上 下
13 / 20

初めてのお出掛け ②

しおりを挟む


フロリアン様とクラウシー様の背中を押した勢いで外に出てから、私は外の明るさに驚いて空を見上げた。

芝の感触なんていつぶりだろうか。もうほぼ忘れかけていた草と土の香りが一気に私を包んだ。

「わぁ…」

「リア。行こうか。」

フロリアン様に手を取られて、私は歩き出した。
手を引いてくれているのに強引さは全くなくて、とても優しい。手を繋ぐのが初めてではないみたいに安心してしまった。……そういえば私、誰かと手を繋ぐなんて初めてだわ……!

「ふ…フロリアン様、て、手が、あの…!」

「あ…嫌だった?ごめんね、つい癖で……」

パッと手が離れる。フロリアン様は少し悲しそうな顔をしながら、屈んで私に目線をあわせてくれた

「嫌とかじゃなくて、ただ…」

「ただ?」

「あの、フロリアン様は、は、はずかしく……ないのですか?」

俯きがちにそう言うと、フロリアン様は小さく笑って私の手を握った。

「恥ずかしくないよ。こんなに可愛い子と手を繋げるなんて幸せだな~とは思うけどなぁ。リアは僕と手を繋いでるのを人に見られるの、恥ずかしい?」

「えぁ、そんな!フロリアン様がどうとかじゃなくて、私が!慣れてないので…!」

「ふふ。そっか。じゃあゆっくり慣れてってほしいな。」

「はいはい。そこまでで~す。おじょーさまもこう言ってることだし、今日は手なんか繋がなくてもいいでしょう?」

クラウシー様が私とフロリアン様の間に入った。
こうして目の前に来ると、クラウシー様の背中はフロリアン様やお兄様よりずっと大きくて逞しい。お友達のような先生だと思っていたけれど、やっぱり騎士様なのだわ。

そんなクラウシー様を全く気にしてないように、肩を軽く押し退けたフロリアン様と再び目が合う。

「リア?今日はクラウス卿もいるしリアに気を使わせちゃうからリアの言う通りにするよ。僕は君のペースに合わせるから心配しないでね。」

「ふん。なら最初からやめとけばいいのにな。」

「あぁそうか、クラウス卿は知らないかもしれないけど…僕はリアと手を繋いで歩くのが普通だったから、つい。今後は気を付けますよ。」

なんだかお二人の言い合いはお兄様とクラウシー様の言い合いとは違う雰囲気がするわ。お二人とも笑っているのに笑っていないような…?



フロリアン様が用意してくださった馬車に乗って少しすると、大通りから少し外れた閑静な道に入り、止まった。

「着いたよ。あ、降りるのに手を貸すのは大丈夫?」

「は、はい。ありがとうございます。」

フロリアン様の手を借りて馬車から降りる。
私は家から出たことがないから、目の前に並ぶ小さな建物がお店なんだと気付くと胸がドキドキしはじめた。

「ここはね、大通りよりも古くからある店の通りで腕のいい職人が多いんだ。その分値も張るから庶民はあまり来なくて静かなんだけど、ゆっくり見ることができるよ。ショッピングの雰囲気には物足りないかもしれないけど……。」

フロリアン様から説明されて外観を改めて見ると、確かに看板は年季が入ったものがほとんどだ。文字が掠れてしまっているものも少なくないけれど、きっとそれでも腕の良さを知る人は買いにくるから関係ないのね。

「リアはどの店に入りたい?アクセサリー、ドレス、香油、刺繍糸の店なんかもあるよ。」

私に委ねられた選択肢はどれもキラキラしたものだった。たった数日前まで、私の選択肢といえば何を手に取っても同じようなドレスだけだったから。

「えっと、そうしたら…香油のお店に行ってみたいです…!」

ドレスもアクセサリーも昨日たくさん買っていただいたから、香油をみてみよう。
ラベンダーのほかにはどんな香りがあるのかしら。

「うん。じゃあこっちだよ。」

一本道とはいえ、たくさんのお店が並ぶ中から迷わずに香油のお店に行けるなんてすごいわ。
そう思って歩き出すのが少し遅れてしまったら、フロリアン様が不安そうな顔で振り返った。

「…あ、まって誤解しないでね?この通りはその、未来?過去?の君と何度も来たから自然と覚えたんだ。他のレディーと来たとか、そういうことは絶対ないからね?」

「え?は、はい。」

そっか、考えていなかったけどそうだったんだ…。私はどんなものが好きだったのかな。どんな風に楽しんでいたんだろう。ちゃんと楽しめていたのかな。

「……ふふ。リアはね、きっと香油の店を気に入るよ。君が1番好きな香りを当てようか?」

「それ、知ってるなら反則なんじゃないですか?」

「クラウス卿は護衛だろう?着いてきてくれればいいよ。」

「……なぁリアおじょーさま、おれがおじょーさまに似合いそうなやつ選んだげる。入ろっか!」

「あ、ちょっと…!」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

王命を忘れた恋

水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...