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古の島編
生い立ち
しおりを挟む俺、新茅晃は日本人だ。しかし、出身は日本では無い、自分自身の出身は晃本人は知らない。そして知ろうとも思っていなかった。
知ろうと思えば知ることは可能だが、そんな事を知る気は、出身の国に居た時も、日本に住んでいる時も微塵も思わなかった。もしかしたら無意識に知ることを避けていたのかもしれない。
名前を知らない外国に生まれた晃は、スラムで生きていた。
親は、晃を産んだ後に数年は一緒に暮らしていた、その国であったら普通の生活であった。しかし普通の幸せがある訳では無かった。
虐待を受けていた訳では無かったが、愛されている訳でも無かった。世間体を気にしていたのか、それとも他に理由があったのかは分からないが、少なくとも殴る蹴るなどの暴力を振るわれた事も、食べ物を食べさせてもらえないという事も無かった、しかし両親との会話は無かったし、愛してもらえた事も無い。
それが幸せとは感じていなかったが、平穏ではあると感じていた。しかしその平穏は、物心がついたとは言えない年齢で終止符を打たれた。
3歳の誕生日を迎えた頃だった。家に数人の巨漢達が入って来たのだ、今でも覚えている。逃げようとする父親を叩きのめし、母親を地面に押さえ付けた。
「た、助けてくれ!」「やめて!いやぁ!」
両親が暴力を振られている中、晃はそれを只々見ていた。そこには感情は無かった、その光景が怖いという恐怖感も、両親を助けたいという正義感も持たず、何も考えずにジッとその光景を見ていた。
「何だ?ガキか?」
ふと、立っていた晃の前に、白いスーツを着た、大きな傷痕のあるスキンヘッドに、白い中折れ帽がよく似合う男が、巨漢達の背後から出てきた。男が晃に気が付いたのを見て両者は
「そのガキをやる!だから見逃してくれぇ!」
「お願い!何しても良いから私達だけでも!」
晃を売ろうとした、愛する事も暴力を振る事もしなかった両親は、保身に走って我が子を見捨てた。いや、今考えると、もしかしたら元々売るために育てていたのかもしれない、価値を下げない為に暴力は振らずに育てていたのかもしれない。
「アァン?こんなガキ要らねえよバカが!ったく、日本からわざわざこんな所に逃げやがって…日本支部から面倒な仕事が来ちまったじゃねえか!手前らには身体張って金稼いで俺らマフィアを舐めた落とし前付けて貰うんだからよぉ?こんなガキなんざ大した価値ねえよ!連れてけ!」
どうやら両親は日本に居た時にマフィアに金を借りていたらしく、高飛びして此処まで逃げてきたらしい。その時に俺が産まれた訳だ。
両者は巨漢達に連れて行かれ、車に乗せられた。この後どうなったかは、俺は知らない。だが、まあただでは済んでないだろう。
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「…?」
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そのまま車に乗せられ、マフィアの住処に連れてかれた。
「…お前みたいなガキがスラムやらに行っても、あっという間におっ死んじまう、5年、此処に住まわせてやるから、スラムで生きれる力を付けろ」
どうやらそのマフィアは甘い奴で、3歳児だった晃を心配してくれたらしい。そいつの名前はガンバと言い、マフィアの幹部だった。俺はそいつの元、勉強を教えられたり、格闘術や喧嘩術を学び、偶にマフィアの仕事に付き合わされながら、2年を過ごした。
「じゃあな、まさかお前を手離すのを悔やむ日が来るとは思わなかったぜ?8歳で下手な大人より強くなっちまったんだぜ?どんな才能だよ全く…」
「…」
あっという間に2年は経ち、晃はスラムで生きる事になった。普通の子供の背格好で、細っそりとした腕、しかしその力は半端では無く、もはや8歳なのか、それとも人間なのかすら危うい化け物になっていた。
ガンバはケラケラと笑いながら、見送ってくれた。
俺を手離すのが惜しかったボスと一悶着あったらしいが、結局のところ何も問題無かったらしい。
「…なあ、ガンバ」
「おっ?何だ?」
「スラムには俺と同じ様な奴は居るのか?」
「…親に捨てられた、売られた様な奴はごまんといるだろうな。まあ、お前の親はオレみたいなもんだろ?だが、オレは捨てるんじゃねえ、こんな所に居たら、ダメだと知ってるから送り出すんだ。まあ、心優しいオレのエゴってやつだな」
「…そうか、それなら…親って言うならよ…」
「おぅ?」
「偶には帰って来ても良いよな…ガンバ」
「……ダメに決まってるだろ、それじゃあ送り出す意味が無くなる。本当はスラムなんぞじゃ無くて、日本に送ってやりたいんだ。あそこは平和だからな…だがそれはボスに許されなかった、今日本に関わるのは避けたいからだそうだ」
「別に気にしてねえよ、俺はそんな所より、親のお前と居たい」
「… オレは、こんなナリと仕事をしてるが、平和の方が好きなんだぜ?」
「知ってるよ、5年も一緒にいたんだ」
「オレもお前が優しいガキってのは知ってるぜ?」
「…やめてくれ、本当の両親の仇なのに、お前への復讐心の一つも芽生えない俺が、優しい訳ないだろ」
「いや、お前は優しいぜ…極端だが、身内の為に全力で怒り、守る為に冷酷になれるお前は、優しい心を持ってる。オレが保証してやる。だからよ、行け、此処でない所によ」
「…ああ、だけど、必ずまた会いに来る」
「…バカヤロー、ダメに決まってるだろうが…おっと、ちょっと待て、これやるよ」
ガンバは袋を投げて来た。
「ん?っと…急に投げるなよ」
投げられた袋の中身は黒塗りの拳銃と多数のマガジンだった。
「これは…」
「餞別だ、受け取っとけ」
「…ありがとな」
「良いから行け、それで最後だ」
それが、俺が日本に行くきっかけの少し前までの話だ。
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