最弱な奴が実は最強?

レン

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次なる戦場へ

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 一通り話し終えたクレアを見ながら俺の心に湧いた感情は怒りだった。
 けどそれはクレアに対する怒りではない。この国に対する怒りだった。
 確かにクレアは俺の姉を殺した奴らである軍の奴等の仲間ではあるがそれはクレア本人意思ではない。
 しかも俺もあの夜に暴走していろんな人を犠牲にしてしまった。
 そんな俺がクレアを責めることができるのだろうか?    
 どちらとも大罪を犯したのだ。俺にはクレアを責める資格などないことは俺が一番分かってる。
 でもそれでも俺は怒りを隠せなかった。
 この国に対して。この国のトップに対して。
 やはり俺の見立て通りこの国は腐っていた。根底から腐りきっていた。
 そして怒りが湧いてくると同時にやるせない気持ちになった。
 クレアも被害者なのだ。この能力至上主義の世界が生んだ被害者なのだ。
 それに対して俺はこの怒りをどこに向ければ良いのか分からなくなった。
 するとクレアは俺を見ていった。
「俺を可哀想とか思うなよ。俺が自身で信じた道を進んだ結果だ。早く俺を殺せ。」
 その言葉に俺は下を向き拳を硬く握った。
「出来るわけがないだろ・・・。」
 俺はか細い声でつぶやいた。
 そして次の瞬間、クレアが驚きの行動に出た。
 隠し持っていたのだろうナイフで自分の心臓を突き刺したのだ。
「何してんだ!!!」
 俺はクレアを抱える。クレアの口からは血が溢れた。
「ありがとうな・・・。」
 血と共に口から出た言葉に俺は驚いた。
「俺は怖かった。いつか復讐に囚われ自分を見失うんじゃないかって。」
 その言葉で分かった。クレアは元々自ら死ぬ気だったのである。
 自分が自分でなくなる前に。
 そのことを気づいた俺は叫んだ。
「こんな勝ち方ってありかよ!!!」
 なんともやるせない。
 俺だって気づいていた。この世界がおかしいということに。
 でも俺は奈津も敵であるクレアも救えなかった。
 そしてクレアの最期の時が来た。
「もう終わりだ。斗真。お前との戦い楽しかったぞ。」
 そしてクレアは事切れた。
 俺はクレアの亡骸を抱えてただ叫んだ。
 己の不甲斐なさに。己が無力であることに。
 そして全てが終わった瞬間、俺は地に這いつくばった。能力の暴走である。
 ———あぁ。こんな時にかよ・・・。ちくしょう。
 俺は薄れゆく意識の中で呟いた。
 次に目覚めると白い天井が見えた。
 俺は起き上がりあたりを見渡す。どうやら病院のようだ。
 すると天音が入ってきた。
 俺の顔を見て驚いた表情をするもすぐに近づいてきて怒声を浴びせてきた。
「バカ!!!心配かけさせるんじゃないわよ!!!」
 天音曰く何故か俺の暴走は途中で止まったらしい。
 それは奈津のおかげなのかそれともクレアが止めてくれたのかはわからない。
 そして俺はあることに気づく。煌の事だ。
 きっと天音のあの反応。もうこの世にはいないのだろう。そう思うと俺は少し悲しくなった。
 そして病室のドアが開く。
「う~す!!斗真。元気かぁ~??」
 なんとそこから顔を出したのは煌だった!
「・・・・・は?」
 突然の登場に混乱していた俺だがそれを察してくれたのか天音が事情を説明してくれた。
「気絶していただけだったみたいなの・・・。私の勘違いでした・・・。」
 俺は呆れて煌と天音の頬をつねった。
「痛い!!!ゴメン!!」
 病室に2人の声が絶叫が木霊する。
 するとナースの人が来て言った。
「ここは病院です。お静かに・・・。」
「はい・・・。」
 ナースの目には謎の威圧感があった。それに俺たちは頷くしかなかった。
 静かになった後、俺たちは静かに笑いあった。
 そしてひとしきり笑いあった後、俺はあの戦いのことを思い出し俯いた。
 そしてそのことに気づいた煌が声を上げた。
「なんで勝ったのにそんな顔してんだ?」
「俺か?どんな顔してた?」
「なんか悲しみに押しつぶされてしまいそうな顔だったぞ。」
「そうか・・・。」
「なんかあったのか?奈津のことなら聞いた。残念だったな。」
「本当にすまない。そして心配してくれてありがとう。なんでもないんだ。」
 俺がそんな顔をしてしまうのは同然と言えるだろう。
 なんたって国が本当の敵であると再確認したのだから。
 重い空気になってしまうのを感じたのか煌が明るい声で声を出した。
「今は生き残ったことを喜ぼう!」
 喜ぶ二人を横目に俺は青い空を見ながら考えていた。
 この世界が腐っているのなら俺はそれを正したい。
 自分勝手な考えかもしれない。敵であるクレアの言葉を鵜呑みにし世界に反旗を翻すなど。
 けど俺はおかしいと思う。強者が弱者を淘汰していい理由などありはしない。
 だから俺は煌たちに聞こえないほど小さい声でつぶやいた。
「俺は世界と戦うよ・・・。」
 幸いにしてこの二人は知らない。だからこそ。
      ・・・俺だけの戦いだ・・・。
 そうして俺の第二の物語が始まる・・・。
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