7 / 34
カラクリ屋敷編
第5怪
しおりを挟む
薄暗い室内に男と一人の少女。壁代に仕切られた空間で、男は内側で着物を着て座っている。少女は頭を垂れ、跪いていた。すると静寂を切り裂くように男が口を開いた。
「ルルカよ、俺はお前に期待している……今後も青崎の情報を流せ。お前の存在価値を見せろ」
「仰せのままに……梓馬様」
部屋を出た後、屋敷の廊下でルルカは深呼吸をした。強く握りしめた拳は震えている。
「ふぅ……蛇に睨まれるとはこの事ね。大丈夫……これは武者震いだから」
「ねぇ美玲。こんな話知ってる?」
教室で友人が話しかけに来た。
「青の一族と赤の一族の話! 美玲こういう話好きだと思うなぁ」
平安時代、まだ妖魔や霊が人間界と近い時代の話。二つの優秀な霊能一族が名を馳せていた。対魔を得意とする青の一族、呪殺を得意とする赤の一族。両者は正反対の存在だったが、青の一族の当主と赤の一族の当主は仲のいい友人だった。ところが恋愛のもつれで両者は歪み合うようになり、とうとう赤の一族の当主が青の一族の当主を殺す事件が起こる。それから青の一族と赤の一族は敵対し合うようになった。その殺害方法というのが残酷なもので、呪殺師の赤の一族がかけた呪いが現代まで続いているという。
「どお、面白いでしょ!」
「まぁ、面白いけど……恋愛のもつれで殺害ってなんじゃそりゃ」
︎︎昔の時代だから話が盛られているだけだと軽く聞き流した。今の美玲はこの話と自分が絡み合った糸のように関わってくるなど、知る由もなかったのだ。
放課後の部室。
「次なる舞台はカラクリ屋敷だ!」
学校の七不思議で散々校長に叱られた後、部長は悪びれる様子もなく次の部活内容を言った。カラクリ屋敷……およそ二十年前から心霊スポットとして話題になっている場所。資産家だった家主はカラクリ好きで、屋敷をカラクリだらけに改造したそうだ。家主の死後は財産を狙う泥棒がよく侵入したそうだがカラクリによって阻まれ、ことごとく失敗している。それ故、カラクリ屋敷のカラクリはただの趣味ではなく、莫大な財産を隠すために仕掛けたものなのではないか、と一部のマニアには有名らしい。『カラクリ屋敷に入ると人が消える』『カラクリ屋敷では家主の霊が自身の遺品を狙う者を呪う』という噂が出回っている。
「いや、流石に反省したし当分は……」
「はい、今日六時に現地集合ね! 場所は〇〇町……」
人の話を聞かないのである。
午後六時、カラクリ屋敷は周りを森に囲まれている洋館だ。ザ・心霊スポットと呼べるような異様な雰囲気を放っている。
「じゃあ早速入ってみるか」
部長が屋敷の扉を開ける。後ろの部員に声をかけながら一歩、闇の廊下へと踏み出した。
「なんてったってカラクリ屋敷だからな! これから先はカラクリに……きぉぉぉぉおつけぇぇぇぇ……テ……」
これから先なんて甘いものでは無かった。カラクリ屋敷は既にカラクリに支配されている。一歩踏み出したその時、何やら嫌なカチッという音が聞こえたかと思えば部長のいた床が真っ二つに割れ、下に落っこちて行ってしまった。取り残された我々が考えたことは一つ。純がそれを言った。
「やっぱ……帰るか」
「えぇ、ちょっといいの? 部長置いてって。薄情な部員たちねぇ~」
ルルカが驚きの表情で純にツッコミを入れる。もちろん本気ではない為、部長がリタイアした床のボタンを踏まないように進む。
「ぼ、僕が行きます。これでも部員歴は長いので」
真野が我こそはと立候補する。部員歴で言ったら美玲も同じだがそこは男としての何かがあるのだろう。第一関門は通り抜け、安心したところで真野が一歩踏み出す。するとグイっと何か張った縄のような……いや縄そのものを踏みつけてしまった。
「あっ……カッコつけてすみませんでした……」
真野は横から現れた丸太に押され、いつの間にか空いていた空間に放り込まれた。真野がホールインワンするとその空間も元通りに閉じた。これでメンバーは一気に二人減り、純、美玲、ルルカ、京子の四人になってしまった。
「結局バラけてしまった」
その後も挑戦したが、部員は皆バラバラになってしまった。美玲は今ここが屋敷のどの部分なのかも分からない。
「うーん、とりあえず歩けば何とかなるよね」
暗闇の廊下を歩き進める。昔、聞いたことがあった、左側に手をついて歩けば迷路からいつかは抜け出せると。しかし前が良く見えない、まだ目は慣れてないようだ。すると首元にボトっと冷たいものが落ちてきた。
「イヤァァァァ! 何なにナニ幽霊? ってこんにゃくかーい、何でこんなところに水々しいこんにゃくがっ!」
糸に吊るされたこんにゃくが私の首を撫でる。すると後ろから足音がした。
「誰っ、今度こそ幽霊かっ!」
「違うわよ、アタシよ美玲さん。良かった、美玲さんが居てくれて」
正体はルルカだった。美玲はやっと部員に会えて安堵していた。するとルルカが不敵に笑った。
「本当に良かったわ、アンタがいてくれて……」
「ル、ルルカさん。どうしたの…?」
ルルカは髪をかき揚げ、美玲を冷たい目で一瞥する。そして一言。
「アタシはアンタが許せない。アンタは思い出す必要があるわ」
そういってルルカがお札のようなものを取り出して床に投げつけた。後から小瓶を取り出し、中身をお札の上にかける。するとどこからか煙が湧き上がり、美玲は包まれてしまった。
何が起きたのか分からなかった。
だんだんと意識が消えていく……
「ルルカよ、俺はお前に期待している……今後も青崎の情報を流せ。お前の存在価値を見せろ」
「仰せのままに……梓馬様」
部屋を出た後、屋敷の廊下でルルカは深呼吸をした。強く握りしめた拳は震えている。
「ふぅ……蛇に睨まれるとはこの事ね。大丈夫……これは武者震いだから」
「ねぇ美玲。こんな話知ってる?」
教室で友人が話しかけに来た。
「青の一族と赤の一族の話! 美玲こういう話好きだと思うなぁ」
平安時代、まだ妖魔や霊が人間界と近い時代の話。二つの優秀な霊能一族が名を馳せていた。対魔を得意とする青の一族、呪殺を得意とする赤の一族。両者は正反対の存在だったが、青の一族の当主と赤の一族の当主は仲のいい友人だった。ところが恋愛のもつれで両者は歪み合うようになり、とうとう赤の一族の当主が青の一族の当主を殺す事件が起こる。それから青の一族と赤の一族は敵対し合うようになった。その殺害方法というのが残酷なもので、呪殺師の赤の一族がかけた呪いが現代まで続いているという。
「どお、面白いでしょ!」
「まぁ、面白いけど……恋愛のもつれで殺害ってなんじゃそりゃ」
︎︎昔の時代だから話が盛られているだけだと軽く聞き流した。今の美玲はこの話と自分が絡み合った糸のように関わってくるなど、知る由もなかったのだ。
放課後の部室。
「次なる舞台はカラクリ屋敷だ!」
学校の七不思議で散々校長に叱られた後、部長は悪びれる様子もなく次の部活内容を言った。カラクリ屋敷……およそ二十年前から心霊スポットとして話題になっている場所。資産家だった家主はカラクリ好きで、屋敷をカラクリだらけに改造したそうだ。家主の死後は財産を狙う泥棒がよく侵入したそうだがカラクリによって阻まれ、ことごとく失敗している。それ故、カラクリ屋敷のカラクリはただの趣味ではなく、莫大な財産を隠すために仕掛けたものなのではないか、と一部のマニアには有名らしい。『カラクリ屋敷に入ると人が消える』『カラクリ屋敷では家主の霊が自身の遺品を狙う者を呪う』という噂が出回っている。
「いや、流石に反省したし当分は……」
「はい、今日六時に現地集合ね! 場所は〇〇町……」
人の話を聞かないのである。
午後六時、カラクリ屋敷は周りを森に囲まれている洋館だ。ザ・心霊スポットと呼べるような異様な雰囲気を放っている。
「じゃあ早速入ってみるか」
部長が屋敷の扉を開ける。後ろの部員に声をかけながら一歩、闇の廊下へと踏み出した。
「なんてったってカラクリ屋敷だからな! これから先はカラクリに……きぉぉぉぉおつけぇぇぇぇ……テ……」
これから先なんて甘いものでは無かった。カラクリ屋敷は既にカラクリに支配されている。一歩踏み出したその時、何やら嫌なカチッという音が聞こえたかと思えば部長のいた床が真っ二つに割れ、下に落っこちて行ってしまった。取り残された我々が考えたことは一つ。純がそれを言った。
「やっぱ……帰るか」
「えぇ、ちょっといいの? 部長置いてって。薄情な部員たちねぇ~」
ルルカが驚きの表情で純にツッコミを入れる。もちろん本気ではない為、部長がリタイアした床のボタンを踏まないように進む。
「ぼ、僕が行きます。これでも部員歴は長いので」
真野が我こそはと立候補する。部員歴で言ったら美玲も同じだがそこは男としての何かがあるのだろう。第一関門は通り抜け、安心したところで真野が一歩踏み出す。するとグイっと何か張った縄のような……いや縄そのものを踏みつけてしまった。
「あっ……カッコつけてすみませんでした……」
真野は横から現れた丸太に押され、いつの間にか空いていた空間に放り込まれた。真野がホールインワンするとその空間も元通りに閉じた。これでメンバーは一気に二人減り、純、美玲、ルルカ、京子の四人になってしまった。
「結局バラけてしまった」
その後も挑戦したが、部員は皆バラバラになってしまった。美玲は今ここが屋敷のどの部分なのかも分からない。
「うーん、とりあえず歩けば何とかなるよね」
暗闇の廊下を歩き進める。昔、聞いたことがあった、左側に手をついて歩けば迷路からいつかは抜け出せると。しかし前が良く見えない、まだ目は慣れてないようだ。すると首元にボトっと冷たいものが落ちてきた。
「イヤァァァァ! 何なにナニ幽霊? ってこんにゃくかーい、何でこんなところに水々しいこんにゃくがっ!」
糸に吊るされたこんにゃくが私の首を撫でる。すると後ろから足音がした。
「誰っ、今度こそ幽霊かっ!」
「違うわよ、アタシよ美玲さん。良かった、美玲さんが居てくれて」
正体はルルカだった。美玲はやっと部員に会えて安堵していた。するとルルカが不敵に笑った。
「本当に良かったわ、アンタがいてくれて……」
「ル、ルルカさん。どうしたの…?」
ルルカは髪をかき揚げ、美玲を冷たい目で一瞥する。そして一言。
「アタシはアンタが許せない。アンタは思い出す必要があるわ」
そういってルルカがお札のようなものを取り出して床に投げつけた。後から小瓶を取り出し、中身をお札の上にかける。するとどこからか煙が湧き上がり、美玲は包まれてしまった。
何が起きたのか分からなかった。
だんだんと意識が消えていく……
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
マインハールⅡ ――屈強男×しっかり者JKの歳の差ファンタジー恋愛物語
花閂
キャラ文芸
天尊との別れから約一年。
高校生になったアキラは、天尊と過ごした日々は夢だったのではないかと思いつつ、現実感のない毎日を過ごしていた。
天尊との思い出をすべて忘れて生きようとした矢先、何者かに襲われる。
異界へと連れてこられたアキラは、恐るべき〝神代の邪竜〟の脅威を知ることになる。
――――神々が神々を呪う言葉と、誓約のはじまり。
〈時系列〉
マインハール
↓
マインハールⅡ
↓
ゾルダーテン 獣の王子篇( Kapitel 05 )
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。
(お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです)
その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。
(その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性)
物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
夜勤の白井さんは妖狐です 〜夜のネットカフェにはあやかしが集結〜
瀬崎由美
キャラ文芸
鮎川千咲は短大卒業後も就職が決まらず、学生時代から勤務していたインターネットカフェ『INARI』でアルバイト中。ずっと日勤だった千咲へ、ある日店長から社員登用を条件に夜勤への移動を言い渡される。夜勤には正社員でイケメンの白井がいるが、彼は顔を合わす度に千咲のことを睨みつけてくるから苦手だった。初めての夜勤、自分のことを怖がって涙ぐんでしまった千咲に、白井は誤解を解くために自分の正体を明かし、人外に憑かれやすい千咲へ稲荷神の護符を手渡す。その護符の力で人ならざるモノが視えるようになってしまった千咲。そして、夜な夜な人外と、ちょっと訳ありな人間が訪れてくるネットカフェのお話です。
★第7回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。
月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き
星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】
煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。
宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。
令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。
見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー
※カクヨム等にも掲載しています
此処は讃岐の国の麺処あやかし屋〜幽霊と呼ばれた末娘と牛鬼の倅〜
蓮恭
キャラ文芸
――此処はかつての讃岐の国。そこに、古くから信仰の地として人々を見守って来た場所がある。
弘法大師が開いた真言密教の五大色にちなみ、青黄赤白黒の名を冠した五峰の山々。その一つ青峰山の近くでは、牛鬼と呼ばれるあやかしが人や家畜を襲い、村を荒らしていたという。
やがて困り果てた領主が依頼した山田蔵人という弓の名手によって、牛鬼は退治されたのだった。
青峰山にある麺処あやかし屋は、いつも大勢の客で賑わう人気の讃岐うどん店だ。
ただし、客は各地から集まるあやかし達ばかり。
早くに親を失い、あやかし達に育てられた店主の遠夜は、いつの間にやら随分と卑屈な性格となっていた。
それでも、たった一人で店を切り盛りする遠夜を心配したあやかしの常連客達が思い付いたのは、「看板娘を連れて来る事」。
幽霊と呼ばれ虐げられていた心優しい村娘と、自己肯定感低めの牛鬼の倅。あやかし達によって出会った二人の恋の行く末は……?

怪しい二人 美術商とアウトロー
暇神
キャラ文芸
この街には、都市伝説がある。魔法の絵があるらしい。それらを全て揃えれば、何だってできるとされている。だが注意しなければならない。魔法の絵を持つ者は、美術商に狙われる。
毎週土日祝日の、午後八時に更新します。ぜひ読んで、できればご感想の程、よろしくお願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる