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たびはふたたびの章
第33話 青年は再びドラゴンに挑む
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「ビルヒー、神の祝福を。ソフィア、受けようなんて考えるな! アシュレイ、魔法効果の見極めを。ヴァネッサは……」
「いつも通りさね」
今回のドラゴンは環境要因もあるのだろうが地に足をつけて戦うようだ。
それでも財宝の山上に鎮座ましましているドラゴンに下から挑む事になる。
しかも、前回のドラゴンより倍以上大きい。
(確かこの世界ではドラゴンをスモール・ラージ・ヒュージでカテゴライズするんだったな。喋るドラゴンは伝説級と。うへぇ、五人で戦う相手じゃないよ)
そうはいっても戦わないわけにいかないじゃないか。
ビルヒーの神への祈りは聞き届けられ、冒険者は全身に力がみなぎってくる。
神様によるドーピングだ。
神経は研ぎ澄まされ、思考に運動機能が完全に連動してくれる。
魔法はより効率的に発動し威力は上がり、武器による攻撃力も普段より増大する。
さらにありがたいのは肉体的精神的に耐性強化されダメージが軽減し、運も味方してくれる。
まさに至れり尽くせりだ。
もっとも、全能・万能になるわけじゃない。
あくまで基本性能に少し上乗せされるだけ。
祝福されたからといって無敵になるわけじゃあない。
「レイト」
攻撃に出ようとしたレイトを呼び止めるビルヒーが彼の武器である槍に手を添える。
すると、槍が僅かに光を放つ。
それはまるでヴァネッサの大剣やソフィアの剣のようだ。
「これは?」
「魔力の付与です。一時的にではありますが、魔法の槍として機能します」
「ありがたい」
「ご武運を」
「ビルヒーも気をつけて」
「待った」
前線に走り込むレイトにアシュレイが声をかける。
立ち止まったレイトに加速の魔法をかけてくれた。
「半端な魔法じゃ効果が判らなかったよ。でかいのかますからって二人に伝えて」
効かない魔法で魔力を消耗したくなかったのだろう、試しに放った数種の魔法は威力が小さすぎて効果が判らなかったらしい。
「俺も試してみるよ。一人ずつ戻すから二人にもこの魔法かけてくれ」
「判ったわ」
ドラゴンに接敵するとまずはソフィアに声をかける。
ソフィアがアシュレイのところに戻るとヴァネッサが
「そんな便利な魔法があるんなら最初からかけといてもらいたかったね」
と、軽口を言う。
「不意を打たれたし仕方ないだろ」
レイトも軽口で返しながら至近距離でファイヤーボールを放つ。
しかし、ドラゴンの鱗が持つ高い魔法耐性なのか耐火性能なのか、動物の焦げた臭いがかすかに漂うだけだった。
「硬いねぇ」
「感心している場合じゃないだろ」
「どけっ!」
そんな二人に後ろからソフィアの声がかかる。
「地裂斬!!」
大地を斬り裂くパーク家の剣技が放たれる。
その威力は確かにドラゴンの体を斬りつけたが、パフォーマンスを下げるほどのダメージとしては通らないようだ。
前線に復帰したソフィアの代わりにヴァネッサが後方に戻る。
「ソフィアは奥義が使えるのか?」
「え?」
「クリスがドラゴンと戦った時に使った真空裂破斬とか言う技」
「……教わった」
「じゃあ……」
「だが、一度として成功したことはない」
ソフィアの表情が曇る。
「そうか」
「しかし、確かにあれが決まれば大きなダメージを与えることができるだろう。試す価値はある?」
「あるさね」
速やかに前線に戻ってきたヴァネッサがそういうと、そのままバーサークラッシュを叩き込む。
魔法の効果で目で追えないほどの刺突を繰り出す様はまさに狂戦死の突撃の名の通りだ。
「散れ」
魔法効果で大技の後の硬直時間も短縮されるようだ。
ヴァネッサの声に二人も反射的に散開すると、そこにアシュレイの魔法が二つ飛んできた。
図体のでかいドラゴンに命中させるのは簡単なようだ。
二つ目の魔法はアイスランスで、これはドラゴンの鱗に阻まれた。
「貴様、なにをした!?」
ドラゴンは目を見開いてアシュレイに叫ぶ。
その声は間延びしているように聞こえる。
その問いにはヴァネッサが答える。
「『加速ができるなら減速させられないか?』って、あたしが聞いたら『できる』って言うからやってもらったのさ」
「名付けて『減速の魔法』」
この世界にはそもそも存在していなかった魔法のようだ。
さすがは大賢者バガナスの直弟子で、バガナスが自身の代わりに旅に同行させただけのことはある。
「小癪な」
ドラゴンは低く唸るとブレスの体勢を取る。
「させないよ!」
ヴァネッサが今日二度目のバーサークラッシュを横腹に叩き込むと、レイトもソフィアが切り裂いた傷口にトラッシュサイクロンを突き刺す。
いかに伝説級のドラゴンといえど、痛みを無視できるわけではないようで、顎が上がって吐き出すブレスが明後日の方を向く。
(確か喋る竜種は魔法も詠唱るとか……)
レイトは魔法を使われてはたまらないと、そのガラ空きの喉に向けてブラストカッターを放つ。
アシュレイも同じことを考えていたのだろう、突風刃と交差するように真空刃が喉を切り裂いた。
喉を切り裂かれたドラゴンは空気の漏れる中、怒りに震える声でなお威嚇する。
「私を誰だと思っているっ!」
「知らないねっ」
喉元に潜り込んだレイトが再びトラッシュサイクロンを放つ。
「下郎がっ!」
しかし、喉で魔法の竜巻が炸裂するのと同時に槍が砕かれる。
「くそっ!」
使えなくなった槍を手放し、ドラゴンから距離をとったレイトは予備の剣を腰の鞘から抜き放つ。
「絶対成功させるっ!」
ヴァネッサが前線に復帰してからずっと距離をとっていたソフィアが発動の準備を整え、全身全霊でもって発動させたパーク家の奥義真空裂破斬は、クリスのそれと同等以上の威力でドラゴンに直撃した。
「やるじゃないか! なら私も」
ヴァネッサは一種のゾーンに入ったようで、「今ならなんでもできそうだ」という気になっていた。
実際、ブレッシングにアクセラレーションの魔法で能力が底上げされている状態で到達した超集中状態だ。
アマゾネスとして、通常なら使うことの叶わない体内に存在する魔力が行き場を求めて迸り、大剣を握る手から刀身へと移動していく。
限界まで速度を乗せて疾走したヴァネッサはその勢いのままに大剣を横一閃、真空裂破斬で切り裂いたドラゴンの腹を薙ぎ払う。
魔力がその常軌を逸した剣速によって加熱し刀身が燃え上がる。
「白熱一閃……」
呟いたのはビルヒーだった。
ジュウと焼けるドラゴンの体。
レイトが最大火力のファイヤーボールを放っても鱗の表面しか焼けなかったドラゴンの体を焼き裂く最大級の攻撃力だ。
「とどめだ!」
ここが正念場と見たレイトはマイクロウェーブの魔法で刀身に超振動を与える。
赤熱した剣を振り上げて飛び上がるレイトはドラゴンの頭を兜割りに切り裂く。
ドラゴンは断末魔の声をあげるが、その咆哮は裂かれた喉によって弱々しいものでしかなかった。
くずおれるドラゴンとともに宝の山に落ちてくるレイトの握る柄には刀身がない。
レイト最大の必殺技であるバイブレーションクラッシュは文字通りの必殺威力の代償として刀身が砕けてしまうのだった。
ともあれ、五人の冒険者は伝説級のヒュージドラゴンを相手に完勝することができたのである。
「いつも通りさね」
今回のドラゴンは環境要因もあるのだろうが地に足をつけて戦うようだ。
それでも財宝の山上に鎮座ましましているドラゴンに下から挑む事になる。
しかも、前回のドラゴンより倍以上大きい。
(確かこの世界ではドラゴンをスモール・ラージ・ヒュージでカテゴライズするんだったな。喋るドラゴンは伝説級と。うへぇ、五人で戦う相手じゃないよ)
そうはいっても戦わないわけにいかないじゃないか。
ビルヒーの神への祈りは聞き届けられ、冒険者は全身に力がみなぎってくる。
神様によるドーピングだ。
神経は研ぎ澄まされ、思考に運動機能が完全に連動してくれる。
魔法はより効率的に発動し威力は上がり、武器による攻撃力も普段より増大する。
さらにありがたいのは肉体的精神的に耐性強化されダメージが軽減し、運も味方してくれる。
まさに至れり尽くせりだ。
もっとも、全能・万能になるわけじゃない。
あくまで基本性能に少し上乗せされるだけ。
祝福されたからといって無敵になるわけじゃあない。
「レイト」
攻撃に出ようとしたレイトを呼び止めるビルヒーが彼の武器である槍に手を添える。
すると、槍が僅かに光を放つ。
それはまるでヴァネッサの大剣やソフィアの剣のようだ。
「これは?」
「魔力の付与です。一時的にではありますが、魔法の槍として機能します」
「ありがたい」
「ご武運を」
「ビルヒーも気をつけて」
「待った」
前線に走り込むレイトにアシュレイが声をかける。
立ち止まったレイトに加速の魔法をかけてくれた。
「半端な魔法じゃ効果が判らなかったよ。でかいのかますからって二人に伝えて」
効かない魔法で魔力を消耗したくなかったのだろう、試しに放った数種の魔法は威力が小さすぎて効果が判らなかったらしい。
「俺も試してみるよ。一人ずつ戻すから二人にもこの魔法かけてくれ」
「判ったわ」
ドラゴンに接敵するとまずはソフィアに声をかける。
ソフィアがアシュレイのところに戻るとヴァネッサが
「そんな便利な魔法があるんなら最初からかけといてもらいたかったね」
と、軽口を言う。
「不意を打たれたし仕方ないだろ」
レイトも軽口で返しながら至近距離でファイヤーボールを放つ。
しかし、ドラゴンの鱗が持つ高い魔法耐性なのか耐火性能なのか、動物の焦げた臭いがかすかに漂うだけだった。
「硬いねぇ」
「感心している場合じゃないだろ」
「どけっ!」
そんな二人に後ろからソフィアの声がかかる。
「地裂斬!!」
大地を斬り裂くパーク家の剣技が放たれる。
その威力は確かにドラゴンの体を斬りつけたが、パフォーマンスを下げるほどのダメージとしては通らないようだ。
前線に復帰したソフィアの代わりにヴァネッサが後方に戻る。
「ソフィアは奥義が使えるのか?」
「え?」
「クリスがドラゴンと戦った時に使った真空裂破斬とか言う技」
「……教わった」
「じゃあ……」
「だが、一度として成功したことはない」
ソフィアの表情が曇る。
「そうか」
「しかし、確かにあれが決まれば大きなダメージを与えることができるだろう。試す価値はある?」
「あるさね」
速やかに前線に戻ってきたヴァネッサがそういうと、そのままバーサークラッシュを叩き込む。
魔法の効果で目で追えないほどの刺突を繰り出す様はまさに狂戦死の突撃の名の通りだ。
「散れ」
魔法効果で大技の後の硬直時間も短縮されるようだ。
ヴァネッサの声に二人も反射的に散開すると、そこにアシュレイの魔法が二つ飛んできた。
図体のでかいドラゴンに命中させるのは簡単なようだ。
二つ目の魔法はアイスランスで、これはドラゴンの鱗に阻まれた。
「貴様、なにをした!?」
ドラゴンは目を見開いてアシュレイに叫ぶ。
その声は間延びしているように聞こえる。
その問いにはヴァネッサが答える。
「『加速ができるなら減速させられないか?』って、あたしが聞いたら『できる』って言うからやってもらったのさ」
「名付けて『減速の魔法』」
この世界にはそもそも存在していなかった魔法のようだ。
さすがは大賢者バガナスの直弟子で、バガナスが自身の代わりに旅に同行させただけのことはある。
「小癪な」
ドラゴンは低く唸るとブレスの体勢を取る。
「させないよ!」
ヴァネッサが今日二度目のバーサークラッシュを横腹に叩き込むと、レイトもソフィアが切り裂いた傷口にトラッシュサイクロンを突き刺す。
いかに伝説級のドラゴンといえど、痛みを無視できるわけではないようで、顎が上がって吐き出すブレスが明後日の方を向く。
(確か喋る竜種は魔法も詠唱るとか……)
レイトは魔法を使われてはたまらないと、そのガラ空きの喉に向けてブラストカッターを放つ。
アシュレイも同じことを考えていたのだろう、突風刃と交差するように真空刃が喉を切り裂いた。
喉を切り裂かれたドラゴンは空気の漏れる中、怒りに震える声でなお威嚇する。
「私を誰だと思っているっ!」
「知らないねっ」
喉元に潜り込んだレイトが再びトラッシュサイクロンを放つ。
「下郎がっ!」
しかし、喉で魔法の竜巻が炸裂するのと同時に槍が砕かれる。
「くそっ!」
使えなくなった槍を手放し、ドラゴンから距離をとったレイトは予備の剣を腰の鞘から抜き放つ。
「絶対成功させるっ!」
ヴァネッサが前線に復帰してからずっと距離をとっていたソフィアが発動の準備を整え、全身全霊でもって発動させたパーク家の奥義真空裂破斬は、クリスのそれと同等以上の威力でドラゴンに直撃した。
「やるじゃないか! なら私も」
ヴァネッサは一種のゾーンに入ったようで、「今ならなんでもできそうだ」という気になっていた。
実際、ブレッシングにアクセラレーションの魔法で能力が底上げされている状態で到達した超集中状態だ。
アマゾネスとして、通常なら使うことの叶わない体内に存在する魔力が行き場を求めて迸り、大剣を握る手から刀身へと移動していく。
限界まで速度を乗せて疾走したヴァネッサはその勢いのままに大剣を横一閃、真空裂破斬で切り裂いたドラゴンの腹を薙ぎ払う。
魔力がその常軌を逸した剣速によって加熱し刀身が燃え上がる。
「白熱一閃……」
呟いたのはビルヒーだった。
ジュウと焼けるドラゴンの体。
レイトが最大火力のファイヤーボールを放っても鱗の表面しか焼けなかったドラゴンの体を焼き裂く最大級の攻撃力だ。
「とどめだ!」
ここが正念場と見たレイトはマイクロウェーブの魔法で刀身に超振動を与える。
赤熱した剣を振り上げて飛び上がるレイトはドラゴンの頭を兜割りに切り裂く。
ドラゴンは断末魔の声をあげるが、その咆哮は裂かれた喉によって弱々しいものでしかなかった。
くずおれるドラゴンとともに宝の山に落ちてくるレイトの握る柄には刀身がない。
レイト最大の必殺技であるバイブレーションクラッシュは文字通りの必殺威力の代償として刀身が砕けてしまうのだった。
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