大罪人に転生!? 美少女に転生したいとは言いましたが……

息吹く遥

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序章:異世界にて

第二十七話:村長の家

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 レンゼンの家は村の中央奥、地形が階段上になっているので高い位置にある。
 その家はなかなかに立派なものであったが、街で見たようなガラスや装飾品は見当たらない。重厚感と暖かみのある木造の二階建てだ。
 案内された客間には、開け放たれた木の窓から光が差し込み、涼やかな風が吹き抜ける。
 机を囲むのはヴィル、レイヴン、レンゼン、ブラトニールの四人である。

 はじめにブラトニールがレンゼンに事情を説明すると、レンゼンは若干難しそうに眉を顰めながらも、先刻の騒動について謝罪をする。

「状況はわかりました。そのような中、依頼を受けてくださったこと感謝いたします。そして先程は失礼いたしました」
「いや、もういいですよ」

 深々と禿げた頭を向けられて、レイヴンは困ったように両手を上げる。

「ちっ……。俺らは別にいいですけど……」

 対してヴィルは意地悪そうに小さく舌打ちをすると、不貞腐れたようにそう呟いて視線だけブラトニールに向ける。
 
「そうですね……。ブラトニール、嫌な思いをさせてしまったね。わしの責任じゃ……」

 レンゼンは一度ヴィルの目を見ると緩慢に瞬きをし、ブラトニールに深く頭を下げる。頭頂部の寂しさも相まって、なんだかいたたまれない雰囲気を醸し出している。

「いっ、いいよおじいちゃん、頭あげてよ……。確かにすごく悲しかったけど……。ヴィルが怒ってくれて嬉しかったから、だからもういいの」

 困惑しながらも本当に嬉しそうな笑顔を浮かべるブラトニールに、頬を赤らめて目を逸らすヴィル。
 人との関わりを恐れた彼は他人の心情の機微に疎く、向けられた好意に素直に向き合えない。
 つまり、とても面倒な人間なのである。

 ヴィルはバツの悪そうに後頭部を掻きながら、未だ頭を下げているレンゼンを見やる。

「その……レンゼンさん。失礼な態度をとってすみませんでした」

「いえいえ、この子を思う気持ちは伝わっております。この数百年間で魔族に対する迫害はなくなりつつありますが、それでも彼らの力に畏怖するものは多い、村の者もこの子と深く関わろうとしない。今回の事はわしの指導が行き届かなかったことが原因なのです」

 魔族と人間、生来の力の差ゆえにそう区別されるようになった。
 しかし両者の本質は、心を持つという点では全く同じなのだろう。
 力をもたぬが故に、畏れ、嫌悪し、こんな小さな女の子でさえ排斥しようとする。

 きっとどこの世界だろうが同じだ、それが知能を獲得し、心を知覚した存在の愚かな嵯峨なのだ。
 
「どこの世界でも同じなのか……」

 ヴィルは呆れ顔でそう溢した。が、彼が前世で排斥されていたのは、大部分は彼自身の被害妄想であり、決して彼が強大な力を有していたためではない。
 地球の重力ですら苦痛に感じる彼のような弱者にとっては、日本という競争社会はあまりに厳しすぎただけ。
 生まれる世界を間違えただけなのだ。
 彼はすっと顔を上げると、大きな紅の瞳をブラトニールに向ける。

「うっ……」

 突然ヴィルの視界が白飛びする。レンゼンの禿頭に反射した光線が、彼の目を襲ったのだと遅れて理解すると、反射光を避けるように顔を逸らす。
 日は傾き、開け放たれた窓は陽光をこれでもかと迎え入れる。

「うっ……」

 折角顔を逸らしていたのに、再び彼を襲う光線。
 そしてまた首を傾けて顔を逸らすも、不思議なことにレンゼンの頭が動かずともヴィルを追従する光線。
 この世界の物理法則に疑問を感じつつ、クソ眩しくて鬱陶しい光線を避ける。
 窓のすぐ外の木々が奏でる葉擦れの音のみが充満する部屋で、ヴィルと、無自覚のレンゼンが繰り広げる攻防戦。
 ゆらゆらと左右に揺れているヴィルを見て、ブラトニールとレイヴンは眉を八の字に歪め首を傾げる。

「ヴィル?」

 そう訝しげに呟き、露草色の瞳を左右に動かすブラトニール。
 しかし攻防に夢中のヴィルは気づかず揺れ続け、レンゼンも頭を下げたまま微動だにしない。

(くっ……この光どうなってんだ? どう考えてもおかしいだろ。あれちょっと!? なんか反射光増えてるんですけど! あっ、ミラーボールだこれ。いやマジどうなってんのこれこの爺さんの頭!)

 アフターファイブの雰囲気に包まれた質素なディスコの中で、たまらず体が動き出し、どうにも踊らずにはいられない。
 踊りながら光を避け続けるヴィルに二人は唖然。レンゼンはやはり無自覚。

 不可解なミラーボール現象とヴィルの行動に、理解が追いつかないブラトニールとレイヴンを他所に。
 前後左右に、健康的な脚でステップを踏む。脚の動きに合わせて滑らかに動く腰は艶めいている。
 徐々に激しくなる光に合わせ、複雑なステップを披露する。

 そうしているうちに、いつの間にか、ブラトニールも座ったまま楽しそうに揺れている。レイヴンはなお唖然としていた。
 そして数分間踊り続け、ヴィルの頭は冷静さを取り戻し始める。

 (うわ眩しっ! なんで踊ってるんだ俺? ディスコブームとか別に世代じゃないぞ。あでもブラトニール楽しそうでかわいいなー癒されるぜ。違う違う、この光をどうにかしなければ……。ええい体よ、いうことを聞け、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ!)

 冷静になり勝手に踊り続ける体を、体から乖離した思考が制止し続けるも止まらない。
 だが諦めず、最後に渾身の力を込めて念じる。

(止まれーーー!!!)

 ピタッ、と体は美しい決めポーズで静止し、ブラトニールも目をくの字にして両手をあげて最高ッ、という感じで止まった。
 眩しかった部屋は通常の落ち着きを取り戻した。
 
 そんな部屋に、フワッ、サラサラっと、何かが風に靡いている。

「ふわっ、サラサラ?」

 何か大きな違和感に気づいたブラトニールが呟き、ぱちくりと瞬きをする。

「ふわっ、サラサラ?」

 ヴィルも同様に違和感を感じて眉を顰める。

 長い長いお辞儀が終わりレンゼンが顔をあげた。
 あれほど寂しかった不毛の荒野は見る影もなく、レンゼンの頭部は若々しい艶のある茶色の長髪に覆われていた。
 一同、驚きのあまり絶句。
 腰も曲がった老人の、シワだらけの顔が額の真ん中で分けられたサラサラヘアーの間から覗き、こう言っては悪いが非常に不気味である。

 鳩が豆鉄砲を食らったような表情で固まり、驚愕に下顎をわなわなと震わせているヴィルとブラトニールであったが、やがて脳が情報を処理しきり。

「「なっ………………。なにーーーーーーーーーーー!!!」」

 村全体を震わすほど大きな二人の咆哮。
 この混沌とした状況にレイヴンは一人、状況の理解を放棄し、もう何度目かも分からないため息を吐くのであった。

 
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