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袂紳
第18怪
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「これ届けて欲しいんだけど」
二年二組の担任に部長はファイルを託された。中には書類が大量に入っている。
「宮本さん、転校がストレスになっちゃったのか不登校になったでしょ? だからプリントが大量で。部長として部員の様子、見てきてちょうだい」
そう言われて地図を渡された。行ってみるとそこは古いアパートでところどころ穴が空いていた。カラクリ屋敷ほどボロくはないが不安になる。目的の部屋の前で呼び鈴を鳴らすと、ルルカの母親が出た。
「ふわぁーい……いまいきまーす」
ルルカの母は眠たげに応対する、酔っているのか酒の匂いがした。見るとビールの空き缶が床に転がっている。事情を説明してプリントを渡すとルルカ母は強引に部屋へ招き入れた。
「ほー、あの子不登校なんねー。アタシも学校通ってなかったけどー」
フラフラとなりながらビール缶を片手にペラペラ喋る。ルルカは居ないようだ。飲み物を用意すると言ってまたビール缶を開け、コップに注ぐ。
「未成年ですのでお構いなく。ほんと、もう帰りますんで」
「アタシの注いださけがぁ……飲めないってんのかぁ……あぁ。帰る気かぁ!」
(これは新手の妖怪かも知れん! でも美人だ。でも人妻だ!)
「アタシねぇ……高校中退してあの子産んだの。それからはキャバ嬢よぉん! 夫は居ないの。不倫だから!」
話には聞いていたが強烈な母親だ。担任から事前に家庭環境に問題があると知らされていたがここまでとは。するとガチャリとドアが開いた。
「お母さんアタシよ。またお酒開けたでしょ……ってアンタ何してんのよ」
「お前んとこの担任にお使い任されたんだよ。プリント届けたと思ったら」
「お母さんね……お母さん向こうの部屋行ってて。夜また仕事でしょ」
母はルルカに連れられて襖の開き切った部屋というには仕切りがない場所で布団に潜った。
「悪い人じゃないんだけどね、生活能力がないから時々様子見にくるのよ。私はもっぱら赤坂の本邸で暮らしてるから」
「学校ではこの住所に暮らしてることになってるぞ」
「当たり前でしょ? 赤坂の住所を使うわけないじゃない」
それよりも、とルルカは続けて意地悪げに言う。
「大切な大切な『袂紳様』がこんなところに来てたら、青崎の人たち倒れちゃうんじゃなーい?」
「それはお互い様だ。赤坂の大事な大事なお嬢ちゃんが家の情報を青崎に流してたって知られたら、殺されちゃうんじゃ……あ、マジで洒落にならんわコレ」
「覚悟の上よ」
ルルカと協力関係になって四、五年経つ。ルルカの守りたい人の生活の保障を条件に、赤坂内部の情報を流す。これは密かな約束であり、青崎家の中でも知る人は当代当主の光一のみ。
梓馬に呼ばれ、詩乃は一人会いにきた。
「詩乃、婚約をするんだってな」
「はい、梓馬様」
サァーっと風が通り過ぎる。
「私じゃ、駄目だったのか……」
梓馬のそれは、聞こえてはならない話に聞こえた。
「……私は、袂紳様をお慕いしています」
その後、詩乃は背を向けて走り出した。
あれ? 何で走り出したんだっけ……
深い夢の中に入り込む……
二年二組の担任に部長はファイルを託された。中には書類が大量に入っている。
「宮本さん、転校がストレスになっちゃったのか不登校になったでしょ? だからプリントが大量で。部長として部員の様子、見てきてちょうだい」
そう言われて地図を渡された。行ってみるとそこは古いアパートでところどころ穴が空いていた。カラクリ屋敷ほどボロくはないが不安になる。目的の部屋の前で呼び鈴を鳴らすと、ルルカの母親が出た。
「ふわぁーい……いまいきまーす」
ルルカの母は眠たげに応対する、酔っているのか酒の匂いがした。見るとビールの空き缶が床に転がっている。事情を説明してプリントを渡すとルルカ母は強引に部屋へ招き入れた。
「ほー、あの子不登校なんねー。アタシも学校通ってなかったけどー」
フラフラとなりながらビール缶を片手にペラペラ喋る。ルルカは居ないようだ。飲み物を用意すると言ってまたビール缶を開け、コップに注ぐ。
「未成年ですのでお構いなく。ほんと、もう帰りますんで」
「アタシの注いださけがぁ……飲めないってんのかぁ……あぁ。帰る気かぁ!」
(これは新手の妖怪かも知れん! でも美人だ。でも人妻だ!)
「アタシねぇ……高校中退してあの子産んだの。それからはキャバ嬢よぉん! 夫は居ないの。不倫だから!」
話には聞いていたが強烈な母親だ。担任から事前に家庭環境に問題があると知らされていたがここまでとは。するとガチャリとドアが開いた。
「お母さんアタシよ。またお酒開けたでしょ……ってアンタ何してんのよ」
「お前んとこの担任にお使い任されたんだよ。プリント届けたと思ったら」
「お母さんね……お母さん向こうの部屋行ってて。夜また仕事でしょ」
母はルルカに連れられて襖の開き切った部屋というには仕切りがない場所で布団に潜った。
「悪い人じゃないんだけどね、生活能力がないから時々様子見にくるのよ。私はもっぱら赤坂の本邸で暮らしてるから」
「学校ではこの住所に暮らしてることになってるぞ」
「当たり前でしょ? 赤坂の住所を使うわけないじゃない」
それよりも、とルルカは続けて意地悪げに言う。
「大切な大切な『袂紳様』がこんなところに来てたら、青崎の人たち倒れちゃうんじゃなーい?」
「それはお互い様だ。赤坂の大事な大事なお嬢ちゃんが家の情報を青崎に流してたって知られたら、殺されちゃうんじゃ……あ、マジで洒落にならんわコレ」
「覚悟の上よ」
ルルカと協力関係になって四、五年経つ。ルルカの守りたい人の生活の保障を条件に、赤坂内部の情報を流す。これは密かな約束であり、青崎家の中でも知る人は当代当主の光一のみ。
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「詩乃、婚約をするんだってな」
「はい、梓馬様」
サァーっと風が通り過ぎる。
「私じゃ、駄目だったのか……」
梓馬のそれは、聞こえてはならない話に聞こえた。
「……私は、袂紳様をお慕いしています」
その後、詩乃は背を向けて走り出した。
あれ? 何で走り出したんだっけ……
深い夢の中に入り込む……
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