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創造4〈創造教育の時間ー敗戦ー〉
しおりを挟む二限目、創造教育の時間。
開始の火蓋が切って落とされた創造試合、前半戦8ペアの試合。
「炎弾! 炎弾! 炎弾!」
「ぐ……っ! い、岩壁!」
セオ=インデルVsアメリ=ユーテリアン。
炎の弾を作り、一定の距離を保ちながら攻撃するセオと、作り出した岩壁で炎弾を弾きながら攻撃の隙を伺うアメリ。
「岩壁! からの、水刃!」
「ならこっちも、水刃! からの~、かかと落とし!」
「て、ちょ、ま! ぐほぉ……っ」
ゼゼ=ヤーデンVsイバン=ケリオスハイト。
岩壁を作り、水の刃を飛ばすゼゼ。が、イバンが同じ技でそれを相殺。岩壁を軽々飛び越えたイバンが、ゼゼの頭部にかかと落としを見舞い、あっさり決着。
「行くぜぇ! 雷獣!」
「……え? これは雷獣と言うより、子猫ですわね……」
「う、うっさい! これからカッコよくなるんだい!」
ザック=クレバードVsリーリエ=アジェントナーデ。
開幕初端、剣と盾を作ったリーリエと、意気揚々と雷獣、基、子猫を作り出したザック。
「連続的な攻撃で相手の動きを止める……。これ、いいかも」
「流石、イバンだな。身体能力が高すぎて、何の参考にもならねぇけど……」
「雷獣、かわいい」
と、前半戦の8ペアが体育館のあちこちで戦闘を繰り広げている中、残った後半戦の8ペアは体育館の端で見学である。
が、その中にただ見学している者は少ない。自分はどう戦うべきか、前半戦から盗めるスキルはないか、皆が戦術や分析に頭を回している。
登太もまた、クラフトが出来ない最低ランクなりにどう戦うべきか、目の前の試合を見ながらザンゼに勝つ方法を模索している。と、当初の予定ではそのつもりだった。
目の前の試合を見て、登他は思わず——。
「昨日のが凄かったんだな……」
場違いにも、心身ともにリラックスしてしまっていた。
目の前の創造試合と、昨日の先輩方の《創造決戦》。比べてしまって、登太の肩から力が抜けてしまったのだ。
「あまりにもレベルが違う、そう思ってんだろ?」
「うん。正直に言えば……」
「まぁ、無理もねぇよ。誰でも参加できるが、《創造決戦》に出て来んのは腕に自信のある奴が殆どだ。それに昨日のは本当に、マジで別格、いや、惜しかった……っ」
「ははは……」
最終決戦にて、セシルス=クルラシオがアテナ=エーデルワイトに敗北した一幕でも思い出したのか、レグロの怖い顔が苦虫を噛み潰した様な顔になる。
その信仰の程は、セシルス=クルラシオ信仰会、会員番号8番と流石な物である。
「それに、相手は先輩。レベルが違うのは当たり前だ」
「まぁ、そうだよね……。一年、二年も違えば差があるのは当然だよね」
「——。何に引っかかってんのか何となく想像つくが、これから分かる事だから安心しろ。——それより、あそこの試合はちゃんと見とけ」
「あそこって……。あ、あの子……」
レグロが顎をしゃくった先、そこで登太は身に覚えのあるポニーテイルを見た。
前半戦8ペア目、出席番号21番。本来、登太が当たる筈だった相手で、さっきハインケル先生に怒鳴られていた女子生徒。
確か、名前は——。
「ヘラン=リア。入試テストの次席にして、今年唯一のAランクだ」
「あの子が……。え、でも、何かめっちゃキョどってない?」
「あ、あぁ……。あいつ、重度のアガリ症なんだ……」
「………」
頭を抱えたレグロの言葉に、登太の急上昇したテンションメータが一瞬にしてマイナスの域に達する。
直前のかっこいい紹介は何だったのか。台無しである。
「いや、でもあいつ、やる時はやるって言うか、本当は出来る子なんだ!」
「おかんか。あ、でも、負けたよ?」
「へらぁぁぁあああああん!」
顔上げ、必死に手をワキワキさせながらヘランをフォローするレグロ。
が、そんなフォローは虚しく、あっさりとヘランはやられた。岩弾、頭に直撃だった。
地面に倒れたヘランを見て、真っ先に見学席から飛び出して行くレグロ。その慌て振りから、レグロにとってヘランがどれほど大切な相手か分かる。
彼女の事を話す時の声音、会話から感じられる熱量は、憧れの先輩であるセシルスについて話す時と同等、いや、それ以上の熱を帯びていた気がする。
幼馴染、片思い、もしくは既に恋人か。
「これは、後で問い質す必要がありそうですねぇ」
恋愛センサー反応。特に意味などないが、登太は眼鏡を指先で持ち上げて不気味に笑う。
同時、パンっと破裂音がした。
見れば、真剣な面立ちで何やら手帳に書き込んでいたハインケル先生がその表紙を閉じた姿が。
どうやら、ヘランの試合が前半戦の最後の試合だったらしい。
「よし、今ので最後だな。次、後半の奴ら前に出ろ」
そして、いよいよ——。
後半戦。登太の出番である。
対戦相手の名は、ザンゼ=ジオルグ。新入生の中でも指折りの能力値、Cランクの強者だ。
相対するは、イズミ=トータ。クラフトの出来ない最弱のFランクだ。
相手との力量差はランク三つ分。否、それ以上。クラフトが出来ないのだから、その差は単純な物じゃない。
百回戦って百回負ける、そんなレベル。
分かりやすく言うなら、無能な一般人Vs超能力者、それぐらいの差があるだろう。
だけど——。
「上等」
だからこそ、立ち上がり、背筋を伸ばし、恐怖は拳の中で握り潰して、登太は一歩前に出た。
最弱が、強者の前に立って見せる。
「イズミ=トータ、惨敗する準備は出来たかぁ?」
「勝つ準備ならして来たよ、ザンゼ=ジオルグ」
向かい合い、爽やかな笑みと不敵な笑みが衝突する。
そして、ついに——。
「試合、始め!」
「——銀の矢、アポロンッ!」
開始の合図。聞こえて、眼前、ザンゼが弓を引いた。
思考も追いつかないまま、登太の体は何かに、放たれた矢に引っ張られる。
世界が回転する。目まぐるしく、凄まじい速さで、回転し、回転し、回転し——。
気づいた時には、登太の体は凄まじい衝撃に撃ち抜かれていた。
「かは——ッ!!」
全身の骨が軋む音と、その中身が破裂する音。
聞こえて、痛みもなく、地面に体が落ちる。
「…………あ……い………あ…………」
声が出ない。
体が動かない。腕一本、指先一つ、動かない。
「———! ——っ。————!」
誰かが、何かを叫んでいる。聞こえない。
「……………」
低くなった視界の中、何かが落ちている。
眼鏡。割れた眼鏡が落ちている。
そんな奥で——誰かが、にやりと笑うのが見えて——。
次の瞬間、登太の意識は闇の彼方へと落ちて行った。
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