それは、人に憑く。邪神備忘録

蘇 陶華

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闇よ聞け。今、切り裂く声を。

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封雲は、どんな奴なのか。
故郷に戻る間、僕は、息を潜めて様子を見ていた。
変わらず、音楽を聴いたり、歌を口ずさんだり、昔と変わらない。
だけど、僕の心が叫ぶ。
これは、危険なカードだと。
右手の数珠が、鈍い光を放つ。
「いつか、お前を倒して、俺の式神にしてやる」
ふとした拍子に言ったよね。
僕は、あの時、夢の中で、まどろんでいた。
聴いていたなんて、思ってないよね。
僕らは、兄弟の様に仲が、睦まじいと思っていた。
競争相手で、一番の友達で。
どうして、君は、故郷の山寺が、無くなったと言いに来た。
音羽がいなくなったタイミングで。
あれほど、逢いたくても、現れなかったのに。
「封雲。このバスは、寺に向かっているの?」
「寺はもうない。だから、そこには、向かわない」
「どこに、向かっているの」
バスの乗客は、僕と封雲だけになっていた。
運転している高齢の男性も、人とは、思えなくなっていた。
夜が来る。
まだ、昼間だと言うのに。
神無鬼有の地に、近づく事に、大勢の獣に見られている気がしてきた。
「封雲は、どうしたいの」
僕の座席の前で、音楽を聴いている封雲に聞いた。
「どうやって、寺が無くなった事を知ったの」
僕は、身構える。
前に座っている封雲の表情が変わるのを予期して。
「連絡が来たのさ」
「連絡?寺とは、もう、行き来してないと言ったよね」
「使い魔が来た」
「寺は、全滅したと聞いたよ」
「ふ・・」
封雲は、笑った。
「昔から、何かと癪に触るんだよな」
顔を上げた封雲の表情は、僕の知っている顔ではなかった。
「あと少しなんだ。神無鬼有まで、静かにしていてくれればよかったの」
封雲は、僕の数珠を見ていた。
「それを、僕に譲ってくれないか?」
僕は、右手を隠した。
「そう。隠すなって。無理には、盗らないよ・・・てか、取れないだろう?それは、お前の体の一部だよな」
僕の腕で、数珠の一粒一粒が、蠢いていく。
「そうだよ。お前自身が必要なんだ。最後の一仕事なんだ」
バスが、静かに停まった。
「最後の、お前へとお願いだ。黙って、ここから降りてくれ」
「封雲。僕は、君と戦わなくては、ならないの?」
「そうしたくはないんだ。だけど、約束があってね。僕にも、守る者は、ある」
僕は、闇に潜む者達が、群れをなず中に、降り立った。
「颯太。それをくれるなら、助けてやる。だけど、そうでないなら・・・」
「この者達の、好きにさせるって事か・・」
僕は、周りを見まわした。
闇は、深く、息を潜める者は、多数ある。
ここで、僕程度の除霊師が、勝てる訳がない・・・。
「それを離せよ。颯太」
僕は、右手を見下ろしていた。
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