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序章:異世界にて
第二十三話:集落を目指して
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翌日早朝、まだ薄暗い街を起こさないように、静かに歩く二人の少女。
紅の長い髪をした少女はヴィル、黒髪のやや短めの髪をした少女はブラトニール。
さっきからブラトニールは大きな欠伸を連発して、眠そうな瞳を潤ませている。
冒険者の朝は早く、慣れない者にとってはなかなか厳しいのだ。
「よおっ! お嬢ちゃん今日も早いなー」
「おはよーおっちゃん」
通りかかった市場で、顔馴染みの店主に話しかけられた。市場の仕入れは午後からの方が多いが、それだけが仕事というわけではないのだろう。
軽く手を振替して、やはり働く人はかっこいい、と脱ニートを決め込んで冒険者にジョブチェンジしたヴィルは素直に思った。
市場を抜け、昨日の木を通り過ぎた先にある西の門。壁と堀の外には、農耕地が広がっており、広い街道が通っている。
朝日が差し込む門の内側で、壁に縋る二人は冷気に悴んだ指先を陽光に差し出し、せっかく起きたばかりだというのに、再び心地の良さそうに微睡みの中へ。
コクコクと揺れる彼女たちの視界に、その男は遅れてやってきた。
いつも通り、少し背を丸めた頼りない姿勢で歩く彼の名はレイヴン。前もろくに見ていない悲壮感漂う歩き方は、専属のウォーキングインストラクターに矯正をお願いしたい程にはだらしない。
そんな彼だが、流石はベテラン冒険者といったところか、眠気を全く感じさせない声で、
「おい起きろー、二人してだらしないな、まったく」
お前に言われたくないといった様子で、地面に置いた荷物をゆっくりと背負うヴィル。
「ふぁぁ……よしっ! 行こうか」
彼は一つ欠伸をしながら大きく伸びをして、身体強化をしようと魔力を巡らせたところで異変に気づく。
(なんだこれ……魔力が……)
体を巡る魔力の感覚、以前とは比べようもないほど澱み無く、体の端々まで魔力が流れる。
血管を伝い全身に広がる熱に、少しずつ体が慣れていく。これなら疲労する事もなく、身体強化の常時発動も難しくない。
理屈かは分からないが、どうであれ、ここからの旅が格段に楽になったのは喜ばしい。
すっかり眠気の覚めたヴィルは、未だ半目でリュックの肩紐をだらしなく二の腕まで下げている少女を見やり、
「ほら起きて、リュック落ちそうですよ。あ、寝癖ついてんじゃん」
「……ん、ありやと……ヴィル」、
されるがままに身なりを整えられ、どうにか七割ほど目を開けたブラトニールの先導で、三人は集落を目指して街を出た。
******
分かれ道からしばらく歩くいたところで、整備された街道はなくなり、三人は荒れた獣道を歩いていた。
街から集落までの最短経路らしいが、巨大な木の根や岩で高低差のできた道は、過客の訪れを拒んでいる。
先頭を行くブラトニールはさも当然と言わんばかりの顔で、タッタッと小気味良いステップを踏み、それを足を滑らせやしないかと、冷や冷やしながら見守る保護者たち。
「ブラトニールは、こんな道を一人できたのか?」
今更ながら、子供一人で森を抜けてきたという事に、ヴィルは疑問を感じた。はじめてのおつかいにしては、ちとハードすぎやしないだろうか。
近所の番犬が怖いなんていうほっこりする難所が、この場合、森に群生した魔獣が怖いという、ヴィル個人的にも笑えない場面になってしまう。
そんな彼の質問に、ブラトニールは澄まし顔で静かに答える。
「こんな道、集落ではボクしか通れないから。みんなのために頑張らないとね」
「へー、そっか……」
森の小さな集落で生まれた人間と魔族の混血。半分でも魔族の血を持つということは、魔力や寿命という面で、人間よりも圧倒的に優れている。
しかしブラトニールはまだ幼く、街で人に声をかけるのも躊躇う子供だ。
これが異世界の常識なのかと思いつつも、一方で彼女を一人で行かせた大人たちに、ヴィルは違和感を感じていた。
その後も三人は、崖やら谷の続くやたら険しい道を進んだ。
紅の長い髪をした少女はヴィル、黒髪のやや短めの髪をした少女はブラトニール。
さっきからブラトニールは大きな欠伸を連発して、眠そうな瞳を潤ませている。
冒険者の朝は早く、慣れない者にとってはなかなか厳しいのだ。
「よおっ! お嬢ちゃん今日も早いなー」
「おはよーおっちゃん」
通りかかった市場で、顔馴染みの店主に話しかけられた。市場の仕入れは午後からの方が多いが、それだけが仕事というわけではないのだろう。
軽く手を振替して、やはり働く人はかっこいい、と脱ニートを決め込んで冒険者にジョブチェンジしたヴィルは素直に思った。
市場を抜け、昨日の木を通り過ぎた先にある西の門。壁と堀の外には、農耕地が広がっており、広い街道が通っている。
朝日が差し込む門の内側で、壁に縋る二人は冷気に悴んだ指先を陽光に差し出し、せっかく起きたばかりだというのに、再び心地の良さそうに微睡みの中へ。
コクコクと揺れる彼女たちの視界に、その男は遅れてやってきた。
いつも通り、少し背を丸めた頼りない姿勢で歩く彼の名はレイヴン。前もろくに見ていない悲壮感漂う歩き方は、専属のウォーキングインストラクターに矯正をお願いしたい程にはだらしない。
そんな彼だが、流石はベテラン冒険者といったところか、眠気を全く感じさせない声で、
「おい起きろー、二人してだらしないな、まったく」
お前に言われたくないといった様子で、地面に置いた荷物をゆっくりと背負うヴィル。
「ふぁぁ……よしっ! 行こうか」
彼は一つ欠伸をしながら大きく伸びをして、身体強化をしようと魔力を巡らせたところで異変に気づく。
(なんだこれ……魔力が……)
体を巡る魔力の感覚、以前とは比べようもないほど澱み無く、体の端々まで魔力が流れる。
血管を伝い全身に広がる熱に、少しずつ体が慣れていく。これなら疲労する事もなく、身体強化の常時発動も難しくない。
理屈かは分からないが、どうであれ、ここからの旅が格段に楽になったのは喜ばしい。
すっかり眠気の覚めたヴィルは、未だ半目でリュックの肩紐をだらしなく二の腕まで下げている少女を見やり、
「ほら起きて、リュック落ちそうですよ。あ、寝癖ついてんじゃん」
「……ん、ありやと……ヴィル」、
されるがままに身なりを整えられ、どうにか七割ほど目を開けたブラトニールの先導で、三人は集落を目指して街を出た。
******
分かれ道からしばらく歩くいたところで、整備された街道はなくなり、三人は荒れた獣道を歩いていた。
街から集落までの最短経路らしいが、巨大な木の根や岩で高低差のできた道は、過客の訪れを拒んでいる。
先頭を行くブラトニールはさも当然と言わんばかりの顔で、タッタッと小気味良いステップを踏み、それを足を滑らせやしないかと、冷や冷やしながら見守る保護者たち。
「ブラトニールは、こんな道を一人できたのか?」
今更ながら、子供一人で森を抜けてきたという事に、ヴィルは疑問を感じた。はじめてのおつかいにしては、ちとハードすぎやしないだろうか。
近所の番犬が怖いなんていうほっこりする難所が、この場合、森に群生した魔獣が怖いという、ヴィル個人的にも笑えない場面になってしまう。
そんな彼の質問に、ブラトニールは澄まし顔で静かに答える。
「こんな道、集落ではボクしか通れないから。みんなのために頑張らないとね」
「へー、そっか……」
森の小さな集落で生まれた人間と魔族の混血。半分でも魔族の血を持つということは、魔力や寿命という面で、人間よりも圧倒的に優れている。
しかしブラトニールはまだ幼く、街で人に声をかけるのも躊躇う子供だ。
これが異世界の常識なのかと思いつつも、一方で彼女を一人で行かせた大人たちに、ヴィルは違和感を感じていた。
その後も三人は、崖やら谷の続くやたら険しい道を進んだ。
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