それは、人に憑く。邪神備忘録

蘇 陶華

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この世に生まれて

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何処からの記憶なのか、僕はわからない。
霧に包まれていた。
白く何処までも。
母が亡くなった。
父は、そう言った。
僕の前で、泣き崩れてそう言った。
「颯太、ごめんな」
そう言うと、僕の手を引いて車に乗った。
車窓から見える外の景色。
僕には、家で何があったのか、覚えていなかった。
いつも、途中から、悲しい感情が湧き上がってくる。
「この子を助けて!」
母は、誰かに言った。
瞬間、炎が立ち上った。
光が視界を奪い、澄んでいたマンションは、炎に包まれた。
奇跡的にも、僕は、助けられた。
消防団員に、危機一髪だったと、父は聞いた。
あの日から、僕は、両親を無くした。
父は、僕に逢おうとしなくなったのだ。
何があったのか、僕が知りたい。
母の遺体は、出なかった。
母が家出した後の出火と片付けられた。
父は、何を恐れていたのか、僕に合わなくなっていた。
どうして。
僕は、まだ、幼く両親の庇護を求めていたのに。
「颯太・・・」
音羽の声が聞こえた。
頬を暖かい物が、流れ落ちた。
「気が付いた?」
邪神が、じっと、颯太を見下ろしていた。
音羽は、躊躇いながら、僕の頬を流れる涙を拭った。
「気が付いた?」
颯太の姿は、元の、穏やかな少年の姿に戻っていた。
「大体、察するに・・」
邪神は言った。
「こいつの正体を知っているのは、親父だな」
「知っていて、寺に放置した」
「わかるの?」
「手を引いて、寺まで、連れてくるか?寺の奴らも、知っていたんだよ」
「颯太が、何者かは、私は、知らない。けど・・」
「君の姉さんが、あれほど、敵視するって事は、君と関係あるようだな。しかも、今世ではないようだ。あの怒りは・・・」
「それは、確信がないの」
「先に消えてしまったら、覚えている訳がない」
「先に亡くなった?」
「そうだ。君は、先に亡くなっている」
「先に?」
「その後、何があったのか、見てみたいか?」
「見て・・・みたい」
音羽は、邪神の手を取った。
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