奴隷を解放したのに出ていきません

茶々

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11.アニマルセラピー

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 珠奈はゆっくりと目を開く。達した反動で意識を手放してしまったが、どれほどの時間気を失っていたのか。

 ふと、下腹部に温もりを感じて視線下に落とせば、未だにほろほろと雫を溢すそこに顔を埋めている人物がいた。
 自分の置かれている状況を理解すると、ぼんやりとしていた意識が一気に覚醒する。


「……っ!もうそんなことしなくていいですからっ!!」


 珠奈は甘い余韻の残る身体に鞭を打ち、はしたないその行為をやめるようにと身動いだのだが、一向に止める気配がない。むしろ一層深く顔を埋めてきた。

 珠奈の身体から溢れるその蜜は決して美味しいものではないはずなのに、何故そんなにもうっとりとした顔で舌を這わせているのか。
 心なしか尻尾まで嬉しそうに揺れている。

 目の前で繰り広げられている、首輪をつけ腕輪で拘束された上半身裸の端正な顔立ちの男性が、ぬらりと艶めく赤い舌を股に這わせている倒錯的な光景に、珠奈は目眩がしそうになる。

(なんでこんな事に……!そりゃまぁ気持ち良いけど絶対駄目でしょ!!)

 これ以上されたらまた新しい熱を持ってしまう、と珠奈が危機感を覚えた時、ようやく満足したのか秘所から舌を離した。
 珠奈のそこと彼の舌を繋ぐその糸は、果たしてどちらのものなのか。

 そして、また甘えるようにして内ももに頬を擦り付けてくる。

「まだ甘い香りがしますが、一度達して楽になったようですね。……あなたのここから溢れる甘露に酔ってしまいそうです」
「っあ……!」

 まだ敏感なそこに軽いキスを落とすと、やっと珠奈の足の間から身を引いた。
 慌てて丸出し状態の足を閉じ、タオルで身を隠すと珠奈は潤んだ瞳で目の前の人物を睨みつける。

「もうこんな事はしなくていいので!私があなたにお願いしたいのは日常生活における護衛です!こういった、その……いやらしいコトをさせるためにあなたを選んだのではありません!!」
「俺はあなたが望むのなら、いつでもお慰め致しますが…」
「っ!結構ですので!!」
「……分かりました」

(なんでちょっと残念そうな顔するの!?あー、揺れてた尻尾も止まっちゃった。いくら契約上の主人相手とはいえ、こんな事したくないだろうになんで……)

 愛玩用という名の性奴隷が当たり前のように売られている世界だ。そういった性処理を気軽にやらせているのかもしれない。
 しかし、いくらその気持ちよさに流されそうになったとしても、性的な事を彼にさせるつもりは毛頭ないのである。


「と、とりあえず私は着替えますのでここから出て欲しいのですが…」
「お召し替えの手伝いをしたいところですが、この手では少し難しいですね。…では、お部屋でお待ちしています」

 彼の背中を見送ったとき、その背に付いていたはずの無数の傷が随分と薄くなっている事に気がついた。

(あれ?もう治ってるの?もしかして、獣人って人間よりも回復力があったりするのかな?それにさっきよりも顔色がマシになってるし、薬の影響も抜けてきてるみたい)

 傷については後で聞いてみよう、そんな事を考えながら脱がされた下着を手に取った。
 そして、自身の愛液がべっとりとついたそれに、盛大なため息を吐いたのだった。


 珠奈は下着を手洗いしてドライヤーで乾かし、なんとか着替えを終えて部屋へと戻ってくると、彼は座りもせず部屋の隅に立っていた。

「あの、座ってください。立っていると疲れてしまいます」
「いえ、お気になさらずに」

 どうやら立っているのが奴隷的マナーのようだ。
 しかし、珠奈が主人になったからにはそのような事はさせない。こちらの世界の基準ではなく、珠奈の中の基準に従ってもらう。

「私は気にします。あなたはまだ本調子ではないはずです。こちらに座って、少しあなたのことを聞かせてください」
「……分かりました」

 ぽふぽふとソファーを叩けば、きちんとその場所に座ってくれた。
 嫌がったり拒否したりする気配がないので、まずは彼自身の事について聞いてみることにする。

「えーっと、ではまずあなたの名前を教えてください」
「はい。俺はアランと申します。森狼の系譜の獣人です」
「……しんろう?」
「古くから森に住う狼の血を引く種族のことです」

(アランって名前なんだ。そしてやっぱり狼!もふもふの尻尾と耳が立派なのも納得!)

「アランさんと言うんですね。私は珠奈、高橋珠奈と言います。気軽に珠奈って呼んでくださいね」
「珠奈様、ですね。かしこまりました。そのようにお呼びします」

 主人といえど偉ぶるつもりはないので敬称はいらないのだが、まだお互い初対面の状態だ。呼び方など追々改めてもらえばよいだろう。
 その初対面の状態であんな事をしたのはなんなのだ、と叫びそうになるのをぐっと堪える。


「次にあなたのお仕事についてです。あなたにお願いしたい事は私の護衛兼、付き添いです。今の私の状態では難しいですが、仕事を始めたら報酬として少しですがお給料をお渡しします。それ以外のことについてはやらなくて大丈夫です」

 言外に先程のような事はしないくてよい、と改めて釘を刺しておく。
 彼なりのサービスだったのだろうが、もうあんな事をいきなりするのはやめて欲しい。

「とりあえず、明日は一日お部屋でゆっくり身体を休めてください。その間に私は役所に行ってきます」
「外出されるのでしたら俺もお伴します」
「いえ、駄目です。あなたはしっかりと休んで、明後日からしっかり働けるように体調を万全にしてください。休息も仕事のひとつです」

 アランはあまり納得のいく顔をしていないが、つい数時間前まであれほど酷い扱いをされていたのだ。今は少しでも身体を休めなくてはいけない。

「とにかく!明日は一日寝ていてくださいね。後、あなたの身体についてお聞きしたいのですが……」
「俺の身体に興味が?」

 そう言いながら珠奈の方へと少しだけ身体を乗り出してきた。
 まだ濡れた髪が妙に色っぽい今の状態で見つめられると、少々おかしな気分になってくる。

「言い方!!身体に興味があるというか、あなたの身体の傷についてです!……随分と治りが早いようですが、それは種族的な特徴なのですか?」
「……そういえば、いつの間にか身体が楽になっていますね。獣人なので人間よりも傷の治りは早いですが、これほど早く治癒することはありません」
「え?じゃあどうして?」

 珠奈は日用品店で買った傷薬の軟膏をまだ使っていない。なのにどうして傷が治ってしまっているのか。
 アランは少し考えるようにして目を伏せると、いきなり珠奈の前に跪いてきた。

「少しだけ確認させていただいてもよろしいですか?」
「?はい」
「失礼します」

 何を確認するのだろうか、と首を傾げていると、つい先程の時のように珠奈の足の間に割り入ってきた。
 性急なその行動に驚いた珠奈はワンテンポ反応が遅れてしまい、その侵入を許してしまった。


「ま、ちょっ、あなたはまた何してるのですかっ!!」


 珠奈の履いているフレアスカートの中に頭を突っ込ませながら、すんすんと匂いを嗅いでいる。何なのだろう。人の股間の匂いを嗅ぐのが趣味の変態なのだろうか。

「……先ほどは薬の影響と、珠奈様から溢れる発情の甘い匂いに夢中で気が付きませんでしたが、微かに魔力の香りがします」
「もう!スカートから出てきて………え、魔力?」

 突然降ってきたそのワードに珠奈は目を瞬かせる。他にも少しばかり気になる言葉はあったが、それはひとまず置いておく。

 この世界に魔術や魔術具がある時点で、そういったファンタジーな世界なのだと認識はしていた。
 しかし、そんなファンタジーな要素を自分が持ってるとは思ってもみなかったうえ、その実感もない。

 アランの話を聞くために、スカートをたくし上げて顔を出してあげる。少々気恥ずかしいが、タイツを履いている分先ほどよりいくらかマシだ。

「はい。このような事は初めてなので確証はありませんが、珠奈様の魔力を帯びた体液を摂取したため傷の治りが早まったのかもしれません」
「た、体液の摂取………」

 アランが摂取した体液などひとつしかない。
 珠奈は気を紛らわせるようにして、眼下にある立派な耳をもふった。

「……そうですか。魔力云々についてはよく分かりませんが、アランさんの傷が治ったのでよしとしましょう」

 ふかふかで肉厚な耳を触っていると心が落ち着いてくる。
 太ももに挟まれるような場所に顔を置かれて匂いを嗅がれ、少しばかり心が荒れそうだったのだが、アニマルセラピーの効果は凄まじい。

 もみもみとマッサージをするように耳を触れば、アランも心地良さそうに目を細めて、すりすりとタイツ越しの内ももに頬を寄せてくる。少し強めに触っても大丈夫なようだ。

「……はぁ。珠奈様、このまま再びあなたを慰めさせてもらっても……」
「駄目です!!!」


 珠奈は即座にもふっていた手を離したのだった。
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