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あの娘に恋した理由その1 理想と現実の狭間で

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俺があの娘。

杉野ほたるに初めて会ったのは

おじさんの店で修行を始めて間もなくの事だった。

ドイツでパン職人の修行をして帰ってきたばかりの俺は店に出すパンの事で毎日おじさんとやりあっていた。

ひよっこの俺からしたら最高の腕を持っているおじさんが何故、田舎にくすぶっているのか?

毎日菓子パンや惣菜パンメインのくだらないパンを焼き続けているのか?が理解出来なくて腹を立てていたんだ。

ドイツでの俺の師匠が永遠のライバルだと言う位に凄腕のパン職人なのに‥

どうしてもっと本格的なパンを店で出さないのか?

俺には全くおじさんの考えてる事がわからなくて毎日喧嘩をふっかけてた。

◇◇◇◇◇◇

そんなだから、仕事が面白くなくて

俺の作りたい物を作れる店を探して、そこで修行を積むべきなのか?

いや?しかし‥俺が日本で1番尊敬する師匠はおじさんだし?と近所の公園で頭を抱えて悩んでた。

そんな時にあの娘と出会ったんだ。

その女の子はベンチに座って泣きながらでっかいメロンパンを食べていた。

失恋でもしてやけ食いしてるのか?と思い見ていると‥

「お父さん!お母さん!私、お姉ちゃんの前では絶対に泣かない事にしてるんだ。でも、淋しくて泣きたい時もあるからたまにここで泣いていいかな?」

空を見上げてつぶやきながら

大粒の涙をボロボロこぼして

メロンパンを食べ続けてる。


あの娘‥両親を亡くしたのか

お姉さんの前で泣かないですむように

ここで泣いてるとか

健気過ぎるやろ?

しかも、食べてるのうちのパンやん!

俺が1番納得いかない菓子パンの代表のメロンパン!

しかも‥チョコチップメロンパン!

それってもうメロンパンって名前にする意味あるのか?って毎朝思いながらも人気商品だから作ってるヤツだ。

◇◇◇◇◇◇

「わぁ。どうしよ?泣いてるうちに時間たってる!お姉ちゃん探しに来ないうちに帰らないと‥でも、泣いたのバレちゃうよ‥」

メロンパンを食べ終わり泣きやんだ女の子は悩んでるみたいだったが

「お腹空いたから公園でチョコチップメロンパン食べてたら美味しすぎて泣いちゃったからお姉ちゃんも食べてみて!これでいこう!あっ‥チョコチップメロンパン最後の1個だったんだ。どうしよ?」


女の子はまた悩み出した。

早く家に帰らなくて大丈夫か?と思いながらも見守ってる俺。

あっ。俺メロンパン持ってた!

どうしてみんなメロンパンがそんなに好きなのか

食べて考えようと思ってメロンパンと俺のいちおしのパンを買ってきてたんだ。

あの娘にあげよう!

俺はベンチから立ち上がって帰ろうとしている女の子を追いかけた。

「ねぇ。このパン俺のかわりにたべてくれないかな?ちょっとパン買いすぎて食べられないんだけど。ダメかな?


ちょっと強引かな?と思いながらも話しかけてみたんだ。

そしたら、あの娘はパァーッと花が咲いたみたいに笑って
 
「いいんですか?このチョコチップメロンパンいつも争奪戦なんですよ?お店の人に聞いたら、新しいパン職人さんが腕のいい新人さんで前よりパンが美味しくなったからめちゃめちゃ売れてる!って教えてもらいました。材料は変わってないのに、作る人で全然違うって。それ聞いたら前よりこのパンが大好きになったんです。本当にもらってもいいんですか?」

「うん。俺はもう食べたからいいんだ。パンは焼き立てが1番だから。もらってくれたらパンも喜ぶよ?」

「お兄さん!このパンね。次の日もめっちゃ美味しいんだよ?2個買えた日は、1個を残しておいて中に生クリーム入れて冷凍にするの。そしたらめちゃめちゃ美味しいチョコチップ生クリームメロンパンアイスになって最高なんだから!今年の夏はそれが楽しみで早起きしてるんだ。」

「そんなに愛してもらえてパンも喜んでるね。」

「そうかな?あっ。ヤバい!お姉ちゃんに怒られるから帰らないと‥お兄さん有り難う。」

女の子は俺に頭を下げてお礼を言った後、走って帰っていった。

◇◇◇◇

自分が嫌々作ってたパンが知らない人に喜びを与えてたと思うと嬉しい反面、申し訳ない気持ちになった。  

あの娘を笑顔にするような美味しいパンを作ろうって思ったんだ。

あの娘が沢山パンを食べても太らないような美味しいパンを作ってあげたいなぁって。

だってチョコチップメロンパンに生クリームって絶対に太るに決まってるから!

◇◇◇◇◇

恥ずかしいからほたるさんにはこの話は内緒にしといてね。

俺はこの日から世界一のメロンパンを作ろうって決めたんだ。

ひとめ惚れした女の子が好きなパンだから。

◇◇◇◇

作者の気まぐれで時々、俺目線の話がはさみこまれる予定です。

次はいつかわからないけど‥








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