞったりしているのだが、やられているアランとしては堪ったものではなかった。

(っ……!くそっ)

 何とか意識を逸らして耐えているアランの事を知ってか知らずか、気持ちいいか、などと尋ねてくるではないか。
 事務的に答えたつもりであったが、耳に触れられているせいか、はたまた若い女に触られているせいか、堪えきれなかった吐息が口から漏れた。
 その艶を帯びた吐息に彼女がほんの少しだけピクリと反応したが、すぐに何事もなかったかのように作業を続行する。

 ようやく耳への愛撫のような拭き取り作業が終わると、今度は洗い場に出ろと指示を出される。
 そろそろ行為を求められるのだろう、とアランは己の身体を確かめる。緩く勃っている状態だが使えないこともない。

(それにしてもこの女、ヤるつもりのくせに発情してないな)

 さて次はどんな指示を出すのか、と彼女の方を見れば、アランの勃ち上がったそれを視界に入れた瞬間、顔を逸らした。
 そういう行為を望んでいるはずなのに何故なのか、と疑問に思っていると次の指示が飛んできた。

「す、すみません。私に背中を向けるようにして床に膝をついてもらえますか……?」

 そう言った彼女は、アランのそれが見えないようにタオルを掛けてきた。
 アランはすぐにでも求められるだろうと覚悟していたのだが、その機会が訪れる気配が全くない。

(この女の考えが分からない。さっさとヤるために主人自ら俺の身体を洗ってるのかと思ったが……。何か違う目的があるのか?それにしても………)

 目の前にいる彼女からは、熟れた果実のような甘い香りが溢れていた。それは香水でも発情の匂いでもなく、純粋な彼女本来の身体の匂いだ。
 アランはその匂いを求めたくなる気持ちをなんとか抑え込む。

 彼女は甘い香りを漂わせながら、その細い指をアランの手に絡めて指先まで丁寧に洗う。
 そうされると、まるで想いが通じ合う者同士であるかのような錯覚に襲われた。
 背中に彼女の華奢な手が触れれば、傷を気にしながら優しく洗うその手つきに、不覚にも心地よさを覚える。

 アランに投与されたのは思考力を奪う薬だけだ。
 媚薬やそれに準じる薬を飲んでいないのに、何故こんなにも気持ちが昂るのだろうか。アランは己の心に問いかけたが、その答えは出そうになかった。

 バスタブのフチに座れと言われそのようにすれば、彼女は気恥ずかしそうな顔を背けてながら、先ほどよりも育ったものがある下腹部へタオルを掛けた。

(何故、そのような顔をする?もしかして、彼女は本当に愛玩用として俺を使うつもりがないのか……?)

 献身的にアランの身体を洗っている彼女を見下ろしていると、不意にその黒曜石のような瞳と目があった。
 その瞳には何故か安堵の色が見える。

(なんだ?まさか、俺を心配してた……?)

 そんな事を思ったのも束の間、すぐに硬い表情に変わってしまった。
 どうかしたのか、と彼女の様子を伺えば、少し緊張した面持ちで口を開いた。

「尻尾を洗います。バスタブに腰を掛けたまま、こちらに背中を向けてもらえますか?」

 了承をし指示通りの体勢を取ったものの、アランは少しだけ焦りを感じていた。


(今彼女に尻尾を触られるのは、まずいかもしれない)


 耳と同様に尻尾はアランの性感帯なのだ。
 心の伴わないような相手に触れられた所で嫌悪感しか湧かないが、目の前にいる甘い匂いの彼女であればどうであろうか。

 そして、その疑念は確信へと変わった。


「……っ!」

 尻尾の付け根に指を差し込まれると、己の肉棒に直接響くような甘い快感が突き抜けた。
 その指先の動きに息を詰まらせたアランを、彼女は痛みのせいと思ったようであった。

 そのまま丁寧な手つきに尻尾全体を洗われてゆく。
 手でそしてブラシで、汚れや絡まりをなくしていく作業をする彼女には、アランを綺麗にする事以外の他意はないのだろう。

 しかし、触れられている側はそうはいかない。

 徐々に熱を高める己の屹立を感じながら、アランは快楽を逃すように深い呼吸を繰り返す。
 彼女にその気がないのなら、どうにかしてこの昂りを抑えなくてはいけない。


 そんな折、彼女は不意にブラッシングの手を止めた。

「尻尾はこれで終わりです。お風呂から出たら絡まった毛を少しだけカットします。次に、あの……その……下を洗いますので、立ってください……」

 背を向けた状態では彼女の顔を見る事は出来ないが、熟れた林檎のように顔を赤らめさせているだろう事だけは分かった。
 彼女はかっちりと硬い臀部を洗い、そのまま本来であれば主人が触れるべきではない不浄の場所へも手を滑らせてきた。


(っ……。このような場所を…………っ!?)


 優しく後孔を撫でていたかと思うと、おもむろに反対の手で猛った己のそれを掴んできた。
 彼女の滑らかな手で触れられただけで、下腹部に一気に血液が集まってくるのが良く分かる。

 そのままきゅっと手に力を込められれば、もう後戻りは出来ないほどの状態にまで育ってしまった。
 それは当然、アランのそれを直接掴む彼女の手にも伝わったのだろう。背後で小さく息を飲む気配を感じた。

(彼女の善意の行為でこうも反応してしまうなど、情けない……)

 少しでも己の昂りを抑えようと深く息を吐いた時、彼女の手が思いもよらない行動を起こした。
 ゆるゆると拙く動くその手は洗浄をするため動きではなく、確実にアランの熱を解放するための動きだったのだ。

「……!このようなことを、っする必要は、ありません!………っ!」
「でも、その手の状態では自分で処理出来ないでしょう?これも主人の役目です。私に触られるのは嫌かもしれませんが、少しだけ我慢してください」
「ん……っ!…………あ、なたは……くっ!」
「大丈夫です。危害は加えません」

 そう言って動かされる華奢な手と、背後から感じる彼女の甘い匂いにアランの理性は呆気なく綻び始める。
 彼女を求めるように腰を動かせば、それに合わせて彼女の手もアランを追う。
 本能に従い動く腰を止める事などもう出来はしない。

 アランが感じているのは、熱い己の屹立に与えられている快楽と、彼女から溢れる瑞々しく甘い香り。

 そして、もうひとつ。

 いつの間にか彼女の身体の匂いだけではなく、アランの下半身に直接響くような情欲を掻き立てる芳香も感じた。

(はぁ……ん…。これは、彼女の発情の匂いか?とろけるように甘い。……この匂い、堪らない)

 彼女の手に己を打ち付ける腰の動きを早めた時、彼女の手が先走りをだらりと垂らす亀頭へと伸びた。
 彼女の甘い香りに酔いながら、穢れを知らないような華奢なその手で亀頭と竿を同時に刺激されれば、己の熱は驚くほど呆気なく弾けた。

 どくどくと際限なく溢れ出るアランの精液に困惑しているのを感じたが、今更彼女の手から己の屹立を離す事など出来ない。

(今、この手を離されたら彼女の蜜に濡れるそこに、無理やりにでも押し挿れてしまうだろうな。……あぁ。駄目だ、彼女の発情の匂いに我慢が出来そうにない)

 何とか心を落ち着けて主人である彼女へ謝罪の意を伝えれば、驚くほど寛容な答えが返ってきた。
 このような行為をさせてしまったのに、照れたように笑いながらアランに良き相棒になって欲しいと言うのだ。

(彼女は今までの主人達とは違う。俺を厭ったり見下したりなどせず、こんなにも世話を焼いてくれている。それにこの甘い匂い。彼女の人柄を良く表しているのだろうな)

 彼女の身体の甘い果実のような匂いも、とろけるような濃厚な蜜を感じる発情の匂いも、もう手放せないほどに堪らない。
 アランは自分でも気が付かないうちに、彼女の一挙一動から目を離せなくなっていた。

 そんな彼女はしなやかな足を無防備に晒しながら、だらりとカウチに腰を掛けていた。
 白く柔らかな太ももの奥にあるその花園から、アランを誘うような蜜の香りが届く。
 彼女の理性にその気がなくとも、アランという男の昂りを間近に感じた身体は本能で求めているのだ。


 花を求める蝶のように、アランは彼女の奥に隠された耽美なる花園を目指した。

 止めどなく溢れる蜜と甘い芳香に、アランは自制が効かなくなるほどに酔ってしまった。
 その蜜を一滴も零さないよう夢中で舌を這わせれば、彼女は身体をひくつかせながら高まってゆく。

 蜜壺から溢れる淫靡な甘露も。
 はらはらと零れ落ちるその涙も。
 薔薇色の唇から奏でられるその嬌声も。
 壊れてしまいそうなほど柔らかなその肌も。

 それら全てが愛おしく感じられた。


(これはもう、逃れられないな)


 極上の果実のような彼女は、とろりと甘い蜜をアランに与えながら身体を震わせ絶頂へと辿り着く。
 意識を手放してもなお溢れる彼女の花園に舌を這わせながら、アランはコクリと喉を鳴らした。
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