認知症の爺様。介護3になりました。なんでも忘れて、楽しくやってるよ。

蘇 陶華

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爺様・施設・パラダイス

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さて、爺様の不本意ながらの施設のお泊まり会がスタートしたのだが、僕らは、心配で仕方がなかった。だって、家にいる時に、兄と冷凍庫のアイスを巡って死闘が繰り広げられた日に、兄が
「施設に入れるぞ!」
泣きながら、罵声を浴びせたのだ。勿論、本心からではなく、何か決定的な事を爺様に言いたかっただけだと思うが、思いの外、爺様は、打撃を受けた。
「そんな事したら、俺は死ぬ」
真面目に受け答えたのだ。
「死ぬ?」
我が家では、死ぬとか、マイナスな発言は禁じられている。何故なら、兄が不穏になるからだ。案の定、兄が不穏になり、親父が爺様を本気で、咎めた。その位、爺様は、認知症になっても、施設に入る事を拒んだ。所が、どうだ?入院した婆様も、爺様の行く末を案じていたのに、こっそり、様子を見に行った親父と僕の目の前に、繰り広がっていたのは、年配のご婦人達に囲まれて上機嫌で、歌を口ずさむ爺様の姿だった。両脇に、6人ほどのご婦人を従えて。
「は?」
親父は、言葉を失った。両脇にいるご婦人達は、どう見ても、婆様より、年上だった。
「ついに、目も悪くなったか?」
あんなに心配したのに、爺様は、施設の生活を満喫していた。
「はい。皆さん歌の時間です」
歌の本を片手に、これから、歌の教室を始めるらしい。
「まじか・・・」
爺様は、満喫している。婆様は、入院中も、爺様の身の上を案じているのに。
「どうしても、女性のいる所に行ってしまうんですぅ」
職員さんが、苦笑いしていた。
「もう、家の事は、忘れたんでしょうか?」
その時、爺様の歌声が聞こえてきた。
「はい!はーい!パラダイス」
僕らは、力無く帰路についた。
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