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第一章  高校入学

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「えっと、二島千陽と言います。親の転勤の都合で海外を転々としてましたが、元々は隣の市で幼稚園まで過ごしていました。高校入学を機会に帰ってきたので、よろしくお願いします」

千陽は満面の輝かしい笑顔を見せ自己紹介をした。

その笑顔でクラスの女子達が『一目惚れ』と言う脳内錯覚を起こしている目をしていた。

イケメンが羨ましいよ。自己紹介だけで惚れられるんだから。

きっと千陽のこれから始まる青春ラブコメ物語は晴れやかで、俺はその物語の引き立て役なんだろうな。

勝手に大好きなライトノベルに置き換えて考えていると、自己紹介が俺の番となり、特になにもないので、

「袋田龍輝です。ライトノベルが好きなオタクです。人見知りです」

そう俺は自己紹介をすると、

「自虐的自己紹介面白かったよ」

千陽が笑いやがった。

うちの高校はジェンダフリー、差別撤廃の風潮に乗かったらしく、また何かと『ブラック校則』としてSNSで炎上するのを避けたいとかで、数年前、生徒会アンケートで校則が一新された緩い学校。

しかし、その為人気は高く、倍率があがり偏差値が急上昇した進学校。

制服は、ブレザーだけが学校指定で、ズボンやシャツなど特に決まりがなかった。

ほぼ私服登校、自主性を重んじる校則。

男は大半は黒か紺色のズボンを穿き、白かちょっと水色っぽいYシャツを着て、女は大概どこかのブランドのなんちゃって女子高生のスカートで無難に決めていた。

俺もその一人で、黒のジーンズに白のYシャツだ。

入学式に突飛な服装を選ぶほど勇気も無謀さもないが、この飾りっ気のないズボンは嫌いだ。

千陽は細く引き締まった足を強調するかのごとく、黒く足にぴったりするズボンを穿いている。

ブレザーの中から見える薄ピンクのYシャツが似合っている。

イケメンだからこそ、ピンクが似合うんだよ。

俺なんか来たらたちまち、豚扱いされる。

他の生徒の自己紹介も気にせず、隣の席になった千陽に、

「帰ってたんだ」

小さく声を掛けると、

「帰ってきたのはつい先週、昨日まではお祖父ちゃん家だったけど、電気水道とか復活の手続き済んだから今日からリュウちゃんの隣の家に引っ越すから後で手伝ってね」

「うっ、うん、そうか、まぁ~昔のよしみだ手伝ってやるって、って言うか帰ってきてたなら連絡よこせよ」

「高校で会えると思っていたから」

「ん?」

話を続けようとするとクラス全員の自己紹介が終わり、担任の話が始まったので話をやめて前を見た。

どうもぎこちなく返事をすると千陽ニコニコと俺の顔を見ていた。

勘違いされるだろな、クラスの女子達は先生より千陽を見ている。

俺はBLの趣味はない。

そう口に出して否定したかったが、今、千陽に女子達の熱い視線が向けられている中で、そんな言葉を聞かれ誤解されると厄介、高校生活しょっぱなで思惑と違うレッテルが貼られるのは勘弁して欲しく、黙って前を見、時が過ぎるのを待った。

俺は人畜無害なオタク、そんなレッテルを貼られて無難に高校生活を送るつもりでいる。

チラチラと千陽が俺を見てくる視線には気がついていたが。

担任教師本人の自己紹介やら校則の重要点、学校生活の注意点など一通りの説明が担任教師がすると午前で解散となり、席を立つと、千陽は女子生徒にLINE交換しようと囲まれていた。

まっ良いか、先に帰って飯食ってから手伝いに行けば。

隣の家は玄関から1分もかからない。

流石に屋根伝いに幼なじみが突如、こっそり部屋に来るほどくっついていない物の、塀を越えれば千陽の家の庭。
まぁちゃんと門から入るけど。

その為、すぐに行けるので気にせず校舎を出ると、

「冷たいなぁ~置いて帰るなんて」

昇降口を出たところで駆け寄ってくる千陽は、俺の腕掴んだ。

「いや、一緒に帰る約束してなかっただろ?」

捕まれた腕を振りほどいて言うと、

「そりゃ~してなくても、帰る方向一緒なんだし、久々に日本に帰ってきた親友だよ?迷子とか心配するのがリュウちゃんじゃん。昔はよく俺が姿見えなくなると大声で呼んでくれたじゃん」

「そんなことしたっけ?昔は俺について回るような子だったのは覚えてる。それに泣き虫で、俺よりちっさくて」

「なんだ、ちゃんと覚えてるんじゃん」

ニンマリと女殺しビームが出そうな満点の笑顔、白い歯が綺麗ですね。

きっとCMすぐ来ますよって褒めたかったが、やめておいた。

なんかイケメンをこれ以上褒めるのが悔しくて。

自己嫌悪になりそう。

男から『イケメン』と言われ続けるのも嫌なはず。

距離感が完全に掴みきれていない状態で言い続けるには、冗談で済まなくなる可能性もある。

千陽を怒らせてしまう可能性だって考えないと。

せっかく空席だった隣に座ろうとしてくれている親友を怒らせるほど空気が読めないわけではない。

学校から徒歩5分の駅からの常磐線を使って磯原と言う駅で降りる。

15分もかからない駅。

野口雨情のシャボン玉とんだと言う発車メロディーが特徴の駅だ。

もう一つ北の駅、大津港駅は米米CLUBの石井さんの出身地なのに発車ベルに使われていないのが残念に感じる。
自転車置き場に歩いて行くと千陽も自転車の鍵を取り出した。

「なんだ、千陽も自転車で来てたのか?」

「流石に自転車ないとねぇ」

細い椅子が高い位置にあるフレームが細いツールドフランスにでも出るかのようなスポーツ系の細いタイヤの自転車に乗る千陽。なにもかもが細い、だが、似合ってるよ。

俺は正反対に太いタイヤのマウンテンバイクにまたがった。

横に並んで走るのは迷惑行為、交通ルール違反なので一列に並んで黙々とこいで10分の家に帰ると隣の家では、千陽のお祖父さんが掃き出し窓を開けて、

「千陽ちゃんお帰り、おっ、リュウちゃんもお帰り、また、うちの孫をよろしく頼むよ。おらもよ、ここに住めれば良いんだけんどね。田んぼに畑あっからよ~うちからだと駅は遠いしなぁ」

農作業だろう日に焼けた千陽のお祖父さんが言うので、

「はい、昔の友としていろいろ手伝いますから大丈夫ですよ」

「今も親友だろ」

千陽は後ろから抱きついて言う。

華奢なんだな。昔と変わらない距離感が妙に懐かしい。

昔っからベタベタと妙にくっついてくる千陽だったが、それが好きだった。

懐かしいな、この感覚。

しかし、坂こいできたのに良い匂いしやがるぜ、このイケメン。

春の日差しは意外に強く、少し暑さを感じたのに、甘い桃を思わせる匂いは、春の終わりをどことなく感じさせる匂いだ。

思えば、この時から可笑しいことに気がつくべきだったのかもしれない。

千陽の違和感に。

手や体臭、抱かれたときの感触、そして思春期の男同士では近すぎる距離感が嫌悪感を感じなかった違和感。

「飯食べたら、くっから」

深く考える前にまずは引っ越しの手伝いをしないと。

「うん、リュウちゃん、よろしくね」
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