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54時には出る杭になることも必要です
しおりを挟む「今の発言はどなたがおっしゃったのかしら。知識も経験もないとの事ですが、女性男性にかかわらず、どの公爵代理もはじめはゼロからスタートするのではありませんこと?」
私は王に背を見せぬよう、顔だけ後ろに向け、その発言者の顔を確認した。
「ジェシカ嬢、目上の者にそのような言い方をするなど、公爵令嬢としていかがなものかね?」
「さよう、男性に物申すなど、きちんとした貴族の令嬢教育を受けていないとしか思えぬ」
「だいたい、女性は運営知識もない上に、いざという時に戦えぬか弱き存在であろう。令嬢は、敵の襲撃にあった時に、どうやって防ぐつもりかね。公爵代理という事は、城の防衛の指揮官になるという事だよ」
他の人々より一歩前にでていた三人の恰幅の良いおじさまやおじいさま達が、いかにも不愉快そうに口を歪めながら私を攻撃してくる。ロイヤルファミリーの皆様の顔をみると、平静を装いながらも面白がっている表情が見て取れた。
国王にはあらかじめ根回しをしてある。アーシアをしっかり休ませたいので、しばらくの間自分がかわりに公爵代理として務めたいこと。しかし、期間限定であり自分には跡継ぎになりたいという野心は全くない事、父公爵と兄と3人で何度も話し合った末の事で、二人からは書面で承認を得ている事等、詳細を伝えた。きっと国王から、ファミリーの方々にも伝わっていると思われる。
ちなみに両親は諦めからか能面のような無表情で、見ざる聞かざる言わざる態度を貫き、隣にいるオールノット公爵は3人の男性を気の毒そうな目で見ている。
私は再度、国王に申し上げた。
「国王マクシミリヨン様、国王様のお言葉に逆らう不届き者をあきらかにしてもよろしいでしょうか? また、私の能力に不安を抱える方々がいらっしゃるようです。少しでもその憂いを払拭致したく、厚かましいお願いでございますが、この場で私の剣の腕をお目にかけたく存じますが許可をいただけますか?」
「許す。王に逆らう不届き者はあきらかにして罰せねばならぬ」
「かしこまりました。私が公爵代理となることを国王様がお許し下さったのに、それに異を唱えるなど、それこそ礼儀をご存じないとしか思えませぬ。そうお思いになりませんこと?」
私は、三人のオヤジ殿の顔を見ながらそう言い放つ。
「なっ、何を……!」
「国王様に異を唱えるなど、そのようなつもりはございません……!」
「ジェシカ嬢、いい加減な事を申すな」
不届き者呼ばわりされた三人組は焦って、我先にと言い訳をする。いつの間にか、周囲からの野次は止み、静かになっていた。
「何がいい加減だ! 国王様が私が公爵代理になることを許可されているのに、それを認めないという事は、反逆の意思を持つ事と同じであろうが! それとも、あくまでもご自身の非を認めぬおつもりか?」
突然、お嬢様の仮面を外し、剣士然として男性のように低く野太い声で話す私に、皆あ然とした。驚きのまり、誰も言葉を発せないようだ。
「ライガ、非常用の木刀を用意しろ」
「はっ、かしこまりました」
立ち上がったライガは、さっと上着の内側から数本の短い木片を取り出し、瞬時にそれらを組み立てた。簡易の木刀が2本出来上がった。
「これは携帯用の組み立て式の木刀です。さすがにこの場に、真剣を持ち出すのは不敬ですから、この木刀を使って軽く打ち合いたい。騎士の方々、恐縮だがこの2本の木刀におかしな点がないか、確認していただきたいが、よろしいか?」
私の言葉を受け、ライガが一番近い位置にいた騎士に木刀を渡す。騎士達がかわるがわる木刀の重さや感触を確認し、何度が素振りをしてから、国王に向かい報告する。
「木刀に間違いございません。なんら問題はないと存じます」
「念の為、私も確認しておこう」
フランツ王子が立ち上がった。騎士から木刀を受け取り、大きく振る。
「小ぶりで、軽いね。柄の部分と剣の部分が3つ、合計4つの木片を組み合わせて、なかなか上手くできているな」
「フランツ様、ありがとうございます。この木刀は非常事用の防御の為につくりました。なかなか使い勝手も良く、バラして持ち運べるので便利です」
「だが、簡易の武器とはいえ、木であるから打たれると痛そうだ」
フランツは笑いながら木刀をライガに返した。
「それで、誰と練習試合をするのだ?」
「どなたか、この木刀で私と打ち合っていただける方がいらっしゃれば……」
「私がお相手いたそう」
フランツ王子への私の返答を待たずして、大きな声が響いた。三人組のオヤジの一人で、一番若そうなおっさんだ。
「ザルツブル子爵である。前国王様の直属騎士として、ヨーロピアン国に仕えてきた。ジェシカ嬢、それほどいうなら、ぜひ手合わせ願おう」
「ザルツブル子爵様。ご協力、感謝する。騎士殿、どなたか審判を頼む」
大広間の中央部からザっと人々が後退し、打ち合いができる程の適度なスペースができた。先程、木刀をチェックした騎士が審判役として近くにやってきた。ライガがザルツブル子爵に片方の木刀を手渡す。
私は、ドレスのウエスト部分の紐を解き、巻きスカートになっていたボトム部分を勢いよく剥がした。
ーーヒイッ!!……という声にならない声が、あちこちで聞こえた気もするが、気にせずライガにスカート部分を渡し、かわりに木刀を受け取る。まあこんなこともあろうかと、スカートの下には、ナルニエント公国の家紋入り剣士用パンツとブーツを着用してきた。備えあれば患いなし、だ。
私とザルツブル子爵の間にいた騎士が離れる。試合の始まりの合図だ。
大広間にいる全ての人々の視線が集まっているのを感じる。
「ジェシカ嬢、手加減はするが、早めに降参した方が身のためだぞ」
「ザルツブル子爵、私もなるべく手加減するが、ケガをされぬように」
(この場にいる全員の、私とナルニエント公国に異議をとなえる気持ちを、排除するわ。私の実力を徹底的に知らしめる為には、圧倒的な勝ち方をしなくてはね!)
しばらく睨み合った後、ザルツブルグ子爵が勢いよく剣を振りかぶると同時に、私も前へと足を踏み出した。
次の瞬間、呻きながら子爵が膝をつき、続けてカラカランという、木刀が床に落ちた音が大広間に響いた。
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