大罪人に転生!? 美少女に転生したいとは言いましたが……

息吹く遥

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序章:異世界にて

第十二話:ニートのノート

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 この街に来てニヶ月が経過した。
 依頼を受けない日は早朝から剣の修行をし、夜は魔法の練習をするという生活をしている。
 その甲斐もあり魔力操作は順調に上達し、剣術の修行中でも身体能力だけならレイヴンより上だ。
 
「うーん、常時身体強化するのはまだ難しいな。それにレイヴンからは一本も取れないし」

 道具屋のカウンターで留守番を頼まれたヴィルは暇そうに欠伸をしながら、魔力操作の練習をしていた。
 身体強化を無意識下で完璧に発動することがシルスからの課題であるが、二十四時間ずっとというのがかなり難しい、ふとした時に解除されてしまう。

 剣術に関しては、レイヴンは『剣の加護』を持っているらしく、魔力面で勝っていても技術的に勝てる気がしない。
 この世界では人間という種族はあまり強くはないらしく、冒険者たちはパーティを組むのが常識だ。
 近接の剣士と遠距離・回復役の魔術師に役割分担している。その中で、一人で竜を狩ることのできるレイヴンは果たして人間なのだろうか。

「あ、まただ……」

 身体強化が解けるのは今日何度目かもわからない。
 朝から出て行ったカリナが帰ってくる気配はなく、客が来る気配もなかった。
 今日の店内は綺麗に片付いていて、汚部屋マスターの彼にとっては違和感を感じる。
 集中力を欠いてきたので少し休憩することにし、魔法で水を生成してコップに注ぐ。
 正直空中に生成された水は、自分で出したとはいえ得体の知れなさはある。

 カリナに作ってもらったノートを開くと、そこに魔力で文字を書いていく。
 これは魔力に反応し、その軌跡を保存する魔道具で、みんなから教えてもらったことを、ここにをまとめていた。
 特にシルスは博識で、魔法修行の傍らに様々なことを教えてくれた。
 その中でも印象に残ったのは『神格』についての話だ。
 数ページ戻り、メモに目を通す。

 「神格と世界について」と書いたページだ。
 『神隠暦』六千五百二十九年、これは原初の神が世界から消えてからの年数を表しており、世界中で使われている。
 
 伝承によれば、この世界を創造した一人の神がいたという。
 その神は自身が創造した精霊たちと、世界の中心で穏やかに暮らしていた。
 時は流れ、知能を持たぬ獣たちの中から、人類が誕生する。
 人類は瞬く間にその数を増やし、平和な世界に戦乱をもたらすと、果てには神をも殺した。

 もっと長ったらしく書いてある文献もあるそうだが、どれも尾ビレ背ビレがついて正しく記されたものはないという。
 なので神が消えるまでの話で正しいとされているのは、このようなものだとシルスは言っていた。

 その後、神の亡骸から溢れ出た力は四つに分かれ、それが四人の『神格』と呼ばれている存在。

 『理神・ラクリマ』
 『邪神・ノーデンス』
 『巨神・ニヴルス』
 『神龍・ラグナ』
 
「それで約二千年前に神龍が巨神を滅ぼし、今の神格は三人ね」

 実に興味深い話であったが、正直現実味がない。
 だがもし本当にいたとしても、絶対に関わり合いになりたくないものだ。
 特に邪神、名前からしておっかねえ。


 チリンチリン、と涼しげな呼び鈴の音にヴィルは顔をあげる。

「ただいまー。いい子にしてた?」

 眠気を誘う声に、藍色の髪と灰色の瞳でやや垂れ目の女性はカリナだ。
 彼女との生活には慣れてきてはいたが、やはり自分を子供扱いしすぎているように感じる。
 別に嫌というほどではないのだが、大人になりたい彼にとっては、身近に潜むダメ人間ルートを警戒してしまう。

「おかえり。なにそれ葉っぱ?」
「まあ葉っぱだけど、料理の臭み消しに使うの、この前ヴィルが取ってきたお肉と、お客さんからもらったタルアの乳でスープを作るの」

 つまりクリームシチューである。
 贅沢な食事であるが、最近ではヴィルがギルドの依頼をこなし、報酬をもらっているため家計はそこまで厳しくない。
 
「やった! 手伝うよ」

 ノートを閉じて二人で台所へ向かうと、まるで彼女ができたかのような充実感に満たされる。
 あの引きこもりがこんな美女と暮らせるなんて、写真を撮ってネットに拡散したい。

 出来上がったクリームシチューをテーブルに運び、もはや日常になった二人での夕食。

「「いただきます」」

 カリナはこの言葉の意味を理解していないが、なんとなく気に入っているみたいだ。
 シチューに硬いパンを浸けて、少し柔らかくなったところを食らう。
 うむ、これがなかなかに美味しい。
 前世ではジビエ料理を食べたことがなかったが、この独特の臭みがクセになる。
 しかしここまで美味しいのは、カリナの料理の腕がプロ級だからだろう。

 異世界転生の難題の一つに料理がまずいことが挙げられるが、カリナがいればそんな心配とは無縁なのだ。
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