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しおりを挟むコツコツ、と響く軽い足音で目を覚ます。
いつの間にか寝てしまっていたようだが、窓のない牢屋の中では一体どれほど寝てしまっていたのか分からない。
(誰だろ……?私に会いに来る人なんて誰も……)
ぼんやりと牢屋の外に目をやれば、このような陰気臭い場所にはそぐわない美しいドレスの裾が見えた。
「ステラフィアラ様……!」
「……ご機嫌よう、ジュリエット様」
(彼女には会いたくなかったな……)
牢に入れられ枷を嵌められた惨めな姿など、見られたくなかった。
もうすぐ死ぬステラフィアラの事など捨て置き、そっとしておいてくれたらいいのに、何故このような場所までわざわざ足を運んできたのか。
彼女から目を逸らすステラフィアラをよそに、今にも泣きそうな顔したジュリエットの白魚のような指先が冷たい無骨な鉄格子を掴んだ。
「……このような事になってしまい申し訳ありません。わたくしは……いえ、わたくしだけでなくシルヴェリオも、あなたの死など本当は望んでいないのです……」
(何故、あなたがそんなことを言うの?まるであなたが私を死に追いやったみたいじゃない)
潤んでいた青い大きな瞳からは涙がはらはらとこぼれ落ちる。
その健気な姿にお付きの騎士が心配そうに手を差し伸べたがそれを手で断り、ただひたすらにステラフィアラを見つめていた。
ジュリエットは嘘偽りなくこの現状を嘆き悲しんでいたが、そんな姿を見てもステラフィアラの心は少しも動かなかった。
「何か欲しい物や、して欲しい事はありませんか? 体調はどうでしょう? お医者様をお呼びして……」
「いえ、何も必要ありませんわ。全てここに揃っておりますの」
「ステラフィアラ様……」
誰の目から見ても、こんな場所に揃っている物など何もない。
貴族用の牢屋であれは王城の客室と遜色ない設備が整っているのだが、ここは地下牢の最奥だ。
魔法を封じる特別な素材を使い、強いまじないの力でさらにその効果を高めている特別な牢屋。
「……ごめんなさい、わたくしでは力不足ですのね。何か言いたい事や誰かに伝えたい言葉などはありませんか? 」
(もしここでシルヴェリオ様の事を伝えたらどんな反応するんだろ? 最後の最後に私に情けをかけようとしてきましたよーって)
いつも朗らかで淑女として完璧なジュリエット。
そんなジュリエットよりも先にシルヴェリオの体をもらえる機会があったと伝えたら、少しでもステラフィアラに嫉妬をするだろうか。
ほんの少しだけ意地悪な心が顔を出したが、すぐにその考えを打ち消す。
どうせすぐにこの世から去る身なのだ。
ならば、下手な遺恨は残さず綺麗に去るべきだろう。
ステラフィアラはいくらかの時間を掛けて、ひくつく喉から何とか声を絞り出した。
「…………シルヴェリオ様と、お幸せに」
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