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第29話 取り調べ7

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202×年4月初旬

その日、宇都宮秀男はガスマスクに防護服、手はゴム手袋をして、那珂湊教授の前に現れた。
机や椅子など、スプレーをしてから座るほど、宇都宮秀男は警戒していた。
潔癖症と言う言葉を逸脱するくらいの行為。

那珂湊教授にとっては滑稽な姿に映っていただろう。

「久しぶりですね。元気ですか?」

その言葉は宇都宮秀男にとっては精一杯の皮肉だ。
もう、誰の目から見ても那珂湊教授は今現在、世界的に流行っている新型強毒性インフルエンザに感染しないと映っていた。

警察官に移り、拘留中の被疑者が移り運ばれていく中、那珂湊教授は平然としていた。

那珂湊教授は大きくため息をしたあと、

「手遅れになる前に私に最新の研究データを見せなさい」

「私は、このウイルスは神が与えた人類への試錬なのではないか?人類は地球を我が物顔で支配し続けたことえの戒めなんじゃないか?って考えているんですよ。耐え忍んだ者だけを残して慎ましく生きろって神が啓示しているんじゃないかってね」

「宇都宮君、神とはなんなのかね?苦しむ者を救済してこそ『神』ではないのかと私は思うんだよ。私は私の子供達のように難病を持った者、罹った者を救済してこそ『神』ではないのかと。だから、私が遺伝子操作技術を成功させたとき、『神』は、この力を与えてくれたと考えたんだよ。君の神は違うのかね?」

「私は・・・・・・私は・・・・・・遺伝子改造は『悪魔』の行いだと思っていますよ。ですが、ですが・・・・・・ここのままでは人類全てが消えてしまう。上から言われましたよ。あなた・・・・・・那珂湊教授の技術は使えないのかと。私は頷くことしか出来ませんでしたよ。否定し続けたのにこの悔しさが、歯がゆさがわかりますか?私自身の今までの考えを理念を全て捨てないとならない私の気持ちがわかりますか?」

「今まで考えてきた、いや、信念として貫いてきた道徳感情が全て壊れたのだね?」

と、言うと、宇都宮秀男はガスマスクのゴーグルに涙を垂らしていた。

「こんなにこんなに死ぬ病が出るなんて思っていなかった」

パソコンが机の上に置かれた。
それを那珂湊教授は開いてみた。

「私はこの遺伝子改造治療の技術を手に入れてしまったとき、宇都宮君、君が味わっている歯がゆさ、もどかしさ、悔しさ、全てを味わっているのだよ。その全ての葛藤の末、私は使うと決めたのだから」

開かれたパソコン画面には、『感染率80パーセント超え、致死率40パーセント、再発率60パーセント』その詳しい科学的データが映し出されていた。

「再発率が高いって事は免疫が作られないか、もしくは変異のスピードが速すぎるという事を意味している。このウイルスは常に進化している。そう思うが」

「はい、ほぼ全ての専門家が同じ意見を出しましたよ、那珂湊教授」

「手の着けようがないというわけか」

死者10億人超えという、とてつもない死者数を出していた。

新聞ではそこまでの数値は出されてはいなかった。

情報操作で隠されていた。

「私は最後まで貴方の力を使いたくはない。今でもそう思っている。ですが、もう限界です。世界の人達を助けるのに手を貸して下さい」

宇都宮秀男は床に手を着け頼んでいた。

「手を上げて下さい。科学者として、そして医者として苦しんで人を助けない理由はありません」

那珂湊教授は宇都宮秀男の手を取っていた。

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