それは、人に憑く。邪神備忘録

蘇 陶華

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家に残る母の影

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「一体、僕は、どうしたんだ?」
ドラマでもある、そんなセリフが出ると、僕は、思った。
ようやく、晴先生は、目を覚ました。
「ん?」
僕の顔を見るなり、両手を口にあわてて、
「おぇぇ!」
慌てて、立ち上がり、洗面所を探し始めた。
「ちょっと!」
宙に隠れる音羽を恨めしく、思いながら、後を追う。
「こっち、こっち」
変な所で、吐かれては、困る。
僕は、晴先生の、衣服の裾を引っ張る。
「なんで?なんで?」
そう聞きたいのは、僕だよ。
泣きそうになりながら、トイレを案内する。
「どうしたかね?」
音羽が、ひょっこり、顔を出す。
「僕が聞きたいよ」
床に、飛び出した嘔吐物を片付けながら、僕は、半泣きだった。
「うまく、融合できないのか」
「融合???」
僕は、トイレで便器を抱え、うずくまる晴先生の、背中を見下ろす。
「大丈夫ですか?」
「気持ち悪い・・・」
「何か、あたったんですか?」
「お前・・・誰?」
くるっと、振り向き、僕の顔を見るなり、叫ぶ。
「誰?」
そう言われるのは、仕方がない。僕の事は、よく知らないはずなのだ。
「えぇっと・・・・この間、お邪魔させていただいて・・」
初めて、自宅に、行った時の事を説明したが、全く、覚えていないようだった。
「何で、ここに?」
音羽が、さらったせいで、霊場に落とされた事を、全く、覚えていない。
「えっと・・・」
不自然と思いながら、たまたま、乗り合わせた新幹線で、気分不快になった先生を自宅に、連れ帰ったと、説明をした。
「僕が?」
「は・・い」
僕は、不自然に返事をした。
「本当に?」
「はい」
「本当かな」
「いや・・・僕は、わからないです」
面倒なって、僕は、それ以上、言わない事にした。
ふと、晴先生が、トイレから、リビングに戻る途中、奥の寝室を気にかけている様子が、見えた。
「先生・・どうしたんです?」
晴先生は、奥の部屋の扉をじっと見ている。
「あの部屋は?」
「僕の部屋ですけど」
晴先生は、ふうんと鼻を鳴らし、向かって歩いていく。
「あの・・・ちょっと、困るんですけど」
その部屋は、今は、僕が使っている。
だけど、そもそも、その部屋は、母が殺された部屋で、その部屋には・・・。
「何かあるだろう?」
晴先生は、僕の顔をじっと見つめた。
「泣いている女性がいるんだけど・・」
僕には、見えない何かを晴先生は、話し始めた。
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