大罪人に転生!? 美少女に転生したいとは言いましたが……

息吹く遥

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序章:異世界にて

第十三話:熊退治は森の中で

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 街の中央広場に佇む、一人の男性の石像。
 その隣に突っ立っている紅髪の少女にとって、この男がどんな人物かは全くどうでもいいことであった。
 ただ待ち合わせの目印としてありがたく活用させてもらっている。
 足にフィットする革製のブーツを履き、つま先で小石を転がしている彼女の中身は、実は男である。
 よってであるのだが。
 女性用の装備を装着することは彼にとって、最初は恥ずかしさもあったが、今ではもうすっかり慣れたものだ。
 そういえば、前世でも男性の服装より女性の服装の方が装飾が細かかったり、種類も豊富で少し羨ましかったかもしれない。特にゲームでは、女性キャラクターの装備の方がイケていた。
 それに、今は誰もが羨む美少女で、似合わない服などない。となれば楽しまなければ損であろう。

 ふと通りに目をやると、活力のなさそうな茶髪のだらしない男が見えた。フラフラと頼りない足取りで、止まっている荷馬車にぶつかりかけて頭を下げている。
 この二ヶ月、見るたびにこの男は何かにぶつかりかけていた。危険なのでしっかりと前を向いて歩いてほしいものだ。
 二人は合流すると、歩きながら今日の依頼について話し合う。
 
「クライスベア……だっけ? どんな魔獣なんだ?」
「そこまで強力な魔獣ではないいんだが、この季節は人の生活圏まで出没するから、こうしてよく討伐依頼がくる。まあ、ただのクマだ」
「ただのクマ……」

 ヴィルのいた世界では、クマは十分に怪物であったので多少違和感を覚えた。しかし、一見頼りなさそうに見えるこの中年も、こうして隣に立つと歴戦の冒険者の貫禄を感じる。
 少女は前に向き直ると、少しだけ歩調を速めた。

「……? 空模様が怪しいな、先を急ぐか」

 目を細めて嫌に眩しい灰色の空を眺めるレイヴン。
 肌寒い風が外套の裾を揺らしていた。


 半日ほど歩き、二人は森の中を探索していた。
 木々についた巨大な爪痕は、ここが魔獣のナワバリであることを示している。

「近いな……」

 鋭い目つきで声を殺して呟くレイヴン。
 流石はベテラン冒険者、いくら弱い魔獣が相手でも油断はしない。あらゆる可能性を考慮しているのだ。
 茂みに身を隠し、耳を澄ましていると草木をかき分ける音が近づく。
 音のする方には、五頭のクマ型の魔獣が植物を押し固めるように歩いていた。

「いたぞ、奴らが川辺に近づいたら狩る。いいな」

 レイヴンの指示に、コクリと静かに頷く。少し開けたところでなければ、剣が振りにくいということだ。
 二人はその場に荷物を下ろし、外套を脱ぐ。
 魔獣の群れは、ゆっくりと茂みを抜けていく。
 
「今だ!」
「りょうかい!」

 小さくとも力強いレイヴンの合図にヴィルが続く。
 勢いよく茂みから飛び出した二人に、魔獣が素早く振り向き臨戦体制に入ろうとする。
 しかし、レイヴンはそんな暇を与えず一頭の首を流れるように切り落とし、魔獣の巨体はズシンと重い音を立てて川に崩れた。
 眼前、少し距離を置き、2頭の魔獣が彼を睨みつけている。
 ふと彼がヴィルの方に目をやると、

「ぐっ、リャあぁぁ!!!」

 剣筋はまだまだ素人同然ではあるが、身体能力に任せ、魔獣の攻撃ごと胴体を両断している瞬間であった。
 両断……。斬るというには少々烏滸おこがましいその一振りは、むしろ吹き飛ばしていると言った方が正しい。
 刃先の衝撃が一気に伝播して血しぶきを巻き上げる中、長い紅髪が軽やかに宙に浮く。
 吹き飛ばされた魔獣の半身は、そのまま放物線を描いてから対岸に転がった。
 
「うっわあ……無茶苦茶な戦い方しやがって……短剣だぞアレ」

 若干呆れて眉を浮かすレイヴンに二頭が一斉に襲いかかるも、爪が触れる前に魔獣の首が落ちた。
 残る一匹をヴィルが吹き飛ばし、魔獣を掃討。
 ヴィルは冒険者として一ヶ月活動し、魔獣との戦闘にはかなり慣れてきていた。倒した魔獣の解体も手慣れたものだ。

「ヴィル、もう少し綺麗に倒せるようになってくれよ」
「わかった、もっと剣術を頑張るよ。帰ったら普通の片手用の直剣の使い方も教えてくれ」
「そうだな、最初は短剣が扱い易いと思ったが、直剣でも良さそうだし、ダイラ爺さんのところに行くか」

 ヴィルに短剣を持たせてみたはいいものの、あれはもはや短剣の使い方ではない。
 どうせ何を使わせても大抵の魔物に負けることはないのなら、多少扱いづらくとも直剣を持たせていいだろう。
 素材を回収し終えると荷物を背負い帰路につく。

 天を覆う葉から滴る水滴が、少女の小さな頭を打つ。
 突然の冷たさにビクッと小さく肩をすくめると、フードを被り直す。
 湿った腐葉土の感触が、時間と共にさらに柔らかくなる。
 まだ魔力操作に慣れていないせいか、徐々に荷物の重みが増しているようだ。
 そんな様子を察して、彼を横目で見ながらレイヴンが声をかける。

「無理するなよ。重かったら半分くらい持つぞ」
「いや、大丈夫……」

 濡れた前髪を額に貼り付けて、若干息を切らしながらも明るく笑顔を作る。

「そっか、そろそろ森を抜ける。あと少し頑張れ」

 前へ向き直り、ゆっくりと歩き出すレイヴンに追いつこうと、ヴィルも足に力を入れる。
 その時、

「いっっ……」
 
 突然の痛みにヴィルの顔が歪む。
 痛みの発生元を目で辿ると、横腹に短剣が刺さっており、それから背後の人間に遅れて気がついた。

「どうしたっ!?」

 その声に反応し振り向いたレイヴンの視界に入ったのは、どこか見覚えのある男だった。
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