12 / 27
序章:異世界にて
第十二話:ニートのノート
しおりを挟む
この街に来てニヶ月が経過した。
依頼を受けない日は早朝から剣の修行をし、夜は魔法の練習をするという生活をしている。
その甲斐もあり魔力操作は順調に上達し、剣術の修行中でも身体能力だけならレイヴンより上だ。
「うーん、常時身体強化するのはまだ難しいな。それにレイヴンからは一本も取れないし」
道具屋のカウンターで留守番を頼まれたヴィルは暇そうに欠伸をしながら、魔力操作の練習をしていた。
身体強化を無意識下で完璧に発動することがシルスからの課題であるが、二十四時間ずっとというのがかなり難しい、ふとした時に解除されてしまう。
剣術に関しては、レイヴンは『剣の加護』を持っているらしく、魔力面で勝っていても技術的に勝てる気がしない。
この世界では人間という種族はあまり強くはないらしく、冒険者たちはパーティを組むのが常識だ。
近接の剣士と遠距離・回復役の魔術師に役割分担している。その中で、一人で竜を狩ることのできるレイヴンは果たして人間なのだろうか。
「あ、まただ……」
身体強化が解けるのは今日何度目かもわからない。
朝から出て行ったカリナが帰ってくる気配はなく、客が来る気配もなかった。
今日の店内は綺麗に片付いていて、汚部屋マスターの彼にとっては違和感を感じる。
集中力を欠いてきたので少し休憩することにし、魔法で水を生成してコップに注ぐ。
正直空中に生成された水は、自分で出したとはいえ得体の知れなさはある。
カリナに作ってもらったノートを開くと、そこに魔力で文字を書いていく。
これは魔力に反応し、その軌跡を保存する魔道具で、みんなから教えてもらったことを、ここにをまとめていた。
特にシルスは博識で、魔法修行の傍らに様々なことを教えてくれた。
その中でも印象に残ったのは『神格』についての話だ。
数ページ戻り、メモに目を通す。
「神格と世界について」と書いたページだ。
『神隠暦』六千五百二十九年、これは原初の神が世界から消えてからの年数を表しており、世界中で使われている。
伝承によれば、この世界を創造した一人の神がいたという。
その神は自身が創造した精霊たちと、世界の中心で穏やかに暮らしていた。
時は流れ、知能を持たぬ獣たちの中から、人類が誕生する。
人類は瞬く間にその数を増やし、平和な世界に戦乱をもたらすと、果てには神をも殺した。
もっと長ったらしく書いてある文献もあるそうだが、どれも尾ビレ背ビレがついて正しく記されたものはないという。
なので神が消えるまでの話で正しいとされているのは、このようなものだとシルスは言っていた。
その後、神の亡骸から溢れ出た力は四つに分かれ、それが四人の『神格』と呼ばれている存在。
『理神・ラクリマ』
『邪神・ノーデンス』
『巨神・ニヴルス』
『神龍・ラグナ』
「それで約二千年前に神龍が巨神を滅ぼし、今の神格は三人ね」
実に興味深い話であったが、正直現実味がない。
だがもし本当にいたとしても、絶対に関わり合いになりたくないものだ。
特に邪神、名前からしておっかねえ。
チリンチリン、と涼しげな呼び鈴の音にヴィルは顔をあげる。
「ただいまー。いい子にしてた?」
眠気を誘う声に、藍色の髪と灰色の瞳でやや垂れ目の女性はカリナだ。
彼女との生活には慣れてきてはいたが、やはり自分を子供扱いしすぎているように感じる。
別に嫌というほどではないのだが、大人になりたい彼にとっては、身近に潜むダメ人間ルートを警戒してしまう。
「おかえり。なにそれ葉っぱ?」
「まあ葉っぱだけど、料理の臭み消しに使うの、この前ヴィルが取ってきたお肉と、お客さんからもらったタルアの乳でスープを作るの」
つまりクリームシチューである。
贅沢な食事であるが、最近ではヴィルがギルドの依頼をこなし、報酬をもらっているため家計はそこまで厳しくない。
「やった! 手伝うよ」
ノートを閉じて二人で台所へ向かうと、まるで彼女ができたかのような充実感に満たされる。
あの引きこもりがこんな美女と暮らせるなんて、写真を撮ってネットに拡散したい。
出来上がったクリームシチューをテーブルに運び、もはや日常になった二人での夕食。
「「いただきます」」
カリナはこの言葉の意味を理解していないが、なんとなく気に入っているみたいだ。
シチューに硬いパンを浸けて、少し柔らかくなったところを食らう。
うむ、これがなかなかに美味しい。
前世ではジビエ料理を食べたことがなかったが、この独特の臭みがクセになる。
しかしここまで美味しいのは、カリナの料理の腕がプロ級だからだろう。
異世界転生の難題の一つに料理がまずいことが挙げられるが、カリナがいればそんな心配とは無縁なのだ。
依頼を受けない日は早朝から剣の修行をし、夜は魔法の練習をするという生活をしている。
その甲斐もあり魔力操作は順調に上達し、剣術の修行中でも身体能力だけならレイヴンより上だ。
「うーん、常時身体強化するのはまだ難しいな。それにレイヴンからは一本も取れないし」
道具屋のカウンターで留守番を頼まれたヴィルは暇そうに欠伸をしながら、魔力操作の練習をしていた。
身体強化を無意識下で完璧に発動することがシルスからの課題であるが、二十四時間ずっとというのがかなり難しい、ふとした時に解除されてしまう。
剣術に関しては、レイヴンは『剣の加護』を持っているらしく、魔力面で勝っていても技術的に勝てる気がしない。
この世界では人間という種族はあまり強くはないらしく、冒険者たちはパーティを組むのが常識だ。
近接の剣士と遠距離・回復役の魔術師に役割分担している。その中で、一人で竜を狩ることのできるレイヴンは果たして人間なのだろうか。
「あ、まただ……」
身体強化が解けるのは今日何度目かもわからない。
朝から出て行ったカリナが帰ってくる気配はなく、客が来る気配もなかった。
今日の店内は綺麗に片付いていて、汚部屋マスターの彼にとっては違和感を感じる。
集中力を欠いてきたので少し休憩することにし、魔法で水を生成してコップに注ぐ。
正直空中に生成された水は、自分で出したとはいえ得体の知れなさはある。
カリナに作ってもらったノートを開くと、そこに魔力で文字を書いていく。
これは魔力に反応し、その軌跡を保存する魔道具で、みんなから教えてもらったことを、ここにをまとめていた。
特にシルスは博識で、魔法修行の傍らに様々なことを教えてくれた。
その中でも印象に残ったのは『神格』についての話だ。
数ページ戻り、メモに目を通す。
「神格と世界について」と書いたページだ。
『神隠暦』六千五百二十九年、これは原初の神が世界から消えてからの年数を表しており、世界中で使われている。
伝承によれば、この世界を創造した一人の神がいたという。
その神は自身が創造した精霊たちと、世界の中心で穏やかに暮らしていた。
時は流れ、知能を持たぬ獣たちの中から、人類が誕生する。
人類は瞬く間にその数を増やし、平和な世界に戦乱をもたらすと、果てには神をも殺した。
もっと長ったらしく書いてある文献もあるそうだが、どれも尾ビレ背ビレがついて正しく記されたものはないという。
なので神が消えるまでの話で正しいとされているのは、このようなものだとシルスは言っていた。
その後、神の亡骸から溢れ出た力は四つに分かれ、それが四人の『神格』と呼ばれている存在。
『理神・ラクリマ』
『邪神・ノーデンス』
『巨神・ニヴルス』
『神龍・ラグナ』
「それで約二千年前に神龍が巨神を滅ぼし、今の神格は三人ね」
実に興味深い話であったが、正直現実味がない。
だがもし本当にいたとしても、絶対に関わり合いになりたくないものだ。
特に邪神、名前からしておっかねえ。
チリンチリン、と涼しげな呼び鈴の音にヴィルは顔をあげる。
「ただいまー。いい子にしてた?」
眠気を誘う声に、藍色の髪と灰色の瞳でやや垂れ目の女性はカリナだ。
彼女との生活には慣れてきてはいたが、やはり自分を子供扱いしすぎているように感じる。
別に嫌というほどではないのだが、大人になりたい彼にとっては、身近に潜むダメ人間ルートを警戒してしまう。
「おかえり。なにそれ葉っぱ?」
「まあ葉っぱだけど、料理の臭み消しに使うの、この前ヴィルが取ってきたお肉と、お客さんからもらったタルアの乳でスープを作るの」
つまりクリームシチューである。
贅沢な食事であるが、最近ではヴィルがギルドの依頼をこなし、報酬をもらっているため家計はそこまで厳しくない。
「やった! 手伝うよ」
ノートを閉じて二人で台所へ向かうと、まるで彼女ができたかのような充実感に満たされる。
あの引きこもりがこんな美女と暮らせるなんて、写真を撮ってネットに拡散したい。
出来上がったクリームシチューをテーブルに運び、もはや日常になった二人での夕食。
「「いただきます」」
カリナはこの言葉の意味を理解していないが、なんとなく気に入っているみたいだ。
シチューに硬いパンを浸けて、少し柔らかくなったところを食らう。
うむ、これがなかなかに美味しい。
前世ではジビエ料理を食べたことがなかったが、この独特の臭みがクセになる。
しかしここまで美味しいのは、カリナの料理の腕がプロ級だからだろう。
異世界転生の難題の一つに料理がまずいことが挙げられるが、カリナがいればそんな心配とは無縁なのだ。
1
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。


オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる