上 下
26 / 41
たびはふたたびの章

第26話 青年は新たな旅の仲間と旅に出る

しおりを挟む
「まずはどうするんだ?」

 王城を出て貴族街を北上しながらレイトが訊ねる。

「魔王に囚われた姫君を助けるのですから、魔王の根拠地に行くことになります」

「だろうね」

 重武装の女剣士ソフィアの話に胸当て程度で露出の多いアマゾネス・ヴァネッサが相槌を打つ。

「当然、その道中は王国内とは比較にならないほど危険なものとなりましょう」

 レイトはこれまでの冒険を思い返して「あれよりか」と思ってしまう。

「時間がない中でも十分な準備が必要です」

 話がまどろっこしいのは騎士という職業がなせるわざクリス譲りの性格なのか?

「我々に今一番足りないものは魔法です」

「魔法?」

「はい。ということでまずは大聖堂に向かいます」

 何がということでなのかは置いといて、どうやら三人は大聖堂というところへ向かっているらしい。
 その大聖堂、国教の聖地に建てられた宗教施設で最高司祭が祈りを捧げているらしい。

 だどりついた聖堂はどこが聖堂なのかと疑いたくなるほどこじんまりとした建物だった。
 もちろん神や天使を模したレリーフなど荘厳な意匠は凝らされている。
 決して質素とは言えないがそこに華美さは微塵もなく、この国の宗教のあり方が体現されているようだ。
 ソフィアたちは、応対に出てきた僧侶に来訪意図を告げて聖堂の中に案内される。
 礼拝室に通されると、そこには聖像の前で祈りを捧げている女性が一人。
 祈りが終わるのを待っていた三人に振り向いたのは歳の頃で三十前後、肉付きの良いふっくら美人だった。

「最高司祭様」

 と、ソフィアが腰をかがめて礼の姿勢を取るので二人も見様見真似で礼をする。

「旅に出るのですね?」

 開口一番のそれは、正直レイトの度肝を抜いた。

「やはりご存知でしたか」

「ご存知って?」

 そりゃあ、問いただしたくなるってもんだ。

「伊達に最高司祭はしておりません」

 と、穏やかに応える最高司祭アデルグンティス。

十五歳じゅうごで神の娘を懐胎してからは、人々に危機が訪れるたびに神からの啓示を授かっているのです」

「では、此度のことも」

「ええ、ことは王国のみならず人類全体の問題です。わたくしにはこの国と民を守る責務があります」

「では、一緒に行ってはいただけないのですか?」

「残念ながら……」

 その返答でがっくりと肩を落とすソフィアにアデルグンティスは慈母の微笑みで語りかける。

「ご安心なさい。わたくしはいけませんが、娘がお供いたしましょう。当年とって十四歳じゅうしとまだ年若い娘ですが、この人類の試練のために神が使わした聖女です。きっとあなたたちの力になることでしょう」

「ありがとうございます」

 礼拝室に案内してくれた僧侶が、最高司祭の意を汲んで連れてきたのは幼い顔立ちの美少女だった。
 本当にこのふっくら美人から生まれてきたのか? と、疑問に思うくらい長い手足の華奢な少女は、目をキラッキラと輝かせて錫杖を両手で胸の前に握りしめている。

「お母様、ついにその日が来たのですね」

 小さな鈴がシャリシャリと鳴るような快活な声はレイトの聖女イメージとはちょっと遠い。

「ビルヒルティス。あなたにはこの国の、ひいては人類の存亡がかかっているのです。そのことだけは忘れないでくださいね」

「もちろんです! お母様」

 聖女を仲間に加えた一行は、一路北東に進路をとる。

「まだ仲間を募るのか?」

 馬車の御者席に座るレイトはその先を行く騎馬のソフィアに声をかける。

「当然だ。このパーティはバランスが悪すぎる。お前は魔法も使えるらしいが、基本は剣士だろう?」

「ああ」

「ヴァネッサも剣士、私も騎士だ」

「なるほど、魔法使いが必要ってことだな」

 うん、話が早くていいね、レイト。
 RPG的に考えればそうなるさ。

「アテがあるのか?」

「うむ、これから行くのは大賢者バガナス様のお住まいだ」

「お、いいね。すげー魔法をバシバシ使ってくれそうだ」

「そうだといいんですけどね」

 ビルヒルティスは手持ち無沙汰なのか馬車の中で手遊びしながら割って入ってきた。

「なにか問題でも? あ、すげー偏屈とか?」

 よくある大賢者のキャラだな、それは。

「偏屈なのは事実だが、それより大きな問題があるのだ」

 大賢者バガナスの住む塔を訪うと、埃っぽいローブを着た弟子が「どこまで登らせるんだ?」ってほどの螺旋階段を先導する。

「バガナス様は御歳おんとし一〇四歳。旅に出るのは難しい」

 案内されたその先には枯れ木のような肌色のしわくちゃな老人が、目だけは煌々と輝かせて座っていた。

「弟子との会話は聞いておったぞ」

(盗聴かよ)

 いやいや、そういう言い方は野暮だわ、ここは剣と魔法のファンタジー世界だぞ。

「まったく、わしを誘いにくるのが十年遅いわ!」

(十年!? 五十年の間違いじゃないのか?)

 レイト、それを言っちゃあおしめぇよ。

「頭はまだまだ冴えておる。この塔を出ないですむならどんな魔法でもいくらでも使ってやっても良いが……魔王討伐の旅など足腰立たんわ」

「そりゃ困ったねぇ」

 他人ひとごとみたいな言い方をするヴァネッサにバガナスは息が抜けるような笑い方で答える。

「わしの代わりが務まるものではないが、そこの弟子なら旅につけてやってもよいぞ」

「お、お師匠!?」

「これも修行じゃ、行ってこい。魔王ごときに負けて死んで帰ってきたら承知せんぞ」

 いやはや、すごいスパルタですな。
 ローブをまぶかにかぶっていたお弟子さんは二の句も継げずうなだれるしかない。
 そのまま旅支度に追い立てられて放り出されるように塔からパーティごと締め出されてしまう。
 五人はしばし呆然と塔を見上げるしかない。
 放心状態からようやく醒めたレイトは、パンと柏手を一つ打ってみんなの正気を取り戻す。

「さ、こんなところにいつまでもいるわけにはいかないんだから、出発しよう」

「あ、ああ。そうだな」

 よろよろと騎乗しようとするソフィアを引き止めたのはヴァネッサだ。

「改めて自己紹介といこうじゃないか。お互い名前くらいは知っとかないと。だろ?」

 と、視線を大賢者の弟子に向ける。

「そうだな。俺はレイト。魔法戦士だ」

「私は女騎士ソフィア。ついでに言えば、このレイトは次元の回廊を越えてきた救世主であり、魔王に『光の巫女の守護者』と呼ばれていた男だ」

「あたしはヴァネッサ。神殿遺跡のダンジョンに暮らしていたアマゾネスさ。ダンジョンの中は退屈だったってのもあるんだけどさ、レイトこいつ結構いい男だろ? だから一緒にいるってわけ」

 そういや、最初の出会いからずっとそんなこと言ってたな。
 物言いがあまりにもストレートすぎてレイトはどうとっていいものやらイマイチ計りかねているみたいだけれど。

「私は最高司祭アデルグンティスの娘ビルヒルティス。名前長いんでビルヒーって呼んでね」

「聖女様……なのか?」

「そうだ」

 と答えたのはソフィア。
 そこらへん、やっぱり律儀だな、騎士だけに。

「……わたしはアシュレイ。大賢者バガナスの弟子だ。…………わたしは……」

 長く沈黙した後、意を決してまぶかにかぶったローブを脱いでこういった。

「わたしはハーフエルフだ」

「キレイ」

 最初に漏れた感想がビルヒーからのそれだったことにアシュレイはかなり戸惑ったようだ。
 実際、レイトの感想も同等以上のものだった。
 長く艶やかなシルクのような髪はこんな文明レベルの低めな世界でサラサラと風になびくし、透き通るような白磁のようなきめの細かい肌に切長の目、スッと通った鼻筋とふっくらと柔らかそうなからくれないいろの唇。
 美人揃いのこのパーティーでも群を抜く美形っぷりだ。
 特徴的な先の尖った耳でさえ愛らしい。

「と、とにかく……よろしく」

 なにがとにかくなんだか判らんけれど、レイトの一言で出発することが決まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

【禁術の魔法】騎士団試験から始まるバトルファンタジー

浜風 帆
ファンタジー
辺境の地からやって来たレイ。まだ少し幼なさの残る顔立ちながら、鍛え上げられた体と身のこなしからは剣術を修練して来た者の姿勢が窺えた。要塞都市シエンナにある国境の街道を守る騎士団。そのシエンナ騎士団に入るため、ここ要塞都市シエンナまでやってきたのだが、そこには入団試験があり…… ハイファンタジー X バトルアクション X 恋愛 X ヒューマンドラマ 第5章完結です。 是非、おすすめ登録を。 応援いただけると嬉しいです。

蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-

星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
 旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』  高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。 * 挿絵も作者本人が描いております。 * 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。 * 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。  この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

Magic Loaders

hoge1e3
ファンタジー
 Magic Loaders……それは、魔法を「呪胎」させることができる選ばれた者たち。彼らが恐れた「魔法」と、その裏に隠された恐るべき計画を巡って、望まなくして最強になってしまったヒロインが活躍する、ミステリー要素ありのファンタジー。 ……を、主人公はメタ発言で頑張って茶化します。 こんなんだけど恋愛要素あり。

PCエンジンのセーブデータを改造して遊ぼう

おっぱいもみもみ怪人
大衆娯楽
PCエンジンのセーブデータを実機で改造する方法を紹介します。 おまけでターボパッドの連射を改造して30連射にするを追加しました。 PCエンジンミニ専用の裏技一覧を追加しました。

処理中です...