カフェ日和

まゆら

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長芋と切り昆布のサラダ(まごわやさしい)

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 早朝に、変態――改め、レイドと俺は一緒に魔術塔へと向かった。

 そこに向かう途中。心の中でずっと変態と呼んでいたせいで、ついついそう言ってしまったのだ。

 すると、レイドは道のど真ん中で膝を付き。動かなくなった。

 通行人がめちゃめちゃこっちを見てコソコソしてるし、終いには『あれって、ハートシア様じゃね?』みたいな声も聞こえてきて……レイドは凄い注目の的になっていた。

 遂には、俺の方を見ながら『あの人が原因なのかな?』 とか言われ始めたので、慌ててレイドと呼びまくったら何事もなかったように動き出した。

 確かにそう言った俺も悪かったけどさ、流石にこれは無いだろうとクッソ呆れたわ。



 △▼△▼△▼△▼


「へ~。よく、変た――コホン、レイドが行ってたの知ってたけど……ここが魔術塔だったんだ? 普通のカフェかと思ってた」


 そう、ごくごく普通のカフェにしか見えない。

 俺が輝石の時に、レイドが頻繁に足を運んでいたところなのだが。
 知り合いのような人に、資料のようなものを受け取って。それに目を通し、一言二言その相手に話していただけだったから、あまり気にもしていなかった。


「ああ、表向きはな。今日はこの奥に用がある」
「ん……? スタッフルーム?」

 従業員入り口のような扉の前に、俺達は止まっていた。

 すげ~! 大きな組織の本部って、こういうふうに隠されてるもんなんだな~。


「お待ち下さい」


 レイドがその取っ手を掴んだ時に、後ろから声を掛けられた。


「……なんだ?」
「ハートシア様、その隣の方はどなたでしょう? 関係者以外はご入室出来ないことを……。勿論、ご存知ですよね?」


 従業員らしき男が、こちらに歩み寄って来ていた。


 うわ~なんか、感じ悪いな。

 言っていることは確かに正しいけど。この従業員は、あからさまに小馬鹿にするような態度を取っていたのだ。


「今、何が起こっているのか分かっているだろう? それを解決することの出来る者だ」
「さあ? ハートシア様が何をおっしゃっているのか……。とにかく、関係者以外は立ち入り禁止ですよ~?」


 え? こいつ、何様?

 レイドは、魔術塔の人達に救われたとか言ってたけど……マジでか?

 そんなこと、してくれそうに見えね~けど?


「ああっ! そうか!! 風のうわさで聞きましたよ? ハートシア様は、輝石に愛を囁くようになりボケが始まったとかなんとか……。まあ、確かに。お年ですからね~?」


 ブッチン!!


「俺、レイドのパートナーだから! はい、すっげー関係者!」
「ぎゃぁああーーーーーーっ!!?」

 あ、ヤベ、吹っ飛ばしちまった。

「あ~~……。あれ、どうしよ……ぐえっ!!」
「ヤマダっ!!!」

 何故だか、レイドにギュウギュウと絞め技を食らう。

「うぐ、苦し……っ! 苦しいんだけど!?」
「ああ、すまない! あまりにも、ヤマダが可愛いことを言うから……。そうか、妻、か」
「はぁ?」

 ニコニコ輝くような笑みを浮かべているレイドを、俺は呆然と見上げた。

 は? 妻……?? なんで、『パートナー』から『妻』に脳内変換してんの? 仕事の相棒、みたいな意味で言ったんだけど? ……にしても、ボケたや年だとかって言われた本人がなんで怒らねーんだ。

 未だ、絞め殺すレベルで抱きついてくるレイドに『妻、違うわボケ!』(レイドは、まったく聞こえていない様子)と言って必死に剥がそうと踠いていたら、ひっくり返った従業員とたまたま目が合い。化け物を見るような目をされて怯えられた。

 なんか、ムカついたから睨み付けると。悲鳴を上げられ、逃げられた。は? 失礼じゃね?


 それから、へばりつくレイドを何とか引き剥がし。

 俺達は、その扉の中へと入った――――。


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