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京子・ルルカ編
第25怪
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私、ルルカが赤坂家に来たとき、一人の女の子と出会う。母が言うには父親が同じで私の妹なんだと。母と二人暮らし、今までひとりっ子だった私は妹が出来て喜んだわ。でも彼女とその母親は違ったみたい。
「京也さんにもう一人娘がいたなんて、しかも霊能力まで」
「いやぁ、京也さん結婚してたなんて知らなかったですー。不倫ってやつ? でも霊能力が出たらここに来いって京也さんに言われててー、霊能力ってなんぞや? って感じだったんですけど……」
ペラペラと話す母。ニコニコと聞く家の人間。母の行いは良いものとは言えなかったが、誰も指摘しない。幼い私はこの家の異常さに気づかなかった。
それからは歳の近い妹の京子とよく遊んでいた。京子も幼かったので何も気にせず私と遊んだ。でも京子の母親、本当の奥さんは違った。「なぜあの子が?」という目で見られていたのだろう。十歳の頃だった。父親と奥さんとの仲が悪くなり始めたのは。とうとうストレスで壊れた奥さんは父親を殺し、京子まで殺そうと追いかけて来た。たまたまいた私は急いで近くの大人に助けを求めた、今思えば求める相手が悪かったのかも知れない。赤坂の呪殺師たちは人を殺すことを躊躇わない。薫は迷うことなく引き金を引いた。
「あのとき私の判断が違っていたら、お母さんまで失わずに済んだかも知れないのにね」
京子が九歳で赤坂家を去った。奥さんの実家の桜田さんが引き取ることになったようだ。私は残された赤坂家でひっそり生きてきた。
「状況が変わったのはご当主様とお会いになる日だった」
私は赤坂の人間に着飾られ、退屈していた。
「ルルカさん、本日は梓馬様にお会いになる日です。綺麗になりましょうね」
梓馬の部屋に向かう。その道中は異様な気配が漂っていた。それはだんだんと濃くなり、梓馬の部屋で溜まっていた。
(嫌な感じだわ。入りたくない)
だが、大人に進められるがままに部屋に入った。入るしか無かった。
「あっ……ご挨拶申し上げます。京也の娘のル……」
ゾッとする気配がした。身体中の細胞が逃げろと言っているように感じた。梓馬は固まった私に話しかけた。
「緊張するな。お前の名はなんだ、俺の目を見て言ってみろ」
徐々に近づく。恐怖からか胸の鼓動が激しく鳴った。もう無理だと思ったその時。
「っ……ぐ、こんな時に……!」
梓馬がうずくまり、異様な気配がしなくなった。私は駆け寄った。
「あ、梓馬様……ご無事ですか?」
「君が、私を戻してくれたのか?」
その梓馬は驚くほど優しい声をしていた。私の霊能力は特に霊的抵抗力が高くなるもので、危機感知能力も高かった。そのお陰か一度魔の物を遠ざけられたのだろう。
(まさか、梓馬様は二人いる……? この梓馬様こそが本物)
「その時知ったの。梓馬様は何者かに身体を乗っ取られ、殺したくなかったのに親友を殺した」
ルルカの告白に三人は固まった。それまで梓馬のことを全く知らなかった。
「じゃあ、私に記憶を思い出して欲しいって言ったのは……」
「前世の貴女が梓馬様を乗っ取ったやつを知っているからよ」
それはあの魔の物のことだろうか、と美玲は考えた。ルルカはまた続けて話す。
「その後、私は袂紳に接触して取引きを持ちかけたわ」
「取引き?」
梓馬様の事を知り、彼を助けたいと思った。そして同時に誤解を解きたいとも。本当は梓馬様はあなたを殺すつもりはなかったって。月明かりに照らされ、私はその人に初めて出会った。伝説の四獣、白虎に乗り私を上から見下ろす銀髪の男の子。梓馬様とは違う儚さがあった。
「あ……私はルルカ。赤坂家の人間だけどちょっと違って……」
「取引きをしたい、と言ったな。わざわざ呼び出す度胸はある。言ってみろ。場合によっちゃあ聞いてやる」
(袂紳が本当に一人で来た。青崎であれほど大切にされてる彼が)
「あ、梓馬様のことで話を……」
私はこれまでのことを全て話した。梓馬がだんだんと正気を取り戻していること。梓馬の中の何かが赤坂の人間を洗脳していること。
「お前はどうしたいんだ」
「私は……今後、赤坂家の状況を貴方に定期的に話します。その代わり、家を追い出された妹の安全の保証をお願いしたいです」
そう言って頭を下げた。私はどうしても外に行ってしまった京子を、赤坂の魔の手から守ることに自信がなかった。すると彼は約束した。
「その取引き、引き受けた」
「こうして取引きがスタートして今に至る、というわけ。アンタの記憶を取り戻そうとしたのはアタシから。事情を知っていた方がアンタも危機感持てると思って」
「じゃ、じゃあ最初から……水々しいこんにゃくも」
ルルカの語った真実から美玲は愕然とする。同じく京子、真野も想像を超える内容に驚く。
「こんにゃく……あぁ、仕掛けたわね、あいつが。カラクリ屋敷はみんなを分散するのに都合が良かったから」
ルルカは美玲を見つめて真剣な眼差しで語る。
「アタシは優しい本物の梓馬様を助けたい。そして偽物がこれ以上赤坂で好き勝手出来ないようにしたい。それが私が青崎についた理由」
ルルカは京子を見て優しく微笑む。
(本当はあなたを赤坂から完全に切り離す為……だけどこれは言ってあげないわ)
「京也さんにもう一人娘がいたなんて、しかも霊能力まで」
「いやぁ、京也さん結婚してたなんて知らなかったですー。不倫ってやつ? でも霊能力が出たらここに来いって京也さんに言われててー、霊能力ってなんぞや? って感じだったんですけど……」
ペラペラと話す母。ニコニコと聞く家の人間。母の行いは良いものとは言えなかったが、誰も指摘しない。幼い私はこの家の異常さに気づかなかった。
それからは歳の近い妹の京子とよく遊んでいた。京子も幼かったので何も気にせず私と遊んだ。でも京子の母親、本当の奥さんは違った。「なぜあの子が?」という目で見られていたのだろう。十歳の頃だった。父親と奥さんとの仲が悪くなり始めたのは。とうとうストレスで壊れた奥さんは父親を殺し、京子まで殺そうと追いかけて来た。たまたまいた私は急いで近くの大人に助けを求めた、今思えば求める相手が悪かったのかも知れない。赤坂の呪殺師たちは人を殺すことを躊躇わない。薫は迷うことなく引き金を引いた。
「あのとき私の判断が違っていたら、お母さんまで失わずに済んだかも知れないのにね」
京子が九歳で赤坂家を去った。奥さんの実家の桜田さんが引き取ることになったようだ。私は残された赤坂家でひっそり生きてきた。
「状況が変わったのはご当主様とお会いになる日だった」
私は赤坂の人間に着飾られ、退屈していた。
「ルルカさん、本日は梓馬様にお会いになる日です。綺麗になりましょうね」
梓馬の部屋に向かう。その道中は異様な気配が漂っていた。それはだんだんと濃くなり、梓馬の部屋で溜まっていた。
(嫌な感じだわ。入りたくない)
だが、大人に進められるがままに部屋に入った。入るしか無かった。
「あっ……ご挨拶申し上げます。京也の娘のル……」
ゾッとする気配がした。身体中の細胞が逃げろと言っているように感じた。梓馬は固まった私に話しかけた。
「緊張するな。お前の名はなんだ、俺の目を見て言ってみろ」
徐々に近づく。恐怖からか胸の鼓動が激しく鳴った。もう無理だと思ったその時。
「っ……ぐ、こんな時に……!」
梓馬がうずくまり、異様な気配がしなくなった。私は駆け寄った。
「あ、梓馬様……ご無事ですか?」
「君が、私を戻してくれたのか?」
その梓馬は驚くほど優しい声をしていた。私の霊能力は特に霊的抵抗力が高くなるもので、危機感知能力も高かった。そのお陰か一度魔の物を遠ざけられたのだろう。
(まさか、梓馬様は二人いる……? この梓馬様こそが本物)
「その時知ったの。梓馬様は何者かに身体を乗っ取られ、殺したくなかったのに親友を殺した」
ルルカの告白に三人は固まった。それまで梓馬のことを全く知らなかった。
「じゃあ、私に記憶を思い出して欲しいって言ったのは……」
「前世の貴女が梓馬様を乗っ取ったやつを知っているからよ」
それはあの魔の物のことだろうか、と美玲は考えた。ルルカはまた続けて話す。
「その後、私は袂紳に接触して取引きを持ちかけたわ」
「取引き?」
梓馬様の事を知り、彼を助けたいと思った。そして同時に誤解を解きたいとも。本当は梓馬様はあなたを殺すつもりはなかったって。月明かりに照らされ、私はその人に初めて出会った。伝説の四獣、白虎に乗り私を上から見下ろす銀髪の男の子。梓馬様とは違う儚さがあった。
「あ……私はルルカ。赤坂家の人間だけどちょっと違って……」
「取引きをしたい、と言ったな。わざわざ呼び出す度胸はある。言ってみろ。場合によっちゃあ聞いてやる」
(袂紳が本当に一人で来た。青崎であれほど大切にされてる彼が)
「あ、梓馬様のことで話を……」
私はこれまでのことを全て話した。梓馬がだんだんと正気を取り戻していること。梓馬の中の何かが赤坂の人間を洗脳していること。
「お前はどうしたいんだ」
「私は……今後、赤坂家の状況を貴方に定期的に話します。その代わり、家を追い出された妹の安全の保証をお願いしたいです」
そう言って頭を下げた。私はどうしても外に行ってしまった京子を、赤坂の魔の手から守ることに自信がなかった。すると彼は約束した。
「その取引き、引き受けた」
「こうして取引きがスタートして今に至る、というわけ。アンタの記憶を取り戻そうとしたのはアタシから。事情を知っていた方がアンタも危機感持てると思って」
「じゃ、じゃあ最初から……水々しいこんにゃくも」
ルルカの語った真実から美玲は愕然とする。同じく京子、真野も想像を超える内容に驚く。
「こんにゃく……あぁ、仕掛けたわね、あいつが。カラクリ屋敷はみんなを分散するのに都合が良かったから」
ルルカは美玲を見つめて真剣な眼差しで語る。
「アタシは優しい本物の梓馬様を助けたい。そして偽物がこれ以上赤坂で好き勝手出来ないようにしたい。それが私が青崎についた理由」
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