ゲーム中にモニターに吸い込まれたら異世界を冒険するハメになった

結城慎二

文字の大きさ
上 下
30 / 41
たびはふたたびの章

第30話 青年は槍に漢のロマンを感じ、軍師ばりの策を弄する

しおりを挟む
 村はずれを開拓していた元冒険者家族と鍛冶屋の親父の証言を受けて、レイトたち冒険者は村を守った英雄として報奨を受け取った。
 大きいとはいえそこは村、多額のお金があるわけもないし、むしろ彼らにとってはお金より旅を続けるための食料などの方がありがたかったので現物支給にしてもらう。

「助かったな」

 ヴァネッサが面倒くさい買い出しもしなくてすんだと馬車の中でホクホク顔だ。

「しかし、困ったな」

 と浮かない顔をしているのはむしろソフィアの方だった。
 本当ならレイトがする表情だぞ。

「この先には王国の国境砦しかないが、そこでレイトの武器が調達できるだろうか?」

「なるようになるだろ」

「ヴァネッサは本当に楽天家だな。羨ましいよ」

「レイトさんは魔法剣士ですし、最悪武器がなくても戦えますし」

 と、慰めにもならないフォローをするのはビルヒー。
 それにアシュレイが反論する。

「白兵戦力が二人というのは心許ないよ。ヴァネッサとビルヒーが別行動したガーゴイル戦で実感したんだから」

「いやいや、鍛冶屋の親父の好意で五本も剣をもらったんだし、大丈夫じゃないかな?」

「国宝級の剣であの始末なんだぞ。この先そんななまくら何本あっても足りない気しかしない」

「逆にあんたは心配性なんだよ、ソフィア」

 しかし、ソフィアの心配は現実になる。
 砦に着くまでにもらった五本の剣をすべて使い潰してしまい、レイトの手には王都を出るときに予備として持ってきた「鋭利な鉄の剣」一本しか残っていなかった。

「そりゃあ、災難だったな」

 砦の隊長はこともなげにいう。

「ここならもっとマシな剣を提供できる。それに、ここから先はゴーレム系はあまり出てこないだろう」

「もっとも、出会うモンスターはゴーレムよりやばい敵ばかりですけどね」

 副官として隊長のそばに侍っている男装の麗人が怖いことを言うので、ビルヒーの背筋にもぞもぞとなにかが這い上がってくる感覚が走る。

「どんなモンスターがいるのか教えてもらえないでしょうか?」

「百聞は一見に如かずです」

「は?」

「領域に放っている斥候が今しがた報告してきた。明日にもここにモンスターが来るとさ。実際戦ってみろ」

(はー、こういう最前線にいる隊長キャラってのはどうしてこう型破りなんだろうね?)

 キャラって……まぁ、確かにありきたりなキャラだけど。

「武器は鍛冶場に行って好きなやつを選んでいいぞ」

 と言われたので、レイトはソフィアとヴァネッサと連れ立って鍛冶場に足を運ぶ。
 蒸し蒸しとする熱気の中、何人もの鍛冶師が槌を振るっていた。
 壁には打ち上がったばかりの武器がなかなか無造作に並んでいる。
 鍛冶場の奥には斧や槍などに仕上げる工房が併設しているようだ。

「こんなに武器にバリエーション作ってどうすんだろ?」

 素朴なレイトの疑問に斧柄を取り付けていた男が耳ざとく答えてくれた。

「そりゃあお前、それぞれ得意な得物ってのがあるだろう。お前さんだって剣が得意なんじゃねぇのか?」

 たしかに「得意な武器は?」と聞かれれば、使い慣れた剣だと答えるだろう。
 けど、日本でオタクをやっていたレイトとしては、大規模戦闘は槍で統一した方が有利なのを知っている。
 地球では、世の東西を問わず銃による近代戦以前の主力兵装は弓と槍と相場が決まっていた。
 ファンタジーものではなぜかみんな剣で戦ってるけどね。
 てなわけで、レイトは文献知識による槍の有用性を信じて自分の身長の二割り増しほどの長さにしてもらった槍を使うことにした。
 新しく手に入れたものは使いたくなるのが人情ってもんだ。
 レイトは訓練場に移動してソフィア相手に槍を試してみることにする。
 不慣れな武器ながらその倍以上のリーチで互角以上に戦うことができたことに満足して、隊長のところに戻ってくると、

「どうした? 騎士にあるまじき表情だぞ?」

 と、隊長にからかわれるソフィアであった。

「人のことは言えないでしょう」

 と返された隊長は眉間の皺を深くしてガシガシと頭をかく。
 フケ、飛んでますけど?
 風呂、入ってますか?

「斥候からの報告がな、かんばしくないんだ」

「どう言うことですか?」

「いつもより数が多くて種類も多い」

 副官の補足によると、いつもならゴブリンやオークが百から百五十体で襲ってくるらしい。
 砦の兵士は常時二百人は戦場に出られる程度には詰めているし、ゴブリンやオークなら一対一で遅れを取ることもない。
 たまにオーガやサイクロプスが襲ってくることもあるらしいけれど、そう言う時は二、三十体なので数を頼んで撃退できるのだという。
 ところが、今回はオークだけで百以上、そこにオーガとサイクロプス、それにトロールが合わせて四十体以上いるのだという報告が入った。
 これはもうモンスターの襲撃というよりモンスター軍団の進軍だ。
 冒険者たちは互いの顔を見合わせる。

「なるほど」

 隊長も彼らがこの砦を訪れた理由は最初に聞いている。

「つまり、この砦の向こうは『魔の領域』ではなく『魔王領』になったってことなんだな?」

「こんなに早く魔王がモンスターを掌握できるなんて想定外だけど、遅かれ早かれ魔王軍が攻めてくるだろうってのは判っていたことさ」

(シナリオ的に言ってもね)

 ゲーム思考から離れなさい、レイト。
 でも、そういう風に割り切って考えた方が冷静でいられるかもしれないね。

「副官、今日は見張り以外全兵に休息を命じて明日に備えるよう……おっと、一小隊割いて王都に向かわせてくれ。増援部隊を要請しておこう」

「かしこまりました」

 副官がカツカツとぐんの音を響かせて出て行く。

「君らもできるのならゆっくり休むがいい。明日は頼りにしているぞ」

 なんて言われてぐっすり寝られるやつなんてよっぽど肝の据わった……って、ぐっすり寝たなぁヴァネッサとレイト。
 もっとも、レイトの方はこの世界に来てからの仕様で「寝る」と一瞬にしてすっきり爽やかな朝を迎えてしまうからなんだけど。
 装備を整えて砦の城壁に登ると、そこにはすでに隊長と副官がいた。

「よう! ぐっすり眠れたか?」

「おかげさまで」

 と、答えたのはレイト。

「勇者様はさすがだね」

 そんな軽口を受け流して、彼は砦の外に視線を向ける。
 防衛しやすいように障害物を綺麗に排除した下りの丘陵地帯の先に魔王軍が見える。
 下を見ると日本のお濠より幅も深さも倍はある空壕からぼりが掘られている。

(巨人系モンスターにはこれでも心許ない気はするな)

「作戦は?」

 武者震いなのかさっきからふるふると震えているソフィアが上ずる声で聞く。

「いつもならうってでるんだけどな。正直どうすりゃいいか迷ってる」

 副官が補足するには人間相手と勝手が違うのでいつもなら籠城戦は取らないのだという。

「オークはともかくオーガたちには並の矢じゃ効かねぇんだよ」

 なるほどとレイトも納得する。

「攻撃魔法が使えるやつがもう少しいりゃあな」

 砦の悩みは飛び道具の攻撃力不足の深刻さのようだ。

「なら、先制攻撃は俺らに任せな」

 と、アシュレイの肩を抱き寄せるレイト。
 ナチュラルにセクハラしてるぞ。
 まぁ、嫌がってる感じはないけど。
 二人は十分に敵軍を引きつけてから危険度が高いオーガやサイクロプスなどが比較的集まっているところを狙ってファイヤーボールを放つ。
 ファイヤーボール自体は砦の魔法使いでも使えるが、二人のファイヤーボールは3LVで、威力も範囲も1LVのものより二割り増しだ。
 先制攻撃を喰らって魔王軍は突撃を始めた。
 この辺りは人間より知力の低いモンスターゆえのことだろう。
 レイトのタイミングを合わせた指示の通り、迫り来る魔王軍のなかほどにファイヤーウォールを作り出すアシュレイ。
 この火の壁でモンスター軍団は分断され、砦側は一時的に数的有利な状況になった。
 レイトくん、なかなか策士ですなぁ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【追放29回からの最強宣言!!】ギルドで『便利屋』と呼ばれている私。~嫌われ者同士パーティーを組んだら、なぜか最強無敵になれました~

夕姫
ファンタジー
【私は『最強無敵』のギルド冒険者の超絶美少女だから!】 「エルン。悪いがこれ以上お前とは一緒にいることはできない。今日限りでこのパーティーから抜けてもらう。」 またか…… ギルドに所属しているパーティーからいきなり追放されてしまったエルン=アクセルロッドは、何の優れた能力も持たず、ただ何でもできるという事から、ギルドのランクのブロンズからシルバーへパーティーを昇格させるための【便利屋】と呼ばれ、周りからは無能の底辺扱いの嫌われ者だった。 そして今日も当たり前のようにパーティーを追放される。エルンは今まで29回の追放を受けており次にパーティーを追放されるか、シルバーランクに昇格するまでに依頼の失敗をするとギルドをクビになることに。 ギルドの受付嬢ルナレットからの提案で同じギルドに所属する、パーティーを組めば必ず不幸になると言われている【死神】と呼ばれているギルドで嫌われている男ブレイドとパーティーを組むことになるのだが……。 そしてそんな【便利屋】と呼ばれていた、エルンには本人も知らない、ある意味無敵で最強のスキルがあったのだ! この物語は29回の追放から這い上がり『最強無敵』になった少女の最強の物語である。

処理中です...