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第3話 立場
しおりを挟む後ろから誰かが駆けてくる音がした。
「亜里沙ぁ~!メンバー選ばれたじゃん!」
私の横に勢い良く停止すると、目を見開いて、瑠衣が肩に手を置いてきた。
この子は万年補欠にも入れず、選手のバックアップ役をずっとしている。私もほとんど同じ様なものだが、やっぱり補欠かそれすらに入れないかでは心の持ちようが大きく違う。2年生までは私も真奈も、瑠衣のように、試合に選ばれるみんなを遠い存在のように感じていた。バレーのために髪を短く切り、意識が朦朧とするような終わりの見えない練習を毎日こなす。それが報われずに卒業までこのままなのではないかという不安にずっと付きまとわれた。
瑠衣は技術も体力もなく、練習中ずっと先生や先輩に怒られていた。しかし、常に大きな声を出して、素直に指導されたことをしようとする姿勢、何より「大丈夫だよ~」と、いつも笑顔でいることがみんなを癒した。どんなミスをしても瑠衣は許すことができたのだ。それは今もずっと言える。何なら当時よりもっと吹っ切れたように、選手への声掛けも増えたし、円滑に試合へ臨めるように後輩への指示や、自身の動きにも磨きがかかってきた。
「今度の選抜、監督は亜里沙スタメンにするつもりなんだろうなあ。」
そう言って、確かめるように私の目を見てうんうんと頷く。
「分かんないよ。練習試合でやらかしたら普通に外されると思うし、私、真奈がメンバーのままで良かったと思う。」
胸がぎゅっと苦しくなった。こんなネガティブなこと言ってどうするつもりなんだ。
思わず瑠衣から目を逸らしてしまった。逸らした先で、後輩が横断幕を降ろしているのが見えた。
「あれ?亜里沙らしくないね。練習試合、もう緊張してるの?」
そうなのかもしれない。突然降ってきた立場の変化。これを物にできるかできないかで、私の青春の意味は大きく変わってしまう。
「かもね。」
そこで大きく吐息が出た。
瑠衣がふぅーん、と言って、何か考え込む。
「私は、分かるよ、亜里沙が選ばれた理由。」
瑠衣をちらりと見る。
「でも監督も悩んだと思う、とても。亜里沙も真奈も、よく似てるんだよ。」
瑠衣はまた、私の目を見て確かめるように頷いた。
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