それは、人に憑く。邪神備忘録

蘇 陶華

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その者、日常を破る奴

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突然の悲鳴に、颯太と音羽は、顔を見合わせた。
悲鳴は、次第に大きくなり、ザワザワと人の波が動いていくのが、わかる。
「これは、どうかな。」
晴は、顎をそっと撫でると笑う。
「だから・・・言ったろう。あの通路は、塞がないとダメなんだ」
「何がだよ」
音羽が、毒気づく。
「おっと、怖いな。君がチラチラ出てくると」
「黙らんか」
邪神が、チラチラ出てくるので、首輪を閉める。
「通路を塞げって」
「今まで、何も起きなかったのに」
音羽が、悔しそうに、写真を見下ろす。
「お前・・」
にやっと笑う邪神。
「通路を、開いたな」
そう言うと、音羽は、邪神の首輪を、掴み上げた。
「覗くふりして、入り口を開いたな」
「だって・・・あいつが、向こうに行きたがって居たから」
邪神は、颯太を指差す。
「こんな所に通路を隠しているからだよ。わかっているか?こいつも、結局は」
「それ以上は、言うな」
険しい顔つきで、迫る音羽。
「お前を読んだのは、力を借りるだけ。颯太に害があるなら、お前をあっちに、閉じ込めるくらいできる」
「お前に、できるか?ただの幽霊だろう?」
邪神は、薄笑いを浮かべながら、音羽を見上げる。
「ふ・・・」
音羽は、何か、言いたそうにしたが、僕の顔を見ると、目線を外に向けた。
「颯太。外に行くぞ」
「外に?」
外には、ザワザワとした人の波が動く気配がある。
「やってくれたな」
音羽は、そう言うと、窓の外に飛び出ていった。

いつもと変わらない日常。
颯太にとっては、依頼を受けた除霊を、週に1~2回こなす、学業と両立した世界だった。見ようとしない人達には、変わらない世界だった。筈だ。
だが、現在は、邪神が颯太の寝室の天井にあった通路から、溢れ出た百鬼が、町中を闊歩し出していた。
「こんな事・・」
颯太は、マンションから、飛び出ると、その光景に、息を呑んだ。
行き交う人達が、百鬼とはいえ、人ならざる者に襲われ、逃げ惑っていた。
「これは、真実なの?」
「今まで、見えなかった者が、見えるようになっただけ」
音羽は、自分の着物の袖に手を入れた。
「音羽。どうするつもり?」
「いつもと、変わらない」
音羽は、袖の中から、取り出した巻物を颯太に渡した。
「真実ではない。ここから、召喚された百鬼だ。いつもの通り、この中に戻して行くんだ颯太」
「大丈夫だよ。」
颯太は、数珠をはめた右手で、巻物を受け取った。
「音羽は、どうするの」
笑う音羽の口が、耳まで、裂ける。
「送り出すだけだ」
霊と高校生が、百鬼に向かって行く。
その光景を邪神、晴は、マンションの窓辺に座って、笑いながら、見下ろしていた。
「どこまで、できるか、見せてもらうよ」
長く黒い爪で、髪を掻き上げる。
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