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序章:異世界にて
第二十六話:森の集落②
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地を揺らすような轟音と伴に衝撃が伝わる。
ヴィルの足元にはヒビが奔り、巻き起こった風に紅の髪が靡く。
「落ち着け……ヴィル」
肩まで振り翳されたヴィルの腕を、レイヴンが止めていた。
もし少しでも遅れていたら、この男はバラバラに砕け散っていたであろう。そう考えると、レイヴンの首筋を冷や汗が伝う。
男は何が起こったのか呑み込めない様子で、冷や汗をかきながら膝を折る。開いた口からは、もう言葉が出ることはなく放心状態。
もっとも、それ以上に驚いていたのはヴィル本人であった。実際、彼は腹を立てていたが、別に木っ端微塵にしてやろうと思っていたわけではない。
少し脅かしてやろうとしたところ、予想外に地面に亀裂が入り、レイヴンの手に込められた力に驚いていた。
「ああ、ごめん。助かった」
力なくそう言うと、自身の腕を食い入るように見つめるヴィル。
魔力の巡り方だけではなく、魔力量、出力ともに上昇していた、それも予想以上に。
道中ではブラトニールがすぐに魔獣を倒すものだから気づかなかったが、力加減に注意しなければならない。
「なにごとだ」
人垣の奥から聞こえる老人の声に、人々が振り返る。
足の悪そうな、白い髭と禿げ上がった頭の老人。
その老人は近くにいた一人に事情を説明させると、大体予想できていたというように目を伏せる。
そして静かに泣いているブラトニールに近づくと、そっと頭に手を添える。
「よう頑張ったのう、ブラトニール」
それは弱々しくも穏やかな声だった。
「うっ……ひっぐ……」
なおも泣き続けるブラトニールの頭に手を置いたまま、老人はレイヴンとヴィルに体を向けて一礼する。
「この度は要請に応えてくださったこと、感謝いたします。私はこの村の長を務めておるレンゼンと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「レイヴンです。こちらこそよろしくお願いします」
「ヴィルトゥスです」
レンゼンと名乗った老人は、二人の挨拶ににっこりと笑顔を返すと、村人に向き直り。
「皆、竜の危機に焦っているのは分かる。じゃが、ブラトニールに使いを頼んだのはワシらの総意じゃろう。まだ事の経緯も聞かずに責め立てるのは違うと思わんか?」
打って変わって低く怒気を混じった老人の声に、村人がさらに黙り込み、腰を抜かしていた男も冷静になり、ブラトニールに謝罪する。
「さっきは悪かった……」
「……うん」
下を向いたまま静かに頷ずくブラトニール。
ブラトニールはそれで許してやったみたいだが、男の発した暴言の数々を全て記憶しているヴィルの怒りは収まらないようで、帰っていく男を目で追い、額に筋を浮き上がらせている。
そんな今にも暴れ出しそうなヴィルの襟を掴み、レイヴンは困ったようにため息を吐いた。
「レイヴン殿、ひとまずお話をしたいのでワシの家までご案内いたします。客室もありますので滞在中はそちらをご利用くだされ」
「わかりました。おいヴィル、行くぞっ……って、すんげえ力……」
レイヴンがヴィルの襟を引っ張ると、地に根を張ったように抗力を感じる。仕方なく、無理やり力ずくで首根っこを引っ張り引き摺っていく。
「なんっなんだアイツ! あーーーッ!!! ムカつく!」
「いきなり大声出すなよ。あと暴れるな歩け」
ヴィルは引き摺られながら、行き場を失った怒りを手足をばたつかせて発散する。
そこへ、村長に呼ばれたブラトニールが駆け寄る。
涙の跡が残っているがその表情は幾分か柔らかくなっており、引き摺られているヴィルの顔を覗き込む。
「なんだよ」
ヴィルが暴れるのをやめて、怪訝そうな顔でブラトニールを見つめ返す。あれだけ言われた後なのに、ブラトニールの口元が微かに笑っていることが不思議で仕方がないと言う面持ちである。
だがブラトニールはさらにおかしそうに笑って。
「あっはは! ……なんでもないよ」
そう言って潤んだ目を細めると、レイヴンと並んで歩くブラトニール。
本当に何故笑っていられるのかわからない。
しかし彼女が笑っているのなら、これ以上自分が怒っているのもおかしな話だ。
「なんなんだよ……」
ヴィルの足元にはヒビが奔り、巻き起こった風に紅の髪が靡く。
「落ち着け……ヴィル」
肩まで振り翳されたヴィルの腕を、レイヴンが止めていた。
もし少しでも遅れていたら、この男はバラバラに砕け散っていたであろう。そう考えると、レイヴンの首筋を冷や汗が伝う。
男は何が起こったのか呑み込めない様子で、冷や汗をかきながら膝を折る。開いた口からは、もう言葉が出ることはなく放心状態。
もっとも、それ以上に驚いていたのはヴィル本人であった。実際、彼は腹を立てていたが、別に木っ端微塵にしてやろうと思っていたわけではない。
少し脅かしてやろうとしたところ、予想外に地面に亀裂が入り、レイヴンの手に込められた力に驚いていた。
「ああ、ごめん。助かった」
力なくそう言うと、自身の腕を食い入るように見つめるヴィル。
魔力の巡り方だけではなく、魔力量、出力ともに上昇していた、それも予想以上に。
道中ではブラトニールがすぐに魔獣を倒すものだから気づかなかったが、力加減に注意しなければならない。
「なにごとだ」
人垣の奥から聞こえる老人の声に、人々が振り返る。
足の悪そうな、白い髭と禿げ上がった頭の老人。
その老人は近くにいた一人に事情を説明させると、大体予想できていたというように目を伏せる。
そして静かに泣いているブラトニールに近づくと、そっと頭に手を添える。
「よう頑張ったのう、ブラトニール」
それは弱々しくも穏やかな声だった。
「うっ……ひっぐ……」
なおも泣き続けるブラトニールの頭に手を置いたまま、老人はレイヴンとヴィルに体を向けて一礼する。
「この度は要請に応えてくださったこと、感謝いたします。私はこの村の長を務めておるレンゼンと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「レイヴンです。こちらこそよろしくお願いします」
「ヴィルトゥスです」
レンゼンと名乗った老人は、二人の挨拶ににっこりと笑顔を返すと、村人に向き直り。
「皆、竜の危機に焦っているのは分かる。じゃが、ブラトニールに使いを頼んだのはワシらの総意じゃろう。まだ事の経緯も聞かずに責め立てるのは違うと思わんか?」
打って変わって低く怒気を混じった老人の声に、村人がさらに黙り込み、腰を抜かしていた男も冷静になり、ブラトニールに謝罪する。
「さっきは悪かった……」
「……うん」
下を向いたまま静かに頷ずくブラトニール。
ブラトニールはそれで許してやったみたいだが、男の発した暴言の数々を全て記憶しているヴィルの怒りは収まらないようで、帰っていく男を目で追い、額に筋を浮き上がらせている。
そんな今にも暴れ出しそうなヴィルの襟を掴み、レイヴンは困ったようにため息を吐いた。
「レイヴン殿、ひとまずお話をしたいのでワシの家までご案内いたします。客室もありますので滞在中はそちらをご利用くだされ」
「わかりました。おいヴィル、行くぞっ……って、すんげえ力……」
レイヴンがヴィルの襟を引っ張ると、地に根を張ったように抗力を感じる。仕方なく、無理やり力ずくで首根っこを引っ張り引き摺っていく。
「なんっなんだアイツ! あーーーッ!!! ムカつく!」
「いきなり大声出すなよ。あと暴れるな歩け」
ヴィルは引き摺られながら、行き場を失った怒りを手足をばたつかせて発散する。
そこへ、村長に呼ばれたブラトニールが駆け寄る。
涙の跡が残っているがその表情は幾分か柔らかくなっており、引き摺られているヴィルの顔を覗き込む。
「なんだよ」
ヴィルが暴れるのをやめて、怪訝そうな顔でブラトニールを見つめ返す。あれだけ言われた後なのに、ブラトニールの口元が微かに笑っていることが不思議で仕方がないと言う面持ちである。
だがブラトニールはさらにおかしそうに笑って。
「あっはは! ……なんでもないよ」
そう言って潤んだ目を細めると、レイヴンと並んで歩くブラトニール。
本当に何故笑っていられるのかわからない。
しかし彼女が笑っているのなら、これ以上自分が怒っているのもおかしな話だ。
「なんなんだよ……」
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