それは、人に憑く。邪神備忘録

蘇 陶華

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頭上に広がる異界の入り口に気が付かない。

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「何、睨んでるんだよ」
罵声に、颯太は、晴と一緒に見上げた。
「晴先生、誰に言っているの?」
「全く、ムカつく」
「先生。古典の先生がそんな言葉、使って・・・」
「あぁ・・・もう!」
晴は、頭に血が登ったのか、右手を大きく振りかざすと、大きくジャンプをしたのだった。
「届く・・・訳・・あれ?」
颯太は、目を疑った。
勢いをつけた晴の体が、中に浮かび、天井の真ん中に、手を付けていた。
「先生!」
何もない天井の真ん中を叩き始める。
「先生。壊さないで・・ください!」
ライトの辺りを、虫でも叩くかのように、叩き回る。
揺れる天井から、埃が落ちる。
「一体、何があると言うんです?」
見た所、天井には、何もない。
異常があるとすれば、音羽と同じく、宙に浮かぶ晴。
「なんで、こんな穴空いてる?」
「穴なんて!空いて・・・」
颯太が、そう言いながら、見上げた瞬間、天井一杯に、大きな闇が広がっていく。
「おぉぉ・・・?どういう」
闇は、広がり、目が慣れてくると次第に、その闇の中には、瞬く星の光がある事に気がついた。
「どんでもない入り口があったな」
天井いっぱいの闇の入り口を確認すると、静かに床に降り立つ晴。
「ハハ・・・こんな上に?僕は、気が付かずに。寝ていたって訳?」
「お前だけではない」
天井下のベッドに、音羽は、腰かけていた。
「全く気が付かなかった」
「音羽も?」
「ただの霊にわかるか?」
唇の端を歪めて、笑う晴先生。あの先生の人格ではない。
邪神の顔だ。
顔半分のオッドアイが、何よりの証拠だ。
「こんな入り口を隠しておくなんてな」
音羽に言う。
「ただの霊にしては、なかなかやるな」
金の首輪をはめられた事が不満らしい。
「もしかして、ただの霊ではないのか?」
「お前に、答える義務はない」
一瞬、音羽と晴が、睨み合った気がした。
「お前が、この入り口の門番なのか?」
晴は、その目を颯太に向けた。
「甘くていい匂いが、この向こうから、漂ってくる。この世界を、ただの人間の坊主が、独占していたとはな」
「甘くて・・・いい匂い?」
「まともに聞くな。」
音羽が、制した。
「奴に取って、いい匂いとは、血の臭いだ。あの顔を見ろ!」
晴の顔は、生き生きと輝き、口元は、大きく避けていた。
今にも、口元から、涎が、こぼれ落ちそうである。
「素晴らしい。私は、ここに住もう。こんないい場所が、ここにあるなんて」
「音羽。どう言う事?僕は、知らないで、ここの下で、寝ていたって事?」
「わしも・・・初めてじゃ」
音羽は、ポツンと呟いた。
「お前のいわくつきの部屋に、こんな入り口があったなんて・・・」
「ここは・・・母さんが、大量の血を残して、いなくなった部屋。」
「いなくなったね・・」
晴は、颯太を見た。
「いなくなったのは、自分の意志なのか?それとも、死んだのか?だとしたら、遺体は、何処にあるのか?答えは、この向こうにあるな」
「この向こうに、母さんがいるかもしれないのか?」
天井の向こうの世界に、今、すぐにでも、飛び込もうとすると、
「やめろ・・」
音羽が、颯太を止める。
「生身の人間の行ける場所ではない。行くな」
「でも・・」
颯太は、晴の顔を見た。
「向こうに、母さんがいるかもしれないんでしょう?」
「邪神の口車に乗るな!」
颯太が、晴の顔を見ると、少し、薄く笑う様子が見えた。
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