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第34話 三者択一
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那珂湊教授は一度、東京都内の山奥にある、森に隠されたかのようなログハウスに連れて行くように宇都宮秀男に頼んだ。
そのログハウスは登記簿上は別人の名になっていたが、那珂湊教授の持ち物だった。
舗装されていない砂利道を走る、うっそうと茂る木々に隠されたログハウス。
中に入るとログハウスには似つかわしくない、小さな研究室がある。
ビーカーやフラスコなど研究に使いそうな器具は一通りあったが、パソコンはなかった。
「こんな研究室があったなんて」
宇都宮秀男は自分たちの捜査能力の無能さを感じていた。
那珂湊教授は床に絨緞で隠されていた地下へと続く扉を開けると、その奥は巨大な冷蔵庫となっていた。
そこに10本の小さな瓶に入った薬が置いてあった。
「那珂湊教授、これは?」
「対病原菌遺伝子改造治療薬ゲキメツダーと、万能遺伝子改造治療薬ゴクラクジョウドの二つだ。調べてみるかい?君たちの技術だと5・6年はかかるだろうが」
「・・・・・・それをどうしようと?」
「宇都宮君、君はそれで不便ではないのかい?感染の危険性を持ったまま働き続けられるのかい?決断をするべきじゃないか?」
那珂湊教授は棚から注射器を取り出しながら言う。
「那珂湊教授、私はあなたの技術を『悪魔』と呼んで否定してきた。それなのに、私に使えというのですか?」
「あぁ、君には助手として働いて貰わないと困るからね」
宇都宮秀男はそこにある小瓶を全て破壊したいくらいの衝動をひたすら抑えていた。
今、人類を助けられる技術は他にはないとわかっていながらも。
しかし、その薬で人々は助かる。
その理性で必死に抑えていた。
「10人分がある、対病原菌の遺伝子を持つ人間になるか?はたまた不老不死の人間になるか?二者択一、いや、感染を怯えるかの三択かな」
「私には『悪魔の囁き』でしかない」
「だろうな。だが、人類を救いたいなら答えは二者から選ばないとならないくらい、君はわかっているはずだ」
「・・・・・・不老不死薬と対病原菌薬の内訳は?」
「五対五、不老不死薬は文字通り不老不死、私と同じになると考えて貰って構わない。対病原菌薬は、小山所長に説明したように全ての病原菌に対しての抵抗力が付くだけ。不老不死になるわけではない。どちらを選ぶ?」
宇都宮秀男は正義感が強い男だった。
今までの常識と言う概念からに作られた正義感だったが、国民のために働かねばならないという正義感はまだ持っていた。
それが選択を三者択一から二者択一にしていた。
「那珂湊教授、あなたが死ぬまで私は付き合います」
「そうか、付き合うか、ようこそ新人類へ」
那珂湊教授は一本の注射を取り出すと、宇都宮秀男に打つと気を失い倒れた。
体内で遺伝子書換がされるショックからだった。
そのログハウスは登記簿上は別人の名になっていたが、那珂湊教授の持ち物だった。
舗装されていない砂利道を走る、うっそうと茂る木々に隠されたログハウス。
中に入るとログハウスには似つかわしくない、小さな研究室がある。
ビーカーやフラスコなど研究に使いそうな器具は一通りあったが、パソコンはなかった。
「こんな研究室があったなんて」
宇都宮秀男は自分たちの捜査能力の無能さを感じていた。
那珂湊教授は床に絨緞で隠されていた地下へと続く扉を開けると、その奥は巨大な冷蔵庫となっていた。
そこに10本の小さな瓶に入った薬が置いてあった。
「那珂湊教授、これは?」
「対病原菌遺伝子改造治療薬ゲキメツダーと、万能遺伝子改造治療薬ゴクラクジョウドの二つだ。調べてみるかい?君たちの技術だと5・6年はかかるだろうが」
「・・・・・・それをどうしようと?」
「宇都宮君、君はそれで不便ではないのかい?感染の危険性を持ったまま働き続けられるのかい?決断をするべきじゃないか?」
那珂湊教授は棚から注射器を取り出しながら言う。
「那珂湊教授、私はあなたの技術を『悪魔』と呼んで否定してきた。それなのに、私に使えというのですか?」
「あぁ、君には助手として働いて貰わないと困るからね」
宇都宮秀男はそこにある小瓶を全て破壊したいくらいの衝動をひたすら抑えていた。
今、人類を助けられる技術は他にはないとわかっていながらも。
しかし、その薬で人々は助かる。
その理性で必死に抑えていた。
「10人分がある、対病原菌の遺伝子を持つ人間になるか?はたまた不老不死の人間になるか?二者択一、いや、感染を怯えるかの三択かな」
「私には『悪魔の囁き』でしかない」
「だろうな。だが、人類を救いたいなら答えは二者から選ばないとならないくらい、君はわかっているはずだ」
「・・・・・・不老不死薬と対病原菌薬の内訳は?」
「五対五、不老不死薬は文字通り不老不死、私と同じになると考えて貰って構わない。対病原菌薬は、小山所長に説明したように全ての病原菌に対しての抵抗力が付くだけ。不老不死になるわけではない。どちらを選ぶ?」
宇都宮秀男は正義感が強い男だった。
今までの常識と言う概念からに作られた正義感だったが、国民のために働かねばならないという正義感はまだ持っていた。
それが選択を三者択一から二者択一にしていた。
「那珂湊教授、あなたが死ぬまで私は付き合います」
「そうか、付き合うか、ようこそ新人類へ」
那珂湊教授は一本の注射を取り出すと、宇都宮秀男に打つと気を失い倒れた。
体内で遺伝子書換がされるショックからだった。
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