大罪人に転生!? 美少女に転生したいとは言いましたが……

息吹く遥

文字の大きさ
上 下
9 / 27
序章:異世界にて

第九話:荒くれ者には縁がある!

しおりを挟む

 武具屋を出た二人は、遂に冒険者ギルドの前にきていた。
 石の土台に建つ大きな木造の建築物、扉からは中の賑わいを感じさせる声と暖色の光。

「ここが……冒険者ギルド、中は酒場にでもなってて冒険者たちで賑わってるのか」

 建物の前で恍惚とした表情を浮かべている紅髪の少女、興奮気味の独り言は語尾にかけて声が浮いている。

「ヴィル、舐められないように行くぞ。そんなだらしない顔じゃダメだ、シャキッとしろシャキッと!」

 だらしなさそうな顔をした男が少女に言い聞かせると、少女はどんな顔をしたらいいものかと困惑する。
 この時間帯は冒険者の多くがギルドに集まっている。新入りは第一印象が大切なのだ。
 しかし、先ほどのダイラの反応を見てもレイヴンは本当に凄腕であることは分かった。
 彼が同行するだけで舐められることはないだろう。このだらしない見た目じゃなければ……。
 錆びた鉄の取手を引いて扉を開く。

「おおー、想像通りのファンタジー感っ! これはテンション上がるなー!」

 石の床に木の長机が並べられており、様々な装備の冒険者がワイワイと酒を酌み交わしている。
 二階にも同じような席が設けられているようだ。
 見渡すと女性の冒険者もちらほらいる。大きな杖を立てかけているので魔法使いだろう。
 他にも亜人種のような者もおり、ヴィルはいつかケモ耳美少女に出会えることを静かに願う。
 こうみると思っていたほどの荒くれ者の集団には見えず、この街は民度がいいのだろうと安堵する……。

「おいおいおい! ここはガキ連れてくるような場所じゃねーぞ!」
「絶対にあるとは思っていたが……、はぁ……」

 二人が声のした方へゆっくりと顔を向けると、いかにも「荒くれ者です」という品性の欠片もない人相をした男が、酒を片手に立っている。
 あいつ竜殺しに何言ってんだ? 酔いすぎだろ……。痛い目を見ないと分からんかね。
 などと周囲が騒めく。

「ヴィル、行こうか……」

 下手に関わらないようにその場を離れようとするが、酔った男はフラフラと近づいてくる。

「何すかしてんだぁオッサン? おお、ガキかと思ったがなかなか可愛いじゃねーか。俺と飲もうぜ、可愛がってやんよ」

 男は無遠慮にヴィルに手を伸ばす。浅ましさが張り付いた男の黒目に、背筋が凍るような悪寒が走った。

(あれ? なんか、体動かな……、キモいキモいキモいキモい……)

 感じたことのない恐怖に体が強張り動かない。迫り来る男の手を凝視し、呼吸が乱れ、汗が頬を伝う。
 ひどくゆっくりと感じる時間に、目眩がしてくる。
 橙色の照明がチカチカと明滅をはじめ、伸びた光に視界が奪われていく……。 

「痛ッ……、うぐぅぅ……」
「汚ねえ手で……ウチの子に触るな」

 気がつくと男の手はヴィルの顔の手前で停止しており、見るとレイヴンが男の腕を掴んでいる。
 その瞳には怒りの色が滲み出ており、噛み締めた奥歯から軋む音が聞こえてくる。

「クソッ! 放し……やがれ」

 男の腕は今にも折れそうなほど強く握られており、痛みに耐えかねて床に膝頭をつく。それでもレイヴンを憎らしそうに睨み上げ、唸り声をあげている。
 その光景にギルド内は静まり返っていた。

「ぎぃ……この、放せって言ってんだろ!」
「ひっ!? ……冷た」

 苦し紛れの抵抗として男は手に持っていた酒を、レイヴンにかけようとするが手を滑らせ、隣のヴィルは頭から酒をかぶった。
 紅の長い髪から滴り落ちる酒が、床に落ちるより先に。

 男の体は宙を舞っていた。

 男は何をされたのか理解できないまま、入り口の扉を勢いよく破壊して路地に放り出される。

「うぅ……、痛ッ…………腕が……」

 朦朧としながら男は体を起こし、外れた肩と折れた手首を見て自分が投げ飛ばされたことに気づく。

「酔いは覚めたか?」
「ひっ!?」

 壊れた扉からゆっくりと近づくレイヴン。その重く低い声に、男の酔いはすっかり消え失せていた。
 鈍い痛みに顔を歪め、尻を地面に引きずり後ずさる男だが、今度は顎を下から蹴り上げられ、後ろに転げる。

「あぐ……お、俺が悪がった……許してぐれ」
「……」

 男は地に這いつくばり、切れた口から血を流しながら許して欲しいと懇願するが、レイヴンの視線は鋭く冷徹で返答はない。
 このまま男を蹴り殺してしまいそうだが、止められるものはいない、そう思われたが、

「レイヴン……そこまでにしときな。この子も怯えてる」

 背後から響いた低い女性の声がレイヴンを静止させた。
 彼がハッとして振り向くと、見知った魔術師の女と怯えた顔のヴィルの二人が立っていた。自分の行き過ぎた行動を顧みて、レイヴンはバツが悪そうに地面へ視線を落とす。

「あんたたち、あとで扉直すのよ」

 女はツカツカと歩き、レイヴンの前を通り過ぎると、重症の男に治癒魔法をかける。淡い光に包まれて、男の傷は瞬く間に癒えていった。

「す、すまねえ……」
「酔いすぎだね。いいから今日は帰りな」

 立ち上がれるまでに回復した男は、冷静さを取り戻していたもののレイヴンを恨めしそうな目で睨みつけて、宿屋の方向へ消えた。
 ひとまず事態が収集すると、女は「まったく」と至極面倒そうに溜息をつき、

「二階から見てたよ、確かにあの男が悪い……、でもここまでする必要はなかった。もっと穏便に済ませられたはずよ」
「すまない……、冷静さを欠いてしまった……」

 先ほどの出来事を振り返り、レイヴンは湧き上がってくる怒りを噛み殺す。
 拳を固く握り、自身を戒めている彼に対し、女はまた呆れたように溜息を吐く。

「もう、めんっっっどくさいなあ!! ウジウジしてんじゃないわよ、それよりこの子の心配でしょ!!」  

 それでもレイヴンは気まずそうに目を逸らす。もっと穏便に済ませられたはずだ。あれだけ暴れて、ヴィルを怖がらせてしまったのではないかとも考えた。
 そんな彼に、黙っていたヴィルが口を開いた。

「レイヴン、さっきは助けてくれて、ありがとうな」

 あのとき、酔った男を目の前にしてヴィルは足がすくんだ。
 ニート時代の自分よりもガタイがよく、顔つきも怖かった。
 昔から学校や職場でも、なぜかこういう人種に絡まれることが多かったが、そんなときは、できるだけ大人しくしていた。そうすれば、向こうの世界ではそれほど酷い目に遭うことはないからだ。そうしているうちに、いつしか負け犬根性が染み付いてしまっていたのだろう。
 ヴィルは、そんなことを考えて黙っていただけだった。
 
「ヴィル、ごめんな」
「気にすんなよ、本当に感謝してるんだから。それよりここに来た目的!」

 ヴィルの呑気すぎる一言に、レイヴンの気持ちは幾分軽くなったようで、

「そうだったな、登録しに行こう。お前にも迷惑かけたな」
「別にいいわよ、今日はその子の登録に来たのね。私は二階にいるから、あとで話聞かせてよね」

 そう言って女はヴィルに目配せをすると、背中に細く束ねられた金髪を揺らしながら二階へと上がっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...