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第10話 異世界でした。

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 顎髭を生やした年を召した小柄な医者は、

「勇者様と二人にしてくれ」

と、言うと看護師は部屋を出て行った。

「あの先生、俺は大腸癌とかなんですか?」

と、俺は聞くと

「勇者様、なにをおっしゃられています?あなた様は、大魔王ケイシツ・エンとの最後の戦いで腹に傷を負ってここに運ばれて来たのです」

「先生まで、その中二病的な設定は必要ないですから」

「すみません、ちょいと失礼致して」

と、手を俺の頭に置くと手が光り出した。

「うわっ、なんだよこの光は」

人体が光るなどと思っていなかったのでこの光に驚くしかなかった。

しかし、光は暖かく心地が良い。

「ふむふむ、ふむふむ、やはりそうでしたか」

と言って手を離す医師。

「なんなんだよ、今のは?」

「勇者様、魔法ですが、わかりませんか?」

「魔法?いい加減にもうやめてくれよ」

「この世界は魔法が存在する世界にございます。勇者様の記憶は魔王の呪いにより消えてしまったようです。どうやら、推測するに、魔王との戦いを始める前の記憶で止まってしまったようです。転生する前の記憶にまで」

「ちょっと、もうふざけていないで、なんなんだよ」

「ふざけてなどおりません。大真面目の話しなのですが、どう説明して良いやら」

そう言うと、その医師は窓のカーテンを開ける。

・・・・・・見えた空には恐竜のような物が飛んでいた。

町の景色はと言えば、戦後の高度成長期のような世界。

東京タワーのような物が木造平屋建ての町中に立ち始めている景色だった。

「なんなんだよ、これは・・・・・・」

「ですから、勇者様の精神が魂がおられた世界とは別の世界なのです。おそらく、勇者様の記憶は大魔王と共に消え、別次元にいた頃の記憶で止まってしまったと私は考えるのです」

眼前に広がる景色を見て否定するには科学的根拠にかけているのは俺のほうだった。

「下血して異世界転生する勇者の物語なんて読んだことねぇ~、あはははははははは」

もう笑うしかなかった。

「いけません、腹に力を入れては、血が出てしまいます」

グリュグリュグリュ

と、お腹が音を立てるのと同時に俺の尻は温かい液体をだしてしまった。

「これはいけない、すぐに止血をしなければ、手術室に運ぶぞ」

と、廊下で叫ぶ医師をうっすらと見ながら俺はブラックアウトした。
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