それは、人に憑く。邪神備忘録

蘇 陶華

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その剣を握る人

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剣先を握る手からは、鮮血が流れていたが、その者は、動じなかった。
左右、色の違う瞳が、不気味な光を放っていた。
「颯太は・・・」
ライバル視しながら、いざ、颯太が、ヤラレテシマッタとなると冷静では、いられなかった。
「どうした?颯太?嘘だろう?」
みんな、師匠達は、颯太を気に掛けていた。
自分が、どんなに頑張っても、皆の目は、颯太に向けられていた。
封雲は、そう、感じていた。
実際、師匠達が、何を隠していたのか、その時の封雲に、知るよしもなかった。
「どこ行った?」
剣を握っていた砂羽は、忌々しく呟いた。
辺りを見回すが、颯太らしい人間は、見当たらない。
目の前にいるのは、全身を羽毛に覆い尽くされた、化物しかいない。
「お前は、何者だ?どうして、私の剣先を握る?」
砂羽は、自分の剣を握る化け物が許せなかった。
忌々しい人間。妹を陥れた人間を、八つ裂きにしたかったのに、急に現れた化け物が、自分の剣を握っている。
「離せ!」
さっさと離してもらい、あの人間を探して、殺してやりたい。
砂羽は、辺りを探すが、一向に見つからない。
「どこだ?」
イライラしながら、見回すが、握られた剣が邪魔して、身動きが取れない。
「離せ!」
と言うが、離す訳がない。
それどころか、剣をますます強く握る。
砂羽の剣は、巨大だ。神器とも言われている。
刃は、両側にあり、剣に漂う殺気だけで、近くの者を負傷させた。
それなのに、この化け物は、剣を離すどころか、もの凄い力で、砂羽の手から、剣を抜こうとしている。
剣を握る両手からは、鮮血が噴き出ている。
「離さないと、お前も殺すことになる」
砂羽は、その化け物を先に、切り裂こうと、握られたまま、剣を振り上げようとする。
「まさか・・・一緒に、持ち上げるのか?」
封雲は、息を呑んだ。
砂羽は、怪力で、剣ごと化け物を持ち上げる気だ。
「お・・い」
声をあげそうになった封雲。
嘲笑うように、砂羽は、化け物ごと、持ち上げ、中から地面に叩きつける気だ。
「なんて、奴だ」
砂羽を怒らせてしまった事を封雲は、後悔した。
物凄い力で、剣ごと、化け物を持ち上げ、宙に振り上げる。
このまま、殺す気か?意外に、あの化け物は、弱い。
そう思った瞬間、化け物の背中から、2枚の羽根が、突き出てきた。
「へ?」
封雲が、呆気に取られているうちに、その化け物は、宙に飛び上がった。
羽毛に覆われた中からは、恐ろしい顔がのぞき、避けて口先が見えていた。
「辞めて!」
悲鳴が、宙に響いた。
一瞬、その化け物が、怯んだ気がした。
砂羽が、声の主に気がついて、顔をあげた。
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