それは、人に憑く。邪神備忘録

蘇 陶華

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僕は、生き残る為に鬼になるのか?

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このバスは、二度と平和な世界に戻してくれないだろう。
封雲。
僕は、友達だと思っていた。
「だから、お前は、甘い」
そう音羽が、よく言っていた。
ごめん。
失敗だ。
ずっと、音羽に頼っていた。
あの日から。
君がいないと、僕は、ただの人間になるみたいだ。
「悪いな」
封雲は、飛びかかってきた。
僕の右手の数珠目掛けて。
「離せ!」
数珠は、人間には、効き目がない。
飛びかかる封雲には、何も、効かない。
僕は、怯んだ。
どうすればいいんだ。
呪術を使えと?
いつも、音羽に頼りすぎた。
今、僕の身を守るのは、誰もいない。
僕のみ。
飛びかかる封雲を、援護するのか、
闇から、得体の知れない獣達が、群れをなし、飛び出してきた。
僕は、封雲から、逃げながら、獣達を、切り裂いていく。
数珠は、僕の右手が、印を結ぶのと同時に、光の矢を生んでいく。
「しっ!」
強く吐く、息に合わせて、獣達を襲う矢と化す。
「どうしても、それを離さないか?」
「離せる訳がない」
「結局、師匠も、お前が一番、可愛かったんだな」
「そんな事ない。封雲だって、可愛がられていただろう?」
「そんな事あるか?それが、証拠だろう?」
封雲の足は、早い。
逃げ回る僕に、追いつくのも、すぐだ。
バスから、僕らは、飛び出し、山麓を目指していた。
この先は、ダムだ。
多くの生き物を沈めたダム。
そこには、多くの怨霊が眠っている。
今、僕らが、そこに、向かうのは、危険だ。
怨霊の力が、災いする。
「颯太。そいつを渡せ。お前には、危険だ」
「封雲こそ。絶対、大丈夫と言えるか?」
「それは、霊の力で、退魔する。今のお前には、扱えない。よこすんだ」
寺の僧侶であり、師匠が、僕に託した数珠。
ただの数珠ではなく、僕に退魔師の力を授けてくれたのだが、
毒を持って、毒を制す。
危険な道具でも遭った。
僕の力が、弱まったら、この数珠に吸収されてしまう。
今までは、音羽の力を借りていたから、制御できていた。
だけど。
今は。
「颯太!離せ!ダムの底には!」
ダムにたどり着いた、その時、封雲は、叫んだ。
だけど、その声は、水面を弾く音にかき消されていった。
「!」
ダムの中央に、姿を現したのは、緑色の鱗に覆われた巨大な蛟だった。
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